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第5話 勉強になったよ

 つってしまった足を伸ばしながら作成欄のロープフックを選択してみる。


「材料は揃ってる。どうすりゃいいんだ?」


 試しにロープフックという文字に集中してみる。




 ティリン





 ゲームで何かを選択した時によく聞きそうな効果音が流れ、ロープフックの文字の下に






 YES   NO






 の選択肢が現れる。


「ほんとに適当な世界だな。どういう意味のYESでNOなんだよ。まぁだいたいわかるけど。」


 呆れた適当さに溜息を吐きながらうなだれる。

 こんな世界で今、命をかけて”生”にしがみついてる俺はなんなんだ。


 おそらくだが作成するかしないかということだろう。


 YESを選択すれば材料を消費し作成、NOを押せばそれがキャンセルされるのだろう。

 そしてそんなことで迷っている暇は俺にはない。


「まさかYESを押したら材料が出てきてそれでは自分で作ってくださいとかってオチじゃないだろうな。」


 もはやこの世界に疑心暗鬼な俺。

 そうも言いながらYESの文字に集中する。


 するとトンテンカンテンとトンカチで釘を叩くような音がなり、視界に”材料を消費しロープフックを作成しました”という文字が表示された。





 ………….







 で!?






 表示されたのはいいがロープフックなどどこにも現れていない。


「嘘だろ。なに? なんなんだよ!? どうなってんだよこの世界。命懸けで集めたんだぞ!! いい加減にしろよ!!!」


 頭が瞬間沸騰したように怒りが一気に吹き出してきた。

 しかし弱り切った体力では怒りすらまともに続かず、そのままフラフラと立ちくらみを起こしイカダに尻餅をついてしまった。


「うえっ気持ち悪い。危うく海に落ちそうになった。」


 視界が周り世界が回る。

 どのみち体力も限界だ。

 このロープフックが作成できてないとなるともう絶望。

 もう一度材料を集める気力も体力も残っていない。


「ちくしょう.......せっかくの異世界転生だってのに.......本当に何にもせずに終わっちまうな。」


 もはや先ほどまでの怒りも悲しみもない。完全に諦めてしまった人間はこうも清々しいものなのだと改めて鑑賞深く思う。


「せめてロープフックくらいは見たかったな。どうせ使えないようなものなんだろうけど。しかし作ったのに行方不明とかマジくそゲーだよな。」


 あまりのいい加減さにプフッ! っと笑いを吹き出してしまう。

 そりゃ笑うよな。どこまで緊張感ないんだよこの世界。

 サメに食われたイカダとかはゲームみたいに綺麗にちぎれてるのに。




 ......ん? 行方不明?






 自分で言った言葉が俺の頭に引っかかった。


「そういえばPCでもダウンロードしたファイルってどこやったかなってよくなるよな。デスクトップに保存しててくれればわかりやすいのに変なとこに保存したばっかりに探す羽目になったり。これってもしかして......すごい馬鹿馬鹿しいところに......。」


 そう思い俺はそーっと怖いものを見るように持ち物を開きアイテムボックスの中を見てみた。


「はは、どこまでもゲームだ。ははは.....はははははは.......。」


 自分のバカさで危うく命を落とすところだった。

 持ち物欄にはたしかに



 ロープフック(木製)



 と書かれていた。

 笑えない。笑ってはいるが全く笑えない。


「馬鹿野郎。もったいぶってんじゃねぇーよ。」


 気力がなくなり力がどこかに漏れ出るようにフニャフニャとふらつきうなだれる。

 安心感からなのかそれとももう体が限界なのか、どちらにせよ残されてる時間はあまりない気がする。










 ロープフックの文字に集中しそれを取り出すと


「想像どうりだ。」



 そこには木製のまさにフックとそれに繋がれたロープがあった。

 まさにロープフック。


「これなら海に入らずにアイテムを回収出来る......はず。」


 ”風前の乏び”な俺の人生がまた弱々しくだが火の勢いを取り戻し始めた。

 しかしこれで満足はできない。

 俺には時間が全くといっていいほどない。


 なり続けるアラーム音。ピコーンとなるたび俺は寿命が擦り切れていくような感覚に陥る。

 急がないと。


 すぐさまロープフックを釣竿の要領で海にほり投げる。

 力がない分、全く飛距離は出ていないが、ひとまず目ぼしいアイテムを目標にロープを手繰り寄せていく。


 とはいえフックも大きくはない。

 うまくアイテムに引っかかるかという心配はある。

 ひっかけるのが難しくて時間だけが経ち、アイテムを揃えられませんでしたでは話にならない。


 緊張し震える手を抑えながらタイミングを合わせてロープを引っ張りアイテムと接触させようとしてみた。


「笑っていいのかこれ......」


 どこまでもゲームなんだなこの世界は。

 俺の想像を超えて、なんとアイテムはフックに触れてないにもかかわらず手繰り寄せるフックとともにアイテムが引き寄せられてきた。


「当たり判定ゆるすぎ。ある程度距離が詰まると勝手に引っかかったことにしてくれるのか。やっぱりいい加減だ。でも助かった。これなら大した時間もかからず材料を集められそうだ。」


