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閲覧いただき、ありがとうございます。

いよいよ、臨時アルバイト最終日。


アルバイトは私の目論み通り、桔平のことを忘れることが出来たが、椿のことは忘れられなかった。それどころか、桃香の想い人を知ってしまい、新たな出来事が私の頭を悩ませた。


「桃香さんは、その人とどこまでいってるの?」


私が尋ねると、桃香は寂しそうに首を振った。


「何も言ってないよ。告白したけれど、振られちゃった」


はぁ!?と私は思わず声を上げる。

桃香も辺りにいた従業員も驚いた顔をする。

しまった、ここは職場だった。皿洗いだったのが、せめてもの救いだ。


「私のこと全然相手にしてくれないの。どうしたら、魅力的な女の子になれるかな?」


桃香は十分魅力的だ。なんたって、この乙女ゲームのアイドルなのだから。そんな恋する乙女のような顔で聞かれても困る。


「もっとお前には良い人がいるって言って、私がアプローチしても躱すだけ。どうしたら、いいんだろう?」


「それは、桃香さんよりも相手の方に原因があるんじゃ…」


そう言うと、桃香はそんなことない、と否定した。恋は盲目。どうやら、桃香は想い人に心酔しているらしい。


これは、帰ったら相手の方にも話を聞かなければ…


というか、アイツは一体何を考えているんだ。人のことなんて言えない。アイツだって、場を乱しているじゃないか。


桃香の想い人、それはー。



〜桃香視点〜


笑う門には福来る。女の子はニコニコ笑っていれば、幸せってどこかの本に書いてあったけれど、そんなの嘘。


大きくなればなるほど、私はコンプレックスの塊になった。そして、出来たあだ名は『八方美人の桃香』。


男の人はセクハラ紛いのことをして、やたらスキンシップが多くて、女の人はそんな私を見て、男にちやほやされている男たらしと蔑む。


老若男女問わず、私の人間関係はギスギスしっぱなしだ。


中学の頃。

人間関係が嫌になった私は図書館に籠るようになった。そこで、本と触れ合っていたら、ある日、自分に能力があることに気づいた。


本に触れると、その本を書いた人、読んだ人の思想が読み取れるようになってしまったのだ。興奮、悲しみ、怒り、喜び、絶望…色んな感情を本だけでなく色んな物から読み取れるようになった。


