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閲覧いただき、ありがとうございます。

「柚ちゃん、浮かない顔してどうしたの?」


放課後、部活の片付けが終わった私はテーブルに突っ伏していた。

杏一は、むに、とそんな私の頬をつついた。


蓮央との邂逅を終えた後、私の気分はかなり落ちていた。


「この前、誰かに会ってなかったか?」


ふと、一犀が真剣な表情でそれを告げた。

そういえば、一犀は未来予知能力がある。

もしかしたら、一犀はその能力で前もってこの出来事を読み解いていたのかもしれない。


「うん…椿の友達にね。少し共通点があって」


「何か嫌なことでもあったのか?」


「ううん、嫌なことは何も…少し思うところがあっただけ」


一犀は納得がいかないようで、さらなる追求をしようとして、それを杏一に止められた。


「ダメだよ犀くん、女の子にそんなに迫ったら嫌われちゃうよ?」


「俺は別にそんなんじゃ」


「ほらほら、話は終わり。良い子は家に帰るお時間ですよ」


いつものおちゃらけた様子で杏一は私と一犀の鞄を持ってくる。


私達が鞄を受け取ると、杏一は扉を開け、辺りに人がいないか確認した。


「よーし。人がいないみたいだし、僕のスペシャルな力、本邦初公開しちゃおうかな?」


え、と私が言う前に、杏一は何もない壁に、丸いワープゲートを作る。


「…お前も能力者だったのか」


一犀は驚いたような表情を見せる。


「お前もってことは犀くんも?はは、似た者同士だね」


一犀は、ハッとしたように押し黙った。

杏一の言葉はどこか自嘲めいた言い方をした。杏一の横顔はどこか寂しそうで、自分の能力を受け止めきれていないのがよくわかった。


「杏一、無理して能力使わなくてもいいんだよ」


「何言ってるの、柚ちゃん!無理なんてしてないよ。落ち込んでいる可愛い女の子が目の前にいれば、助けたくなるものでしょう?」


さあ、と言って、杏一は私の手を掴んだ。

私が制止の声を上げる前に、手を掴んだ為、杏一の作ったワープゲートは跡形もなく消えてしまった。


「あれ、おかしいな…僕の意図と関係なく消えることなんて今までなかったのに…」


少し動揺した杏一は、先程までワープゲートがあった壁を手で擦った。


何て説明しようか迷っていると、一犀が私の手を取り、目を閉じる。


「…何も見えない。柚葉、お前何か持っているな?」


一犀の瞳が私を射抜く。

私は目を伏せ、そして頷いた。


改めて、杏一のワープゲートで私の部屋に移動した私達は能力について話し始めた。


「能力の無効化?」


「そんな超能力もあるんだ。まさか柚ちゃんも能力者だとはね」


「今のところ、私に触れなければ能力は対私でも使えるみたいなんだけどね…」


しげしげと私を見つめる杏一と一犀。

何だか居た堪れない気持ちになる。


「意外といるもんだねえ、能力者。今まで僕以外見たことなかったから」


「俺もだ。能力者は養成学校に行くのが普通だからな。普通の学校に能力隠して入る物好きなんて、そういないからな」


僕達は別だけどね、と杏一は笑う。


これは、杏一と一犀に探りを入れるチャンスじゃないか。


「私は能力を隠して、平凡に暮らしたいと思っているんだけれど、2人はどうなの?」


「うーん、僕は料亭を継ぐかなあ。犀くんは?」


「俺はある程度の稼ぎがあれば何でもいい。ただ能力者だからって、モルモットみたいに人体実験なんてされるのはごめんだ」


一犀は吐き捨てるように言った。

能力者は普通の人間達に虐げられることが多い。中には人体実験を行って、能力を持つ仕組みを研究する人も存在する。一犀の父親も確かその研究に携わっていた気がする。


うん、ここは原作とは変わらなさそうだ。

私は少し安心する。


「養成学校に知り合いはいない?」


その質問に2人は首を横に振った。

時期的には、そろそろヒロイン達と接点を持っていても良い頃なんだけどな。

やはり、原作通りには物事は進んでいないようだ。


杏一は料亭の手伝いをしている時にヒロインと出会って、一犀は、アルバイト先で知り合ったという設定があったが、2人に色恋沙汰は今のところなさそうだ。


