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15高校設立秘話と……

「もともと、この学校はある社会的実験をするために作られた学校らしい。僕も最初は知らなかったんだ。和子とお母さんと一緒に高校に挨拶に行ったあの日に、理事長室で聞かされて初めて知った」


 父親が観念したように高校について説明を始めた。私と母親は黙って頷き、先を促した。


「それが『クラス全員美少女だよ計画』で……」


「ちょ、ちょっとまて」


 黙って話を聞こうとしたのに、突っ込まずにはいられない。いったい、どんな壮大な実験が行われていたのかと思えば、とんでもなくくだらないものだった。誰が考案して誰がその計画を承認したのか気になるところだ。


「まあまあ、和子が驚くのも無理はない。僕も最初に内容を聞いた時は驚いたよ。そんなどうでもいい計画のために、生徒や先生を巻き込むなんてひどい奴もいたものだと。でも、計画の全容を聞かされると、なるほどと納得できる部分もあったんだ」


「結局、お前もロリコン爺だったわけだ」


 いつの間にかキッチンに向かったのか、母親の手にはなぜかワインの瓶が握られていた。父親が少し奮発して買ったと言っていた高級ワインだ。にっこり微笑んだ母親が中身の入った瓶をこれ見よがしに見せつける。まるで、これ以上下手なことを言ったら、この便で撲殺するぞ、とでも言っているかのようだ。


「ち、違うよ。僕はロリコンではないから安心して。それと、話は最後まで聞いてほしい」


 慌てて弁解するため口を開く父親に、母親がワイン瓶を手に持ったまま、早く話せと目線だけで圧をかける。


「ええと、そうだな。和子やお母さんも動画を見ているときに、途中でいろいろな広告が入ってくるのは知っているだろう?」


「話をそらそうとしても無駄よ」


「いや、大いに関係があるんだ」


 広告動画。


 その言葉を聞いて、私はある広告動画を思い出す。もしかして、その動画とクラスの女子たちに関係があるとしたら。転校してから二日間だけしか通っていないが、可能性は否定できない。


「広告に美容系の商品宣伝が入っていることがあるだろう?実はその広告と和子の転校先の高校は関係がある」


 父親が簡単に計画の内容を教えてくれる。



「美容系広告動画を出している会社たちが、自分たちの商品の効果をもっと世に広めたいと思って、その方法を考えていた。そこに目をつけたのが、この高校を設立した理事長だった。彼は、もともと女性の美について日ごろから追及していて、もし商品を試した女性たちを同じ高校に集めたらどうなるのだろうと考えた。そこからこの計画はスタートした。もちろん、反対意見も多数出て、到底高校を設立することはできないはずだった」


 やはり、私が予想していたことは当たっていた。それにしても、ずいぶんとふざけた理事長である。そんな自分の興味本位で高校を設立してしまうなんて、頭がおかしい。いや、頭がおかしいからこそ、この高校が設立したのだ。


「それなのに高校は無事、設立された。なぜだと思う?実は」


「なんか面白そうな話をしているね?」


「僕たちにも聞かせてよ」


 せっかく私の高校の誕生秘話が聞けるというのに、邪魔が入った。自室でくつろいでいたはずの姉と弟がリビングにやってきた。時計を見ると、そろそろ夕食を終えてから一時間が経とうとしていた。我が家では、夕食後一時間後くらいには、順番に入浴する習慣があり、それで階下に降りてきたのだろう。タイミングが悪い。


「和子の高校について、お父さんに問い詰めていたの。どうやら、お父さんは私たちに高校について、秘密にしていたことがあるみたい」


「それはヒドイね。ということは、かず姉の謎の美女集団についても、理由があったってこと?」


「そう言うことだよね。何々、やっぱり、私立校ってどこも訳ありな感じ?」


 母親はなぜか、兄妹二人にも私の高校に秘密があることを暴露していた。二人は興味津々で身を乗り出してきた。


「ねえ、高校に通っているのは私で、私が当事者になるんだけど……」


『気にしない、気にしない』


 はあとため息をはいて、父親を見ると同じようにため息を吐いて苦笑する。そして、話を再開させた。


「話を戻すけど、和子が通っている高校が設立したのは、設立に賛成した人たちがみんな、美少女好きのロリコンだったんだ。そして残念なことに、彼らは社会的地位もお金も権力も充分に兼ね備えた人間たちだった。だから、学校は設立してしまった」




『ああ、うん。そういうこと』


 父親以外の心の声が一致した。


 ずいぶんと不純な理由で高校が作られたものだ。マンガとかである、生徒会を私物化して最終的に学校全体を支配する、みたいなものだろうか、いや、規模はもっと大きいが、自分の趣味全開の場所を作ってしまったという点では同じかもしれない。


