第13話 飯
毎回海に入るたび死にかけてるような気がする。
さすがに今は飯を食べる気分になれなかった。
いつものように暗く落ち込んだ時はイカダに寝そべり空を見上げる。
いつの間にか夕暮れの時間が迫っていた。
日が落ちる。
太陽が沈むと今日も生き残れたという実感がわく。
俺、今日も頑張ったぞ。
成瀬......絶対生きて帰るからな。
ーーーーーーー
立ち直るまで何時間かかかってしまった。
幻想的な夕暮れを一部始終眺めているとなんだか心が洗われた気がする。
そしてそうなるとお腹が減る。
ピコーン
アラームが頭の中で鳴り響く。
左上にはおなじみの
”お腹を補給してください”
生きるというのは誰かが死ぬという事だとテレビの誰だお前? っていう哲学者みたいなのが言っていたのを思い出す。
俺は今日死にかけた。昨日も死にかけた。
こういうのを生きるって事なのかもしれない。
そしてお腹が減ったっていうのは今生きてるってことなんだろうな。
意味わかんなくてごめん。
「とりあえず、かまど作るか。」
夜になり暗くはなったが、相変わらず月明かりなのか結構明るい。
俺はメニューバーを開いてかまど式コンロを作成する。
視界に緑の線でかたどられたポリゴンのかまど式コンロが出現しそれを俺はイカダの中央付近に設置する。
「作成。」
トンテンカンテン
瞬く間に腰の高さ程度のかまどが出現し上には鍋までついていた。
親切な事で。
さっそく鍋にアジを置いて料理しようとすると
”アジを調理しますか?”
の文字が―――
あぁここもそういう感じなのね。自分で料理はさせてもらえないのね。
俺はしぶしぶYESを選択する。
するとボウッとかまどの火が立ち上がりパチパチと勢いよく魚を炒める音が聞こえてきた。
香ばしい魚の匂いが俺の鼻をくすぐった瞬間―――
ドバーっと唾液とともに涙が溢れてきた。
「もう一生海藻しか食べれないと思ってた。」
まだ食べてもいないのに。
俺は貴重な水分を失ったと煮沸機で作ったストックの水を飲みほし、新たに海水を入れて煮沸機に火をつける。
待ちきれないけどおとなしく待つ。
餌をまつ犬のようにかまどの前でお座りを続けていた。
鍋の上の時間が0になった、ついにこの時が訪れたんだ。
チーン
まるでレンジの音。
そこだけが残念だが匂いはまさに香ばしい魚の香り。
炭火焼のように少しほろ苦い香りがさらに俺の胃袋を締め付ける。
鍋からアジを取り出す。
「あちっあちっ!!」
焼けたての温度。箸も皿もないから素手だけどそんなのどうでもいい。
味の皮の部分はキツネ色に焼けていてプツプツと中の油がまだ熱ではじけている。
「いただきます!!!!!」
俺は大口を開けて一気に腹からかぶりついた。
この時のことは俺の人生で生涯忘れないだろう。
皮はまるで直火で炙られたかのようにパリパリで炭火のようなほろ苦さがたまらないアクセントを生み出している。
といっても身は火が通り過ぎることなくジューシーで身の量からは想像できないほどの肉汁があふれ出してきた。
何も調味料はかけていないのに程よく塩味が感じられアジの身の甘さをこの上なく絞り出している。
ただ鍋で焼いただけに見えたのに。
食べ物に飢えていたのもあるが、それ以上に魚がまずうますぎる。
鮮度の問題なのかわからないがとにかく魚が普通にうまい。
そして調理が絶品すぎる。
焼いただけに見えたが焼き加減が絶妙過ぎてもう何も言う事はない。
「あぁ......生きててよかった......」
俺は数分間は口に残った旨味に浸りながら、またすぐに新たにアジを焼き旨味に浸るのを腹いっぱいになるまで繰り返した。
まぶしい朝日で目を覚ました。
太陽の光をあんなに避けて生きてきたのに、今では呑気に日向ぼっこまでしている。
イカダの端ではバシャバシャとサメがイカダに噛みついていた。
「気にしない。気にしない。」
噛みちぎられてもすぐに修復するから気にしない。
そうしているとバキッとイカダが割れる音がしてサメが水中へ潜っていった。
俺はそれに目も向けず寝転びながら――
「作成。」
と、指でその方向を差しながらイカダの食いちぎられたところを踏板で修復する。
なんてイージー。
足の指でつかんでおいた釣り竿が軋み、糸の先が海面でバシャバシャとしぶきを立てる。
それをクイっと足で持ち上げてやると――
”アジを手に入れました”
なんてイージー。
俺はこのイカダの上でカリスマとなっていた。
何に対するカリスマかは伏せておくとしよう。
そのまま釣り竿でアジを釣っていたところ、ついに――
”釣り竿レベルが上がりました”
”釣り竿は丈夫な釣り竿へと変化しました”
”釣れる魚の種類がアンロックされました”
「おぉ!! 釣り竿レベルが上がった!!」
これは意外と待ちわびていた。
食料調達も含めてだがこのレベルを上げることによって釣れる魚の種類が増えるだろうと予想していたからだ。
「全然アジでもいいんだけど、なんだったら他の魚も食べてみたいよね。」
とはいえ竿の名前が変わったのは笑える。
なんか意味あんのか?
さっそく新しい竿を試してみるか。
俺は見た目何も変わっていない竿を振りかぶり思いっきり振り切った。
赤い浮きはヒョロヒョロと空中で揺れながら俺の3mくらい前に静かに着水した。
まぁ筋力の問題だよね。きっと。
そこも補正してくれると助かったんだけどね。
そんな事を考えてるとすぐに浮きがピクピク反応しだした。
なんでエサもつけてないのにヒットするのだろう。
この世界でそういうのは気にしても仕方ないけど。
ドプン
勢いよく沈む浮きに合わせて俺は竿を持ち上げる。
「うぉぉ......」
アジの頃にはなかった感触、少し重い。
まぁ少しだから大したことないけど。
器用に糸を竿に巻き付けながら手繰り寄せていく。
ザブゥ
”サンマを手に入れました”
「やった!!!」
これはうれしい。
サンマとか毎日でも食べれるやつじゃん!!
昨日の夜にたらふく食べたのにもう頭は飯の事でいっぱいだ。
溢れるよだれを抑えながら、まだ早いと自分を制し再度竿を振る。
どういう種類の魚が釣れるのか確認してから朝食というのも悪くない。
抑えられない欲求には素直に従っていくのが生きるという事だと悟る俺だった。




