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閲覧いただき、ありがとうございます。

呼び出し音がしばらく鳴った後、出たのは、やはり蓮央だった。


「京 柚葉だな。直近で暇な日いつだ?」


応答するや否や、蓮央はそんな質問を私にぶつけた。


「え、ええと…明後日ですかね?」


私はしどろもどろになりながらも、蓮央の質問に答えた。


「分かった。明後日の14時に駅前の改札で会おう」


蓮央はそう言うと一方的に電話を切った。

私は戸惑いながらも、メモに時間と場所を書いた。


何なんだ、あの人は。


翌朝。


私は隣から聞こえた盛大な物音で目が覚めた。どうやら、椿が何か物を倒したらしい。


あれから、すぐに蓮央に電話をかけ直したが、応答はなかった。


2人っきりで会うのは怖いから、出来れば電話で済ませたかったんだが。


しかし、恐怖の会合は明日だ。

今日は休日なので、のんびりと過ごそうとベッドからのそのそと抜け出した。


それにしても、いつも完璧に隙なく物事をこなす椿が、こんな激しい物音を立てるようなうっかりをするのは珍しい。


私は気になって、簡単に身支度を整えて、椿の家を訪ねることにした。


しばらく、沈黙の後、鍵が開く音がして、扉がゆっくりと開いた。


「…なに」


「大きな物音がしたから、何かあったのかと思って…ってもしかして椿、具合悪い?」


いつもより覇気がなく、どこかしんどそうな表情を浮かべた椿。


椿の額に触れると、かなりの熱があった。


椿の肩越しに部屋を覗くと、間接照明が倒れ、その先にあった書類が散乱していた。


おそらく、薬か何かを取ろうとしたのだろう。


私は椿を部屋に押し返すと同時に部屋に入り、散らばった書類を纏めて、間接照明を元の位置に戻した。


「…感染るといけないから、帰っていいよ」


椿は弱々しい声でそう告げる。

その言葉に私は首を振る。


「いやよ。こんな状態の椿、放っておけないわ。今日は一日休みだから看病してあげる」


そう言うと、椿は柔らかい表情をして、ありがとうと告げた。


薬と飲み物を持ってきた私は椿に薬を飲ませる。椿は熱でぼうっとしているのか反応が薄い。


「…蓮央と会うんだね」


しばらくすると、椿はぽつりとそんなことを呟いた。私は一瞬考えてから頷いた。


きっと心を読んだのだろう。

下手に隠しても、椿の気持ちを害すだけだ。


「ごめん、今は体調を崩していて、いつもみたいに能力の制御ができなくて…」


つまり、いつもは心を読まないようにしていたのか。椿は何だかんだ言って優しい。


弱っているのか、いつもより態度も弱々しい…調子が狂ってしまう。


「隠すつもりはなかったし、いいのよ…明後日会いに行くわ。何だか私に話があるみたいだったし」


椿はそう、と言ってしばらく何かを考えこんでいた。


「…何かあったらすぐに連絡して」


私は頷いた。


私が前世の記憶を取り戻した時に見た心配そうな表情を浮かべた椿。


あの時から、私は椿のことが人として大好きなんだ。不器用で優しくて、少し臆病なところ。こういうところは本当に変わってないな。


私は椿の額に手を触れる。

今日は椿の方が体温が高い。


「…静かになったでしょう?しばらく側にいるから、ゆっくり休んで」


こういう時に私の能力って便利だな。

初めて、自分の能力をまともに使えた気がする。


椿はしばらくすると穏やかな表情を浮かべて目を閉じた。


椿が私をいつも助けてくれるように、私も椿の役に立ちたいんだよ。


今は椿の能力を無効化しているから、そんな声は届かないはずなのに。


椿は私の空いている方の手を握ったのだった。


次の日。


結局、昨日は夜まで椿の部屋で看病をして、1日が終わった。


もうすぐ12時だ。

そろそろ、駅に向かう準備をしなければ。


私は少し迷った後、私が原作の知識を記したノートも鞄に詰めた。


私は駅前に集合時間の30分前に着いてしまった。


それなのに、蓮央は既に駅前で待っており、私の方に気がつくと、手を引いた。


「行くぞ」


手を繋いだまま行くんですか、という抵抗の声は上げれなかった。

この人、ゲームで見てる時はそんなに思わなかったけど、現実で見ると威圧感がすごい。


「今日は椿は来ないんだな」


「ええ…少し体調を崩していて」


「そうか、それは丁度いい。アイツが来ると話にならないからな」


