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人間の形  作者: 帆摘
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第三章、カルテ3:籠る1

お待たせ致しました。第三カルテ、籠る始めました。最近カメ更新ですがこれからもよろしくお願い致します。

和田君が、うちの事務所で働くようになって3ヶ月が過ぎようとしていた。最初の出会いの事もあり、三村君との事も少し心配していたのだが、三村君は実に良く彼を使っているようだった。それこそ何でも屋のようだ。ある日はオフィス用品の買い出し、顧客の名簿作成など、オフィスの仕事も教えているみたいだが、先日果ては、トイレ掃除までやらされていた。元雑誌の人気モデルをしていた大病院のお坊ちゃまとは思えない・・。人間変われば変わるものである。


だが、文句ひとつ言う事無く仕事をする彼をみて本当に変わったなと思う。以前の彼であれば、今の様な姿は思いもよらない物だ。

「和田君、今日はお昼からくるんでしたね。どうです?今日は久しぶりに出前でもとりませんか?」私はデスクに座ってExcel作業をしている三村君に向かって声をかける。

彼女はちらっと顔を上げると、作業時だけかけている、度の低い眼鏡をくいっと指で上げ聞き返した。

「別に良いですけど・・・。今日は私もお弁当を持って来てませんので。ということはあそこですか?」

「ええ、最近少し寒くなってきましたしねえ。この間店の前を通ったら新メニューがでていたんですよ。その時忙しくなければ是非とも食べたかったんですよ。」

「ほたての甘辛炒めキノコ入り八宝菜ですよね・・?分かりました。和田君へは後でメッセ−ジを残しておきます。今頃授業の真っ最中でしょうから。」そういうと、三村君はパソコン画面へと視線を戻した。


私はというと、クスリと心の中で笑う。なんて事は無い、三村君もしっかりと新メニューをチェックしていたようだ。それから私はデスクへと戻り、先ほど三村君より手渡された新しい顧客のファイルへと目を通しはじめた。明日この事務所へこられる方なのだが、実は以前にも2〜3回、電話でのカウンセリングを行っていたこともある方だった。

顧客の名は、木原美枝子 56歳、家族構成は息子二人と娘が一人。引きこもりの数が毎年のように増大するばかりの現代。特に最近では、30代や40代の引きこもりや鬱の数が増えて来たと言われているが、今回の引きこもりの相談も例に漏れず30代の息子のものだった。

鬱や引きこもりになる原因は様々だが、もちろん人によってその症状の重さや内容で対応は180度違ってくる。今回のケースは何かと複雑が事情も見え隠れしている様なのだが・・・。


私はデスクの下でゆっくりと足を組み替える。

おおまかな彼女の話はこうだった。ありふれたサラリーマン家庭、長男は既に結婚し、1女をもうけている。また末の娘も最近見合いで結婚が決まったそうなのだが、問題は次男の事だ。

もともと次男は長男よりも出来がよく、頭が良く、従順な次男を母親は目に入れても痛くない程可愛がっていたようだ。兄はさっさと家を出て、結婚しほとんど家には寄り付かないようだが、娘の方は、結婚するまでまだ一緒に市内のアパートに住んでいる。


次男は国立の大学を卒業した後、しばらくは銀行員として就職していたが、ある時期を境に自宅の部屋へと引きこもるようになったのだという。引きこもりのきっかけについて私は幾度か彼女に尋ねてみたのだが、まったく心当たりは無いという。

では、仕事の方で何かトラブルやストレスがあったのかもとも考えたが、その辺の事については、今、和田君が調べてくれている。すべてのクライアントに対してという訳ではないが、こういった心に関する仕事をしていると、様々なトラブルに巻き込まれる事が少なくはない。

アメリカは訴訟大国ということもあり、もちろんクライアントの情報は機密だが、ある場合においては、徹底的に裏を調べる事も必要な時がある。


今回の場合がそう言う場合だという訳ではないが、引きこもりになった原因を調べる上で彼の生活や会社での事を少し調べているのだ。

情報を調べたり、近所や職場での聞き取り調査に和田君は意外な才能を発揮していた。いわゆる世間一般でのモテというらしいを駆使して、近所のご婦人方や、果ては銀行の女性社員らからクライアントから聞かされる事がなかった、息子、木原淳一の以外な面が見えて来た。

その一つが、どうやら彼には、両親には秘密で付き合っていた女性がいるらしい事。その女性とはかなり親密で、結婚まで考えていたらしい事、そして破局。


母親の前では従順な息子だったという彼だが、その実、とても神経質で切れやすく、ねちねちした性格であったらしい事、クライアントとの話だけでは見えてこない影の部分もうっすらと見えて来ていた。しばらくいくつかの情報を頭にいれつつ、考えていると、事務所の玄関が開き、和田君の声が聞こえて来た。

いつの間にか、時間は12時を回っている。私はファイルをデスクの中にしまい込むと、福萬圓の新メニューを思い浮かべながら、扉を開いた。

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