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21さっそく使ってみた

 教室に戻ると、クラスの女子たちに囲まれた。


「いったい、どこに行っていたの?」


「まさか、保健室とかじゃないよね?抜け駆けはダメだよ」


「えええ、それはないでしょ。その格好で行くのはまずいよ」


「オレを置いてどこに行っていた?」


 女子たちに紛れて、男の声も混ざっていた。そういえば、うざい男が一人いたことを忘れていた。


「あ、あのもうすぐ昼休みが終わるから……」


 ちょっと昼休みに教室を抜け出しただけで、戻るとこのありさまでは、先の高校生活が不安になってくる。とはいえ、転校するのもなんだか負けた気がするので、なんとか食らいついていくことにしよう。とりあえず、教室の壁に掛けられている時計を指さして、時刻を指摘する。事実、5時限目の授業はもう間もなく始まろうとしていた。




「では、明日また、会いましょう」


 午後の授業も何とか終わり、放課後となった。さて、これから私はどう行動すべきか。おススメ商品を勧められたとして、それを試すのは自分の家でありたい。シャンプーがカバンの中で存在感を主張している。


『ねえ、今日こそ、放課後』


「お断りします」


 いつまで同じ会話を続けるつもりだろうか。とはいえ、私だってこの学校に順応するために頭を使おうとは思っている。妥協案を提示することにした。


「あの、放課後はお母さんの家事の手伝いがしたいから、さっさと、いや、すぐに帰りたいの。だから、その、津谷さんみたいにオススメ商品だけ渡してもらえれば、家でためしてみ」


「そうだったの。道理で容姿にお金がかかっていなさそうだったわけだ」


「なら、なおさら、私たちのプロデュースが必要ね」


「わかった。じゃあ、私のオススメ商品を渡すから」


 なぜか、こんな嘘くさい言い訳が彼女たちに通用してしまった。意味が分からない。しかも、彼女たちのお節介に火をつけてしまったようだ。自分でも彼女たちオススメの商品を使うとは言ったが、それにしても私に対して驚きの執着具合である。


「私は洗顔料」


「私はダイエットサプリ」


「私は脱毛剤」


「私はナイトブラ」


「あ、ありがとう?」


 こうして、私はカバンに彼女たちオススメノ商品を詰め込み、帰宅するのだった。シャンプーの件同様、なぜ学校にそんなものを持ってきているのか。というのは突っ込んではいけない。




「ただいまあ」


 帰りの電車では、私の幼馴染らしき人物に会うことはなかった。最初の日だけ、偶然時間が被ってしまったのだろう。これからも、会わないことを祈るのみだ。


「おかえり」


「ねえ、今日もまた先にお風呂に入ってもいい?」


「別に構わないけど。今から準備するから、着替えてきなさい」


 家に帰ると、どっと疲れが出て玄関で倒れそうになる。それでも玄関から帰宅の挨拶をすると母親が出迎えてきてくれたため、なんとか風呂に入りたいことを伝えることができた。



「はあああああ」


「ため息ばっかり吐いていると、幸せが逃げるんだって。だとしたら、かず姉の幸せは逃げまくりじゃん。ていうか、そのかばんの中身どうしたの?朝はそんなにパンパンじゃなかったよね」


「睦樹も試してみる?今時、男も美を追求した方がいいかもよ」


 階段をゆっくりと上がっていると玄関が開く音がする。振り返ると、睦樹が学校から帰宅したようだ。階下から声をかけられた。今日もまた弟の方が遅い帰宅のようだ。なぜ、中学生の弟より、電車通学の高校生の私の方が帰宅が早いのか。きっと、弟は学校で楽しくやっているのだろう。そう思うことにした。


「もしかして、カバンの中全部」


「弟よ、一つ、試してみるのも」


「お断りします」


 どこかで聞いたことのあるセリフをはいて、弟は私の横を通り過ぎて階段を上がって自室に駆け込んでいく。断られてしまった。




「これかあ。うん、仕方ない」


 風呂が入ったよと母親に言われたため、私は彼女たちのオススメ商品を持って脱衣所に向かう。母親に怪しげな視線を向けられたが、愛想笑いでごまかした。この量の商品をすべて学校で借りた?もらったとは言い難い。とはいえ、きっと母親は気付いているだろう。弟だって気付いたのだ。母親ならすぐにわかるはずだ。


 まずは洗顔から試してみることにした。彼女たちは私に商品のプレゼンも忘れてはいなかった。この洗顔料を勧めてきたのは、御手洗みたらいさんという名前の女子だった。なんでも、この洗顔料を使うと、毛穴の汚れまでしっかりと落ちるのだそうだ。洗顔料を手に出し、顔につけると、シュワシュワと炭酸のように泡がはじけていく。


「まあ、気持ちいいけど……」


 よく考えたら、私はまだ高校生で化粧をする年齢でもない。別にまったくしないというわけではないが、毎日というわけでもない。ましてや、つい二年前までは中学生だったのだ。そこまで化粧汚れが顔にたまっているとは思えない。気持ちは良かったが、洗顔後、浴室の鏡で顔を確認するが、劇的に白くなることはなかった。


