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閲覧いただき、ありがとうございます。

〜さくらside〜


アタシには大好きな両親がいた。

ずっと、この幸せが続くと思っていた。


だけど、その幸せはアタシが小学生の頃、呆気なく終わってしまった。


後のブラッディ・ヒューマンデーと呼ばれる能力者が起こしたテロによって、アタシの両親は還らぬ人となった。


それからは、折り合いが悪く、悪徳商売に手を染める叔父の家で惨めに暮らした。何で、こんなに自分は惨めな思いをしなければならないのか。アタシは被害者なのに。


その理不尽への怒りは歳を重ねるごとに大きくなっていった。そして、私は気がつけば、空気を読むアタシのスキルを活かして、叔父を誑し込めて、洗脳のスキルを得て、一般人や能力者をマインドコントロールをするようになっていった。


でも、そんなことをしていくうちにアタシはどんどん自分自身が嫌になった。それだけじゃない、歳を重ねていくうちに叔父の私を見る目が変わった。叔父に女扱いされるようになってから、アタシは能力者だけでなく、男も嫌いになった。


一番、アタシがお気に入りの駒である、香川 蘭丸は進んで女装を始めたっけ。

蘭丸はアタシが直接手を下すのを嫌い、私の命令でどんな人でもアタシの代わりに蘭丸が罰を下すのだ。どうやら、マインドコントロールが効きすぎたみたい。


どんどん、負のループに陥っていくアタシ。道を間違えてしまったという現実はアタシは認めたくなかった。もう、戻れないから。


そんな時に出会ったのが、千葉 杏一だった。

屈託のない笑みで他愛もない話をして。

杏ちゃんがいたから、自分の好きなことを見つけられた。オシャレも出来たし、アパレルショップでアルバイトなんて、高校生にはちょっぴりハードルの高いことも出来た。


なのに、蘭丸が遊園地でターゲットの能力者を見つけて、奇襲をかけた時、こっそり離れたところで蘭丸の奇襲を見守っていたアタシは見てしまった。


杏ちゃんが見たこともないような丸い空間を作り、そこから京 柚葉と徳島 一犀を避難させた姿を。


私が密かに想っていた人も能力者だったのだ。


もう、戻れない。

それが、たとえ友人だとしても、自分の好きな人だとしても、アタシは復讐を続けなければ。こんな一時の感情に左右されては困る。


アタシの足元には、たくさんの能力者達の屍がある。時には、巻き込まれた一般人の屍だって…


多くの犠牲を払った今、アタシは復讐を成し遂げなければならない。そうでなければ、アタシはー。



「さくら」


蘭丸の声にハッとする。

どうやら、蘭丸が帰ってきたみたいだ。

ずっと、意識のない杏ちゃんを見つめながら、体育座りをして、ぼうっとしてしまっていた。


蘭丸はコンビニのビニール袋をアタシに差し出した。中身はおにぎりとペットボトルのお茶だ。


「高台に京 柚葉と徳島 一犀が来たよ。アイツらも多分能力者」


そう、と呟いたアタシは貰ったお茶を口に含んだ。蘭丸は杏ちゃんの目の前でしゃがみこむと、拘束された手首にそっと触れた。


「千葉 杏一、一回目を覚ましたでしょう?抵抗した跡がある」


アタシが頷くと、蘭丸は目を細める。


「それ、食べ終わったら処分するから、さくらは外に出ていて」


え、とアタシが声を上げると、蘭丸は首を傾げた。


「能力者は全て処分するっていうのが、さくらのモットーでしょう?」


「そ、う、だけど…」


「そういえば、さくらは千葉 杏一が好きだったね。情が湧いたの?」


蘭丸の言葉にアタシは思わずカッとなり、違うと大声で否定した。すると、蘭丸はにっこりと可愛らしい笑みを浮かべて、なら、問題ないよね、と言った。


アタシは、いつもよりもゆっくりおにぎりを食べた。杏ちゃんを処分する時間を迎えたくなかったから。


蘭丸はそんなアタシを傍目で見ながら、杏ちゃんの側を離れず、監視している。


おにぎりなんて、いくらゆっくり食べても10分程にしかならない。

蘭丸は食べ終わったね、と立ち上がり、アタシの背中を押して、外に出そうとした。


「さくら、ちゃん…」


あと、一歩で扉のノブに手をかける、というところで、杏ちゃんの声が聞こえ、アタシは思わず立ち止まった。


「さくらちゃんが今までどんなに苦しい想いをしたかは僕には分からない。でも、こんなことをして、さくらちゃんの心の傷は癒されるの?」


