父さんは、小さい上に無責任な男だ
親愛なる勇者様たる息子へ
手紙なんて書くのは初めてで、父さんはどんな書き方をすれば良いのかわからない。文字だって、若い頃に商人を夢見て学んで、それっきりだ。ただの農民には、使う機会はほとんどないから。
だから、勇者様になって高貴な方々と関わるお前には、この手紙は酷くヘタクソなものに見えるのではないか、と思う。
手紙だけじゃない。
この小さな村にあったもの全てが、今のお前にとっては、取るに足らない、稚拙なものになってしまっているのではないか。父さんは、時々、眠る前にそう思う。
そんな夜、毛布に身を包んで、父さんはどうしようもなく悔しくなる。
いつだって、息子の前ではカッコつけていたかった。常に憧れでありたかった。
父さんは、小さい男だ。
たった三人の家族を幸せにするのが手一杯の、小さい男だ。
世界を背負って戦っているお前とは、比べ物にならない。
それでも、父さんも戦っていた。
お前と母さんを食わせていくために、戦っていた。
お前のように、剣は振れない。魔法も使えない。
それでも、毎日毎日、鍬を握って、戦っていた。
なあ、お前は今どこに居る?
野宿をしているだろうか。宿屋にいるだろうか。
長い長い旅の途中に、お前は何を思う?
夜空に輝く月を見て、ふと、寂しさを覚えていないだろうか。
正直に言えば、父さんは寂しい。
お前と過ごした日々が恋しい。
本当は、世界の平和なんてどうでもよくて、世界が終わるその時まで、家族揃って、静かに暮していたかった。
父さんは、小さい上に無責任な男だ。
少し話し過ぎた。
今日はもう寝る。
また、書く。
父さんより
追伸
この手紙は、父さんの机の引き出しに入れておく。
もし誰か他の人が見つけたら、息子に渡すか、そっと戻しておいて欲しい。
その後は、息子に任せる。
気にいっていただければ、ブックマーク、評価等々宜しくお願いします。