 そういえば、彼女たちは化粧をしていたのだろうか。そこまで考える余裕がなかった。もしかしたら、かなりの厚化粧で肌のシミなどをごまかしているのかもしれない。いや、そんなことはないと頭では理解しているが、もしかしたらという可能性がある。とはいえ、考えても意味のないことだ。その辺の事情は考えないことにした。


 顔を洗い終えたら、次は髪の毛である。おススメされたシャンプーを開けて手に取ってみる。匂いはラベンダーの香りだった。とりあえず髪にもみこんで泡立てて洗ってみる。そして、そのまま洗い流し、トリートメントもつけてみる。シャンプーをもらったと言ったが、実はトリートメントも放課後に忘れていたと言って、渡してくれた。カバンにシャンプーとトリートメントをセットで持ち歩いているようだ。


「うん。まあ、つやつやにはなったかな」


 私は髪の毛がショートなので、すぐに髪は洗い終わる。洗い終わっての髪の手触りは、確かにつやが出てきたような気がする。後は、風呂から出た後に、髪を乾かしてからの様子見である。


「あと試さなくてはいけないのは……」


 洗顔をして髪の毛を洗った。後風呂場でやらなくてはいけないことは。


「脱毛するの、忘れてた……」


 そういえば、昨日も一昨日もやらなくてはいけないと思いつつも、面倒くささが勝り、さぼっていたことを思い出す。とはいえ、脱毛は、風呂に入って最初に行うことではなかろうか。すでに顔も髪の毛も洗い終えてしまった。仕方ないので、脱毛クリームを試すのは明日以降の持ち越しとなった。


 ということで、もらった商品で、風呂場で使用する商品は使い終えた。私は身体をボディソープを使って洗い、湯船につかる。やはり、湯船につかって全身を温めるのは気持ちが良い。


「ふうう」


 全身が温まると急に眠気が襲ってくる。このままでは風呂場で寝てしまう。10分程湯船につかり、私は風呂から上がることにした。


 風呂から出たら、肌の保湿が肝心である。保湿用の化粧水や乳液も実は彼女たちからもらっている。とりあえず、もらったものを一つずつ試していく。化粧水と乳液を順番に顔に塗っていく。


「まあ、こんなものかな」


 いろいろ彼女たちからオススメされた商品を試し終えた私は、脱衣所を出てリビングに向かう。鏡に映る私の姿は今までの私よりは多少、キレイに見えた。




 リビングで髪を乾かしていると、ちょうど夕食ができたようだ。母親が私に近づいてくる。


「あら、ずいぶんと髪にツヤが出ているみたいね。シャンプーを変えたの?でも、お母さんはその匂いはあまり好きではないけど」


「そろそろ夕飯の時間だと思ったんだけど、うわ、何その甘ったるい香り、かず姉のイメージに合わないから、やめた方がいいよ」


 ドライヤーの音で聞こえにくいとはいえ、母親と弟の声はばっちりと私の耳に届いていた。


「これ、クラスメイトのオススメシャンプーなんだけど。使うのはやめた方がいいかな?」


オレは反対ね(だ)!』


 彼女たちの感想を聞くに反対されるだろうとは思ったが、ドライヤーを止めて反応を改めて確かめる。すると、二人は生きのハモった返答をくれた。


「わかった。じゃあ、このシャンプーは今後使うのはやめておく。後は、顔についてはどう思う?」


「多少は白くなった?ように見える」


「まあ、悪くはないんじゃないかしら?とはいえ、もし使うとなるのなら、値段よねえ」


 シャンプーの反応はいまいちだったが、洗顔料や化粧水などの顔につけるものはまあまあの評価だった。


「でもさ、顔と髪はいいけど、毛はあきらめたの?」


「うっ」


 私がクラスの女子からいろいろオススメ商品をもらってきて試してきているのを知り、当然の疑問を弟は私に投げかける。


「ああ、だよねえ。やっぱ、最初にやらなくちゃいけないのは脱毛だったね。うっかりしてて、忘れてた」


『うわあ』


 二人にドン引きした目で見られてしまった。わたしだって、脱毛を忘れていたわけではない。ただ、風呂に入ってすぐに洗顔を始めてしまい、その流れで髪を洗ってしまっただけだ。脱毛のタイミングを失ってしまったのだ。



「まあまあ、面倒くさいのはわかるから、今日はもういいんじゃないの?まだ半そでの時期はもう少し先だし」


「オレも別に女子なのに毛の処理甘いとかいうつもりないし。だって、しず姉とか、堂々と『面倒くさいから、お前はツルツルじゃない女子みても、ドン引きするなよ』って釘刺されたし」


「二人とも……」


「ただいまあ。おや、和子、風呂に入ったんだね。シャンプーを変えたのかな?いい香りだね。お父さんは好きな香りだな。でも、毛の処理はきちんとした方がいいと思うよ」



『だまれ、くそ親父』


 私が二人の言葉をかみしめていると、父親が帰宅したのかリビングにやってきた。そして、私としては最も聞きたくない言葉をかけられる。つい、暴言が口からこぼれていた。しかし、それは母親と弟も同じ気持ちだったようだ。帰宅早々、父親は私たち家族に怒鳴られるのだった。

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