「でも、学校はできたとしても、問題は生徒集めだよね。和子たちも不思議に思うだろう?そんな不純な動機でできた学校に、生徒なんか集まるものかって」


 確かに、いくら学校が建設されても生徒が集められなければ意味がない。しかも、理事長の集めたい生徒は、美少女たちである。そんな都合よく生徒が集まるとは思えない。とはいえ、実際には美少女たち、さらには男性も先生も、美を追求したと思われる美のクローンたちで揃えられている。


 私が考えている間にも、父親の話は進んでいく。



「理事長は生徒たちにある条件を付けることにした。その条件を満たした生徒に対して、授業料を免除することにしたんだ。まあ、そんなことをすれば、学校運営の資金をどうやってやりくりするのか不思議だったんだけど」


「和子の話から、なんとなく条件とやらは想像できたわ。高校の資金源もわかってきた気がする」


「お母さんと同じく、私もわかっちゃった」


「僕はそんなくそみたいな学校に通うことにならなくてほっとした」


 じっと、父親以外の家族全員が私を見つめる。まるで、私に父親の言葉の答え合わせをしろと脅されているようだ、視線の圧がすごくて、私はため息を吐きながら思っていることを口にした。


「ええと、クラスの女子の会話とお父さんの話から推測すると……」


『推測すると』


「あの、高校に入れる条件は、実際に美容系動画を試して美少女になった女性、もしくは男性。資金源は提携先の美容系広告を出している商品の販売会社、とか?あははは」


 最後の言葉はなぜか疑問形になってしまった。家族のあまりにも真剣な瞳にしり込みしてしまい、乾いた笑いも漏れてしまう。


「さすが私の娘だね。完璧な答えだよ。特に補足することはないかな」


「でも、そうだとしたら、疑問に残ることがあるのだけど」


 私ではなく母親が父親に質問する。疑問に残ると言えば、私も一つあったのだが、この調子だとすぐに解決しそうだったので、口をはさむことはしなかった。



「ああ、なんで和子がこの学校に入学できたとか言うことかい?そんなのは簡単な話だ」


『クラスに美少女ばかりで飽きてきたところだ。たまには、美少女になる前の少女を高校に投入してどんな感じに彼女が変化するのか、その生徒がクラスにどんな影響をもたらすのかが見てみたい』


 父親が遠い目をしていた。さすがにそこまであけすけに、これから入学する生徒を言うわけがないが、同じようなことを理事長に言われたのだろう。


「だから、私は彼女たちに自分が生まれ変わるきっかけとなった商品をあんなに怖いほど勧められたというわけか」


「すいません」


「うわあ、そんな実験のために作られた高校に、うちの可愛い娘を編入させたのか。このくそ親父は」


「ないわあ。普通、そんな大事なことを言わずに転校させる?」


「これはかず姉が可哀想だよ」



 ぼそりとつぶやいた言葉に家族全員が反応する。話が不穏な流れになってきたが、学校の体質がわかってきたということは、転校することに父親は賛成ということだろうか。


「ねえ、そうだとしたら、私はあの学校を転校してもいいの?」


 もともと、あの学校に転校することに特に思い入れはなかった。そもそも、転校が多いので、大して学校自体に興味があるわけではない。どこの学校だとしても、そこそこ順応できると思っていた。だからこそ、今回の転校については、両親に任せて自分自身で高校についての事前調査はしていなかった。


 しかし、それが結果的に悪い方向に行ってしまったのだろう。とはいえ、普通、転校先がそんな特殊な学校だとは思うまい。


「まあ、ここまで学校のことを話してしまったら、転校したくなるのも無理はないだろうね。話す前から転校したいと言っていたし、僕は和子の意志に従うよ」


 よかった。どうやら、転校してもいいという許可が出たようだ。ほっと安どしていると、横から私も忘れていた疑問が弟の口から飛び出した。


「ところで、どうしてそんな変な高校を姉ちゃんに勧めたの?今までかず姉は県立の普通の進学校に通っていたでしょう?それなのに、いきなり私立の訳の分からない高校に行かせたのはなぜ?」


「それ、私も気になってた。引っ越しの話は聞いていたけど、どうしてかなって。近くに他の県立の進学校とかもあるのに、変だなと思っていたの」


「ええとね」


 睦樹としず姉の言葉に、急に目が泳ぎ出した父親。じとりとした視線を送る私たち家族に突然、父親はイスから立ち上がり、リビングのフローリングにスライディング土下座した。


「申し訳ない!」


 なんとなく理由に予想がついた私たちは、父親を死なない程度に言葉と暴力で攻め立てた。それに対してくそ親父は抵抗することはなかった。

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