「僕のワープゲートは壁や扉に作ることが出来るけど、何も物がないと作れないんだよね」


「俺の未来予知能力は、意識を集中させて、特定の人を予知することもできるが、基本的には、予期せぬ時にビジョンが見える」


なるほど。

私と同じく、能力を発動させるには条件があるのか。


椿は確か心を読む範囲が決まっていたはず。


私達は今日知った互いの秘密を他者に話さないことを約束し、解散した。


家に戻ろうと、エレベーターに乗ると、遠くから女性の声が聞こえた。


「ま、待ってください!私も乗ります」


私は慌てて扉を開けるボタンを押して、女性を待った。


ありがとうございます、と言って乗り込んできた女性を見て、待ったことを少し後悔してしまった。


石川 桃香だ。

おそらく、これから椿達とバンドの練習をするのだろう。


固まった私を心配そうに見ながら、桃香は階数ボタンを押そうとし、すでにその階数が押されていることに気がつき、恥ずかしそうに腕を引っ込めた。


照れた表情もとても可愛らしい。

流石、ヒロインだ。


よく、乙女ゲームのヒロインは平凡で普通の少女と描写されるが、実際会うと、やはりたくさんの男性に好かれるだけある雰囲気を持ち合わせている。


私が思わず見惚れていると、視線に気づいた桃香がにこりと微笑んだ。


私はハッとなって、会釈する。


「あの…もしかして、椿くんの幼なじみの方ですか?」


否定すると後々面倒なことになりそうだと判断した私は肯定した。

すると、桃香はやっぱり、と微笑んだ。


「椿くん、よく幼なじみのお話をしているから、もしかして貴女かなと思ったんです」


ふわりと笑う桃香は、まるで女神のような可憐さがあった。

というより、椿は、どんな特徴を話しているんだ。余程、詳細に話していないと、本人かどうか判別つかないだろう。


「私、椿くんの幼なじみってどんな人か会ってみたかったんです」


エレベーターが目的階に着くと、桃香は降り、こちらに向き直った。


「私、石川 桃香です。良ければ、これからお友達としてよろしくお願いします」


相変わらず、乙女ゲームが私を離してくれません。


そんなことを思いながら、私は差し伸べられた手を握り、桃香と握手を交わすのだった。


すると、椿の家の扉がガチャリと開き、誰かが出てきた。


「桃香、待ってたよ。今日は遅かったんだね」


私は更なる攻略対象の出現に固まってしまう。長野 柊吾だ。軟派な性格のチャラ男。


私は一番苦手なキャラクターの出現に、思わず後ずさった。


柊吾は自然な流れで、桃香の肩を抱き、妖艶な笑みを浮かべた。


「この女性は桃香の知り合いかい?」


「ええ…正確には椿くんの、だけど」


「ああ、この子が例の幼なじみか」


…普段、椿はどんなことを話しているのだろう。すぐに検討がつくほど、私の話をするのはやめていただきたい。


「はじめまして、長野 柊吾だ。よろしくね」


柊吾の手に触れた瞬間、一瞬電流のようなものを感じた気がした。静電気くらいの微量なものだったので、飛び退くほどは驚かなかったが、少しびっくりした。


もしかして、能力を使ったのだろうか。

柊吾は一瞬、眉を顰めた。


柊吾は単に物を透かすだけではなく、対象に関する過去の事件や特別なことがらを知る能力を持っている。


警戒心の強い柊吾のことだ。

おそらく、信用に足る人物かどうか透視で判断しようとしたのだろう。


だとすれば、少しまずいかもしれない。

能力とはいえ、透視を弾いてしまった。

椿は私が能力者だということを、必要以上に隠す傾向があるから、柊吾は知らないだろう。


柊吾はこのイレギュラーな事態で、私に疑いの目を向けるに違いない。


恐る恐る、柊吾に目を向けると、予想通り、柊吾は口元は笑っているものの、目元は笑っておらず、冷たい目をしていた。


蓮央の次は柊吾か。

そんなことを思いながら、私は次なる波乱に心がざわめくのを感じたのだった。


その日の夜。


「柚葉、今度は柊吾に目をつけられてるじゃない。一体どうしたら、こんな風になるの?」


私は夕飯用にカレーを作ったのだが、作り過ぎたので、椿にお裾分けをしたら、開口一番にそんなことを言われた。


私だって好きで目をつけられているわけではない。そんな呆れ顔で言われても困る。


「私の能力で柊吾さんの能力を搔き消しちゃったみたい」