「うるさい」


いつもなら、杏ちゃんの軽口に文句を言っても、軽口で返されるのに、今の杏ちゃんは真剣そのものだった。


「今なら、まだ間に合うよ。だって、さくらちゃんはまだ16歳でしょう?やり直せるチャンスはある」


やめて、そんなことを言わないで。

アタシが迷っていると、杏ちゃんの短い呻き声が聞こえた。振り向くと、先程までアタシの後ろにいたはずの蘭丸が杏ちゃんの鳩尾を蹴り上げたのだ。


「はは…とんでもないナイトくんがいるんだね、さくらちゃんは…」


杏ちゃんはそう言うと、今までにない、大きなワープゲートを自分の縛られている背後にある壁に作り上げた。蘭丸はそれを消滅させようと、杏ちゃんを殴るが、杏ちゃんにはまだ意識があるようだ。


「本当はこの手は使いたくなかったんだけど…ごめんね、柚ちゃん。力を貸して」


そう言うと、1人の少女がそのワープゲートから出てきた。


「京、柚葉…」


確か、杏ちゃんの友達だ。

柚葉はすぐに状況を把握すると、蘭丸を押し倒した。


アタシが呆気に取られていると、もう1人がワープゲートから出てくる。徳島 一犀だ。

一犀は、アタシと蘭丸に警戒しながら、杏一の拘束を解いていく。


アタシは立ち止まったまま、それを止めることも妨害することもしなかった。


蘭丸は手足をジタバタさせるだけで、身動きが取れずにいる。普段、蘭丸は自身の力の無さを能力で補っているため、こういった状況では、いくら男女の差があっても、抵抗出来ないのだ。


蘭丸は暴れたせいで、カツラが取れてしまい、蘭丸の綺麗なブロンドが露わになる。


蘭丸は精一杯の力で、近くにあった棚を操ろうとするが、それは叶わなかった。


「能力が、使えない!どうして?」


蘭丸が慌てた声を上げる。

こんな間近で起こっていることなのに、まるで現実味がない。


ただ、1つだけ分かったこと。

それは、自分の重ねた罪が暴かれ、二度と罪を重ねることが出来ないと言うことだった。


アタシには、その事実が絶望的だと思うより、やっと終わるんだ、という妙な解放感に襲われた。


自分が始めた復讐なのに、こんな形で終えたのに、アタシはどこか清々しいものを感じたのだった。



数日後。


「…本当に良かったの?」


私が尋ねると、杏一はうん、と頷いた。


「僕がさくらちゃんを糾弾しなくても、さくらちゃんは充分に反省しているよ。これ以上、さくらちゃんを苦しめるようなことはしたくない」


杏一の表情はどこか寂しそうだった。

さくらが捕まった時、杏一は泣きそうな表情をして、ごめんね、こんな友達で、とさくらが乗るパトカーが見えなくなるまで見続けていた。


こうして、一連の事件は終わったのだ。


「桃香ちゃん、今日退院するから、僕、退院祝いの花束を用意したんだ!」


杏一が話題を変えようと、ピンク色を基調とした花束を私に見せた。私は、そんな杏一に、きっと喜ぶよ、と言って笑ってみせた。


あの後、養成学校を中心に蘭丸が起こした騒ぎで負傷した人々は次々と回復をした。


どうやら、私の能力者の無効化の能力は、能力者に触れれば、能力によって、傷を負った人達の傷も無効化することができるらしい。


幸か不幸か、私の能力の応用スキルがこの事件で判明したのだった。


「柚ちゃんは、幼なじみくん…椿くんのお見舞いに行くんでしょう?」


私は小さく頷いた。

あの事件を知った蓮央に、さくらのことを尋ねた。和歌山 さくらは蘭丸と同様にこの乙女ゲームの没キャラクターだったらしい。

蘭丸とさくらは、私と椿同様に幼なじみだったらしい。そして、蘭丸はさくらにずっと想いを寄せていたという隠し設定があったという。

この没案が詰め込まれた世界では、そういった隠し設定が色濃く反映されているのでは、というのが、私と蓮央が出した結論だった。


転生者ではないにしろ、自分の運命に囚われてしまったさくら。


私はさくらを見て、役割やキャラクター、運命に囚われることの恐ろしさを知った。


だから、私は信じてみようと思ったのだ。

乙女ゲームのライバルキャラ、京 柚葉としての運命を超える自分の可能性を。


杏一と別れた私はゲームの世界だからといって燻らずに、自分の気持ちに向き合う覚悟を決めて、椿の病室の扉に手をかけるのだった。


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