探偵の告白
「ねえ、わたしもう探偵をやめようと思うの」
「何を言い出すのよ、めい」
とある山奥の旅館。他でもない探偵の提案した旅行の最中。突然の引退宣言に、助手は戸惑いを隠せない。
「これまで数々の殺人事件を解決し、今や名探偵の地位を確立したのに」
「これ以上はあなたにも迷惑がかかるわ。散々振り回して悪かったわね」
「何を言っているのよ、名探偵めい。やめないで、めい名探偵」
「ごめんなさい。だけど、わたしはこの瞬間をもって、探偵を廃業するわ」
「めいめい……」
「もう続けるのが嫌になったのよ」
「どうしてなの。給料が安いから?」
「いいえ」
「行く先々で必ず殺人が起きることに嫌気が差したから?」
「違うわ」
「まるで死神ねとわたしが吹聴して回ったから?」
「そんなことしてたの」
「いずれにしても突然すぎるわ。そうよ、せめて次の事件を解決してから引退するというのはどうかしら」
少女探偵は拒んだが、結局は助手の熱意に押され、次の事件で最後となった。
「それにしても、どうして突然やめたくなったの」
「実はわたし、隠してたことがあるの。あなたや世間は、わたしが数々の難事件を卓越した推理力で解決してきた。そう思ってるわよね。でも、違うの。本当は、もっと別の力を使って犯人を言い当てているのよ」
「別の力?」
「ねえ、わたしね。超能力が使えるのよ」
あまりに突飛な告白に。助手もにわかには信じられない。しかし少女の真っ直ぐな目は、嘘など吐いていないことを証明していた。
「驚いたわ。でも、超能力を使っていようと、事件が解決するならいいじゃない。
どんな超能力なの。テレパシーで容疑者の思考を覗くのかしら」
「いいえ。わたしに見えるのはもっと別のものよ」
「わかったわ、幽霊が見えるのね。そして被害者の霊から犯人を聞き出すんだわ」
「いいえ、違うわ」
「それなら一体なんなのよ」
「まだ秘密。教えたら探偵を続けられなくなるの。事件を解決したら、教えるわ」
* * *
「犯人はあなたね」
「そんな、俺の完璧なトリックが見破られるなんて……」
「わたしには全てお見通しなのよ」
かくして、旅館で起きた殺人事件も見事に解決してみせた。
最後の仕事を終えた探偵は、永い眠りについた助手に囁く。
「わたしの超能力はね。未来予知なの」