そう言うと、椿は苦い顔をする。

いつだって、椿は私の能力の話をする時は、辛そうな顔をするのだ。


「柊吾は猜疑心の強い男だからね…根は悪いやつじゃないけど、透視の能力も相まって敵にすると厄介な男だ」


「敵って…確かに能力を周りに知られるのは嫌だけど、こうなったらバラすしかないよね」


そう言うと、椿はダメ、と短く答えた。


「柊吾は軟派で女ったらしだから、柚葉の能力を知ったら何をするか分からない。関わっちゃダメだよ。僕がなんとかするから」


なんとかって何をするつもりなんだ、椿は。

椿の表情が少し陰る。


「…こういう時に、人の心を読めるのって便利だよね」


ニヤリと意地の悪い表情をする椿。

おそらく、柊吾の弱みでも握っているのだろう。


とにかく、この件は任せて、と言って、椿は持ってきたカレーをレンジで温める。


「1人で食べるのも何だし、一緒に食べようよ。ご飯をちょうど炊いたところだったから」


私の返事を待たずに、椿は私の分の食器も用意している。


そういえば、引っ越してから椿とこうやってご飯を食べるのは、初めてだ。


避けようと思って、この家に越してきたのに、椿も隣に越してきたから、結局は私達の距離は微妙なままだ。


前の方がお互いのこと何でも知っていたけれど、今の椿の状況を私は何も知らない。


前は甘口のカレーが好きだったが、今は違うかもしれない。


そんな些細な疑問も、前だったらすぐに答えられたのに。


ねえ、と私は椿に尋ねる。

椿は何、と言って、ご飯をよそいながら返事をした。


「椿、彼女できた?」


私がそう尋ねると、椿はしゃもじを落とした。


「…いきなり何?恋バナは女友達としてよね」


椿はしゃもじを拾うと、洗い始めた。

いきなり、突発的すぎただろうか。


でも、もしかしたら椿ルートに入っているかもしれない。この前会った桃香の口ぶりからすると、バンドメンバーと恋仲になることが濃厚だ。


「もう私達高校生でしょう?恋人の1人くらい出来ることもあるかなって…」


そう言うと、椿の手がピタリと止まり、私の方に早足で向かってきた。


少し濡れた手が私の頬に触れる。


「…そういう話題を振るってことは、柚葉、彼氏出来たの?」


真剣な表情をした椿か問う。

私は顔を真っ赤にして、首を横に振る。


その答えを聞くと、椿はふっと笑った。


「なんだ、単なる思春期か」


いつものように馬鹿にされ、私は思わずムッとなる。


「…そういう椿はどうなのよ」


椿はご飯を盛った皿にカレーをいれながら、いないよ、と答えた。


私は思わずホッとしてしまった。

椿ルートに入れば、私が兵器として能力を使うことになることは、ほぼ必然だ。


きっと、私がホッとしたのはそういうことに違いない。


いただきます、と互いに手を合わせて、カレーを口にする。


「うん、相変わらず柚葉のカレーは美味しいね」


柔らかく微笑む椿の表情に、変わらぬ日常を感じた。


変わるものもあるけれど、変わらないものもある。これは、ゲームじゃない。現実なのだから。


私はそんなことを考えながら、久しぶりの幼なじみとの夕食を楽しんだ。


数日後。


エレベーターで私は柊吾と鉢合わせをした。


私の顔を見るなり、柊吾は血相を変えた。

椿は一体、何をしたんだ。


「この前は、女性に対して失礼な態度を取ってしまって、すまなかったね」


目が笑ってないだけで、さほど失礼な態度は取っていなかった気がするが、突っ込むと面倒なので、私は愛想笑いをした。


「いえ、大切な人の付き合いって気になっちゃいますよね。変な人と付き合ってたら心配になりますし…」


そう言うと、柊吾は目を丸くした。

椿に聞いたの、と尋ねられ、私は首を振る。

まさか、これって…


「柊吾さんって、もしかして桃香さんのこと異性として好きだったりします?」


そう言うと、柊吾は作り笑いを浮かべて、無言でエレベーターに乗り込んだ。


はっきりとした答えはもらえなかったけれど、これはおそらくクロだろう。


…柊吾ルート濃厚か?


私は、1人エレベーターホールに残されて、そんなことを思ったのだった。


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