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人間の形  作者: 帆摘
31/54

空5

冷やし中華はおいしかった。色とりどりに載せられた具を麺と一緒につつきながら食べてしまう。食べ終わった皿は後で取りにくると言っていたか・・・

私は皿を片付けると、三村君がファイリングした、先ほどの男性、和田健司のファイルを持ってくる。よっぽどあの手のタイプが苦手だったのだろう、あれからずっと彼女の機嫌は悪い。

せっかく、冷やし中華を一緒に食べようと思っていたが、結局自分のデスクで一人で食べる事になってしまった。台風の目の様な彼がちょっと恨めしい。


さて、ファイルを開いて見ると彼の書いた問診表がトップにある。意外に丁寧な字で書き込んである。書く自体などでも、その人の人なりが伺える。彼の場合見た目とは裏腹に細かく、綺麗な字だった。ふむ・・○○大学の医学部か・・・。確かに頭は良さそうだ。

なかなかに偏差値の高い良い大学である。来訪理由については・・・、一言だけ書かれている。「空」そら・・?嫌違うな、からだ・・。空っぽと言う意味か?

これは、何か私に挑戦でもして来ているのだろうか・・。それともこれが彼自身を表す言葉なのか。私は色々と想像をかき立てる。


家族構成は、両親と弟が一人、そして祖母が同居、ふむ、二世帯住宅か・・・気になる点だな。他にも、いくつか気になる点やチェックポイントを上げて、私はファイルを閉じる。なかなか面白い人物のようだ・・。私は彼の挑発的な目線を思い出して苦笑した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

次の日の午後、3時きっかりに彼はやってきた。

「こんにちわ〜」入ってくるなり、いそいそと三村君の側に近づくと大きな箱を取り出して手渡す。

「何ですか・・・これ?」三村君が怪訝な顔で問う。

彼はニコニコしながら言った。「Alice Maid's のケーキ。そこのケーキ結構美味いんだよ。元彼女がよくそこを待ち合わせ場所に使ってたんだけどさ、良かったら食べてよ。」

三村君の表情が少し柔らかくなる。実は彼女は大の甘党だった。

「でも、、」

「いいから、いいから!2種類ずつ4個のケーキが入ってるから、気に入ると良いんだけど。」

「ありがとうございます。」そう言うと彼女はケーキの箱を受け取り、一度それを脇に置くと、彼を伴って隣の応接室のドアをノックする。

「センセ、和田さんが来られました。」

「ああ、こんにちは、待ってたよ。さあ、入って!」私は彼を招き入れる。応接間には3人がけのソファーが一つと椅子が2客、そして奥には私の本棚と仕事机がある。部屋に入ると彼はぐるっと視線を巡らし、面白そうに言う。

「へえ、結構良い感じだね。この部屋の感じ、落ち着くよ。」

「それは、ありがとう。」応接室のインテリアは壁紙に至るまでプロに頼んで仕上げてもらっている。話す方も、聞く方もやはりおちついた空間が望ましい。只の白い部屋で机と椅子だけしかおいていなかったら、警察の事情聴取のようだ。


彼は一人がけの椅子に腰を下ろしたので、私も反対側の椅子に座る。三村君が、紅茶とケーキをトレイに入れて持って来た。あれだけ昨日は機嫌が悪かったというのにどういう風の吹き回しだろうか・・。

「三村君、このケーキは・・?」

「あの・・和田さんが持って来てくれたんです。」ばつが悪いのか目を伏せ気味にそそくさとでていく。なるほど、彼がこのケーキを持って来たのか。なかなかおいしそうなケーキだが、食べ物でつろうとするとはなかなか着眼点が良い。


「このケーキ、和田さんが持って来てくれたのですか?ありがとうございます。とてもおいしそうですね。」

「ああ、気にしなくていいっすよ。この間の詫びも兼ねてますから。」詫び・・ということは彼女に対してということなのだろう。

「そうですか・・では遠慮なく頂きますね。ところで、さっそく本題に入りたいのですが、和田さんは日常、どういった生活をされてますか?」

「どうって・・別に、ふつーにバイトしたり、講義受けたり、女と遊んだりとかかな。」

「それだけですか?」

「他に何があるんだよ?」

「そうですね・・和田さんは医学部にお通いになっているそうですが、将来は何の医者になるつもりですか?」


「さあ・・・。」

「さあ・・・ですか。」

「別に入りたくて入った訳じゃねーし、どうせうちの病院継げって言われてんだからチョイスなんてねーしな。」

「ご実家は病院ですか・・。内科ですか?」

「いや、産婦人科・・・。」

「はあ、それはとても忙しそうですね・・。」今の時代、医者の人数が減っている日本だが、産婦人科医はもっと少ない。お産に間に合わずたらい回しにされてと言う話は少なからず聞く。

だが、実家が産婦人科を経営しているというと、かなり金持ちのぼんぼんと言う事だろう。

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