同じバンドメンバーなのに、椿をぞんざいに扱う態度にムッとしてしまう。


原作では、もう少しバンドメンバーに敬意を払っていた気がするのだが。


ここに入るぞ、と蓮央に言われて、連れてこられたのは、蓮央に似つかわしくない純喫茶だった。


席に着くと、蓮央は私がメニューを見る前に、アイスティーを2つ、と頼んで、注文を終えた。


「さて、本題に入ろうか。京 柚葉、お前は何者だ?」


この前と同じ質問をされる。

何者かと聞かれても、京 柚葉です、としか言いようがない。


「何が言いたいんですか?」


「椿とはどういう関係だ?他のメンバーとは接点があるのか?どうして、能力者なのに外部の学校に通っているんだ」


質問を一方的にされても、返答に困ってしまう。


「椿とは幼なじみです。他のメンバーというと、バンドメンバーのことですか?接点はありません。能力に頼って生きていくのが嫌なんです」


蓮央は何かを考えるようにブツブツと呟く。


「腹の探り合いをしても、埒があかないな…単刀直入に聞くぞ」


しばらくした後、痺れを切らしたように蓮央は頭を掻いた。


「お前はこの世界をどう捉えている?『乙女ゲーム』という言葉は知っているか?」


「…知っています。この世界がゲームの世界であることも」


蓮央の言葉にさして驚きはしなかった。

そんな予感がしていたから。


蓮央は私の言葉に、やっぱりか、と項垂れた。


急に蓮央の声が脳内に響く。テレパシーだ。


「元プレイヤーか?この世界のこと、どこまで知っている?」


「ゲームの内容はある程度は…貴方も転生者なんですか?私と同じプレイヤー?」


「いや、俺は制作側にいたんだ。性別も男のまま。ゲームの隠し設定とかも知っている」


なるほど。

それで、この人はゲームの世界だと気がつけたのか。


しかし、ゲームの隠し設定なんてものがあるのか。それは、流石にプレイヤー側では知り得ない。


私がゲームの隠し設定について尋ねると、蓮央は少し考えた後、ニヤリと笑った。


「例えば、京 柚葉は昔から虐めていた宮崎 椿のことが好きだった、とかな」


私は思わず固まってしまう。

もしかして、私のこの気持ちは…

そう考えて、首を振る。


蓮央はそんな私に御構い無しで、話を続ける。


「京 柚葉は、宮崎 椿に歪んだ愛情を持っていた。自分の人生を変えてしまった椿を憎む一方で、どんなに虐めても、奴隷のように扱っても、心まで支配できない椿にいつしか惹かれるようになった」


そういえば、椿ルートに入ると、柚葉はヒロインを執拗に虐めていたけれど、他の攻略対象の時は、そこまで悪質なことはしていなかったような。つまり、椿の時だけ執拗に虐めていたのは、柚葉の嫉妬?


「私が転生者であることを見越した上で、親切に隠し設定を教えに来てくれたんですか?」


私がそう尋ねると、蓮央はそんな怖い顔するなよ、と笑った。


「転生者同士仲良くしようぜ。隠し設定はオマケみたいなもんだ。ただ、原作の京 柚葉と目の前にいるオマエが別人みたいで気になったんだ」


そういえば、蓮央は原作とは変わらない人格をしている気がする。そう、演じているのだろうか?


「オマエはゲームの世界だと知った上で、自分が進みたい道を選んだんだな。でも、そのせいで、この舞台は歪んでしまった」


ひやり、と背中に冷たいものが走る。

どういう意味か尋ねると、蓮央は目を細めた。


「例えば、京 柚葉という最高の引き立て役が居なくなった今、ヒロインである桃香は誰とも恋愛関係になっていない。それに、京 柚葉が盾として、犯罪者と向き合わなければ、能力持ちの犯罪者は右肩上がりになるし、能力者のイメージは悪くなる一方だろう」


スラスラと蓮央は私の脳に話しかける。


つまり、私は原作のゲーム通りに動かないと損益の方が多い?


桃香の恋愛はともかく、フラグを回避することで、犯罪者を助長させてしまうなんて…


店員がアイスティーを運んでくる。

置いた拍子に氷がカランと鳴る。


その音がやけに響いたような気がした。


「まあ、お前がどう動こうと知ったこっちゃない。俺だって桃香と色恋沙汰になるつもりはないし。ただ、シナリオ通りに動かないと歪みが生じることだけ覚えていて欲しかったんだ」


私が言葉を失い、真っ青になっていることに気がついたのか、蓮央はそう取り繕った。


私は蓮央の言葉に、ただ頷くしかなかった。


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