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人間の形  作者: 帆摘
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籠る3

「センセ、クライアントの木村さんがお見えになりましたよ。」アポイントの時間を分ほど過ぎた頃、三村君が木村さんの来訪を告げにきた。

応接室に入って来た彼女はうつむきがちにソファーに腰掛けた。以前に会った時と比べて今日はいささか態度がおかしい。

「木村さん・・?」

私の声に顔を上げた彼女の目の回りにはくっきりとした黒い痣があった。

「どうなされたのですか?その顔・・」


「なんでもないんです。えっと、その、不注意でこけてしまって。その気にしないでください。」おどおどと彼女が言い募る。

「・・そうですか。いえ、本当に大丈夫ならかまわないのですが・・・。」どうみてもそれは転んでできるような痣ではない。殴られた痕だろう。だが本人が話したくないのであれば今はまだ無理に聞き出すことは避けた。


「早く顔の腫れが引くと良いですね・・お大事にしてください。さて、木村さん、前回の訪問から1週間経ちますが、息子さんの様子はいかがですか?何か進展はありましたか?」


「いえ・・何も。」

「そうですか・・。まあ3年もの間引きこもっていてこの1週間で何か進展があったかと言う方がおかしいですよね。今回私の方からいくつか質問と提案があるのですが、お話しても宜しいでしょうか?」

「え、ええ。」

「以前息子さんの引きこもりになった原因について、木村さんは心当たりがないとおっしゃっていましたが、とある筋から3年前に彼が引きこもる前にお付き合いをされていた女性がいたと聞いたのですが、木村さんは何かご存知ですか?」


「ええ、居ましたよ。本当に申し分のないお嬢さんで、私も夫もいつ結婚するのかとそれはそれは楽しみにしていたんです。それなのに・・何が不満なのか突如引きこもるようになってしまい、そのお嬢さんとの婚約も駄目になってしまったんです。」


「失礼ですが、そのお嬢さんはどういうきっかけで息子さんと婚約する運びとなったのですか?」

「息子が以前勤めていた銀行の頭取のお穣さんで、ある筋を通してお見合いさせたんです。」

「つまり、あなた方がお見合いをセッティングされて婚約されたんですか?」

「そうです。」


「・・息子さんはその婚約には乗り気だったんですか?」

「もちろんですよ! 本当にこれ以上ない良縁でゆくゆくは私たち夫婦とも同居することに賛成してくれていて・・・あああ、もう本当に!何故こんな事になったのかしら?!」


「・・・。つかぬ事をお聞きしますが、息子さんにはその婚約した彼女以外につき合っていた女性が居たという様な事は聞いていませんか?」


「息子の女性関係ですか?そりゃあの子はとてもモテましたからつき合っていた女性の一人や二人は居たかもしれませんけど、全部遊びでしたよ。」そうはっきりと断言する木村に多少呆れつつ、もう少し深く事情を聞いてみる。

「遊びですか?それは息子さんがおっしゃっていたんですか?時に、狭山良子という女性をご存知ですか?多分、息子さんが婚約される直前迄お付き合いされていた女性らしいのですが。」


「狭山良子・・?ああ、一度だけ聞いた事があるわ、その名前。」

「それはいつ頃?」

「そうね、頭取のお嬢さんとの見合いの少し前だったかしら、その狭山なんとかって子と会って欲しいって言われて写真を見せられたーーー。」

「それでお会いになられたんですか?」

「まさか!頭取のお嬢さんとのお見合いを控えているのに何を言ってるんだって・・・ああ、そうそう思い出したわ。確かその女片親でなんとも地味で見栄えのしない娘だったのよ。あの頭取のお嬢さんとは比べ物にもなりやしない。」そうつぶやくクライアントに私は一瞬頭を抱えたくなった。どう考えても彼が引きこもった原因はそこに端を発しているのだろうが、当の本人はそれにまったく気がつくこともない。


「木村さん、会ってもいない女性の事をそう悪し様に言うのは女性の美学に反すると私は思うのですが・・・?息子さんが引きこもられたのはそれが原因とは考えられませんか?」


「は・・い?どういう事ですの?」


「ですから、はっきり申し上げますと息子さんはその頭取のお嬢さんとではなく別の女性と結婚したかったのではないのですか?」


「そんなっ、いえ・・・でもあの子はあの時婚約に関して何も・・・」

「文句は言わなかった? いえ、言えなかったのでしょうか・・・。木村さん、もう一度確認しておきたいのですが、貴方は本当に息子さんの引きこもりをなんとかしたいと思っていらっしゃるんですよね?」

「も、もちろんですわ。」

「そうですか。私に良い案があるのですが、それを行うには予め木村さんにもいくつか了承してもらわないといけない件があります。これからその事をお話しましょう」そういって私は静かに微笑む。

目前に座る木村美枝子がまるで十代の少女の様に頬を染めて頷いた。


応接室の外からその様子を見ていた和田が「さすが先生・・女たらし」と突っ込んでいた事は知る由もない。

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