 引き上げたフックには先ほどまで海に浮いていたプラスチックが引っかかっていた。

 正確には引っかかっているのではなくひっついていると言った方が正しいか。


 ひとまずそのプラスチックに手を触れアイテムボックスに収納する。


「いけるいけるいける!!! これなら危険もなく材料を集められる!!」


 嬉しさに若干興奮したことにより、またひどい立ち眩みを起こし膝をついてしまう。


「もう体も限界だ、さっさと材料を集めてしまわないと。」


 俺はひたすら海を見つめては目当てのものを見つけるとロープフックを投げつけ材料を手繰り寄せていった。





 木の板を手に入れました。



 木の板を手に入れました。



 プラスチックを手に入れました。




 順調に材料が集まっていく。




「........あった.......あれだ......。」



 力なく目当てのものにロープフックを投げつける。

 甘い当たり判定のおかげでたいして狙わなくても材料はフックにひっかかっていることになり簡単に手繰り寄せることができた。






 木のツルを手に入れました。







 材料はすべてそろったはず。

 これで......




 ドキドキする心臓を無理やり抑える。

 立ち眩みがするから。


 すぐに作成欄を呼び出し






 踏板

 オール

 ???

 ???

 ???

 煮沸機

 ハシゴ

 ???

 ???

 テーブル

 イカリ

 ???

 ↓






 煮沸機を選択っと。





 すると目の前に突然に緑色の半透明なフォロビジョンのようなものが視界に現れた。


「うわっ!! なんだ!!」


 それは視界を動かすと同じく視界の中をついてきている。

 今まで謎に表示される文字のような感じに。


「これ.....どこに置くか決めろって事か?」


 試しに置きたい場所に視界に写るフォロビジョンを合わせて”作成”と心で念じてみた。

 すると”トンテンカントン”と小気味のいいトンカチで釘を打つような音が鳴り響きストンとその場所にそれが現れた。


「これが......煮沸機......?」


 昔の人が使ってたような土ガマで出来た釜がある。

 蓋がされていて開けてみるとその中にペットボトルを切ってコップにしたようなものがあった。


 視界に



 ”海水を入れてください”




 と表示されている。




 プラスチックのコップを手に取り海水を汲み、また釜に戻してみた。


 ......何も起こらない。


「またかよ......。」


 いい加減うんざりする。

 この説明の少なさに。




 おそらくやり方が違うのだろう。



「あぁコップにじゃなくて釜の鍋に入れるのか。」


 コップの中身を釜に移し替えて真ん中にコップを置いてみる。

 コップの底には砂利が入ってあり、それが重りになって空でも水に沈む。

 もちろんその砂利は裏返して出そうとしても出てこない。

 底に張り付いたようになっている。ゲームだからね。



 海水を入れてくださいの表示はなくなったが、やはり何も起きない。

 これで待てば水ができるのか?

 そんなわけないよな。


 どうしていいかわからないがとりあえず手に持っていた蓋をそれにかぶせてみた。

 すると釜が自動的に”ボウッ!!”と炎を上げ鍋の上に時間が表示された。


「おぉ!!! やった!! 遂にだ!! 長かった..... 時間は5分か。さすがゲーム。あっという間にできるんだな。」


 本当は飛び上がって喜びたかったけどここまでの道のりが長かっただけに水一つ手に入れる苦労が頭をめぐり喜びよりも涙が目に浮かんできた。


「うぅ、、まだ水ができたわけじゃないのに......くそ......うぅぅぅ、、、うぅ......。」


 悲しくて泣いているわけじゃない。もちろんうれしいんだけどそれだけじゃない。

 ほんとこの時。無性に俺は自分の家が懐かしく感じた。


 みんな元気かな。

 俺がいなくなって母さん清々してるかな?

 成瀬は......



 水分がなくても涙は出てくるんだな。

 一つまた勉強になったよ。”Life”



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