そして、能力を開花させてしまった私は、変わり者が通うことで有名な養成学校に入学することになった。


今度こそ、空気を読んで、人間関係を円滑に築こうと思ったのに、人生はそう簡単に上手く行かなかった。


ある日の放課後。

日直で居残りをしていた私は教室に向かう途中、男子生徒達が私のことを話しているのを耳にしてしまった。


「石川さんって実際どうなの?」


1人の男子生徒が誰かに声をかける。


「どうって?」


あ、この声は同じバンドメンバーの蓮央くんだ。私は思わず、近しい人間の声にドキッとしてしまう。


「男にだけ色目使って、女とはバチバチしてるって」


「成績も学年一位だけど、実は先生とデキてるからだとか」


背筋がヒヤリとする。

ああ、やっぱり。ここでも、そんな風に思われているんだ。


「別に色目なんて使ってねえよ。それに、バンドだけじゃねえ、アイツは努力家だよ。そんな陰口叩いている暇があったら、俺達も学業頑張んないとな」


「うわ、出たよ。蓮央って変なところ、親父みたいだよなあ」


つん、と鼻の付け根が痛くなる。

やばい、泣きそうだ。

ちゃんと私の努力を認めてくれる人がいた。


蓮央くん達にバレないように、私は足音を消して、ゆっくりとその場を離れた。


ある日のバンド帰り、私は蓮央くんと一緒に帰っていた。


「ねえ、蓮央くん。八方美人ってどう思う?」


私はドギマギしながら、そんなことを尋ねた。蓮央は少し考えて、答えた。


「八方ブスより良いと思う」


ああ、ダメだ。これは、本格的に好きになってしまう。


くしゃっと笑う蓮央の姿に、私の心は完全に陥落してしまった。


そして、私は次に2人きりで帰る機会があった時に告白した。


「好きです」


蓮央は少し驚いたように、俺?と尋ねた。

私はこくこくと頷く。


しばしの沈黙の後、蓮央は気まずそうに、えっと、と呟く。

伊達に、人の気持ちを察しようとしていない。フラれると直感した私は思わず変なことを口走った。


「お試しでもいいから、付き合って欲しいの…!」


そう言うと、蓮央は私の肩を掴む。

その表情は真剣そのもので、私は思わずドキッとしてしまう。


「もっと自分の身を大事にしろ。お前はそんなに簡単に身を委ねて良い女じゃない」


蓮央はそう言うと、私の頭をわしゃわしゃと撫でた。恋人が欲しいと焦ってたんだな、と蓮央は呟く。


違う、そうじゃない。

でも、私は否定の言葉を告げることが出来なかった。


そう呟いた蓮央はどこかホッとしたような安堵の表情を浮かべていたから。



次の日。


私は自宅マンションに着くや否や、蓮央を呼び出した。


『すぐ来て、今すぐ来て、至急来て』


『なんだよ、いきなり!電話で話せよ』


『いいから、来て。私の家に来て』


そう言って、私は通話ボタンを切った。

桃香に告白されていたなんて、聞いてない。

ヒロインから攻略対象に告白させるなんて。


乙女ゲームにそんなリアル要素はいらない。

ヒロインはただヒロインに惚れた攻略対象にアプローチされて、ドキドキしてればいいのだ。


「なんだ、そんな息巻いて。闘牛かよ」


私の家に来るや否や、蓮央はそんな軽口を言った。蓮央の態度に腹が立った私は思わず、頭突きを食らわす。


「ってぇ…何すんだよ!」


「何すんだよ、はこっちのセリフよ!何フってるのよ!」


ああ、桃香と会ったのか、と蓮央は額をさすりながら、ぽつりと呟いた。


「何で!?何で付き合わないの!?あの可愛い子ちゃんと!!」


「…少し落ち着けよ」


私は興奮する一方だが、蓮央は至って冷静だ。蓮央は面倒臭そうに頭を掻いて、説明を始めた。


「別に桃香が嫌いなわけじゃねーよ。ただ、製作者の俺にとって、アイツは架空の存在でしかない…100歩譲って、娘みたいにしか思えねぇんだよ。だからアイツは柊吾や杏一と付き合った方が幸せになれるんだよ」


「実際、付き合ったら現実の可愛い女の子に思えるかもよ?」


「アイツは俺好みの女だからな。実際、そう作ったし…でも、理屈じゃ割り切れないんだよ。お前だってそうだろ?」


そう言うと、私は何も言えなくなる。

私だって、椿とこんなに複雑な関係になったのは、本意じゃない。


「そういえば、もうすぐブラッディ・スーパーヒューマンデーだな。お前も気をつけろよ」


蓮央は話題を変えた。

ブラッディ・スーパーヒューマンデー。

それは、私が能力を開花する前に起こった、社会に不満を持った能力者達が起こしたデモの日だ。多くの犠牲者を出したこの日を、人々はブラッディ・ヒューマンデーと呼び、犠牲者を弔うのだ。


しかし、この日は同時に、一般人達が能力者を虐殺することが多くなる日である。

だから、私達、能力者はこの日に外出することを控えるのだ。


「こんなの、ゲームになかったのにね」


「いや、隠し設定であるんだ」


ああ、そうなんだ。

どんだけ、このゲームには隠し設定があるんだ。隠しすぎて、プレイヤーに伝わってない。


転生者だからって、チート出来るとは限らないんだな。


そんなことを頭に浮かべながら、私は今後自分の身の振り方について考えるのだった。




「柚ちゃん、この前はありがと!とっても助かっちゃった!」


「はいはい、どうも」


「温度差!」


杏一と部活恒例のやりとりを交わしながら、私は三色パスタを作る。

三色パスタは、ジェノベーゼとボロネーゼ、カルボナーラの三色で彩り豊かにするものだ。部活ではソースだけではなく、麺から作っていく。


「杏ちゃーん!お腹すいた、ご飯分けて!」


「いいよ、もっちろん!待っててねえ!」


声がする方を向くと、以前、一犀と遊びに行く際に、杏一が私の為にコテを貸してくれた杏一の女友達だ。私に気がつくと、どうもと笑った。


気難しい一犀からギャルっぽい女友達まで、杏一は相変わらず顔が広い。


「で、彼女は彼氏と順調なの?」


パスタを待つ間、杏一の女友達は私にそんなことを尋ねた。彼氏とは、恐らく一犀のことだろう。


「いや、あれはそんなんじゃ…!」


「柚ちゃんはね、2人の男にモッテモテなのよ!あ、でも桃香ちゃん曰く、第3の男もいるとか…」


「お前はもう黙れ」


「ひどい!」


杏一はろくなことを話さない。

杏一の女友達は、すっかり杏一の話を信じ、意外と魔性の女なんだと頷いている。


「貴女はどうなの?誰が好きなの?」


最近、よく核心を迫るようなことをみんな聞いてくる。

あれから、桔平とは頻繁にメールのやり取りをしている。椿ともだいぶ昔のように接することが出来るようになった。一犀とは変わらずの仲だ。


本当は分かっているはずなのに、私は分からない、と誤魔化した。

杏一の女友達はそれ以上、追求することもなく、そっかぁ、と言った。


そういえば、今日は一犀が来ていない。

何かあったのだろうか?


そんなことを考えていると、一犀からメッセージが来た。


『ライブハウスには近づくな』


ライブハウス?いきなり、どういうことだろうか?


私が疑問符を浮かべていると、杏一が、犀くんから?と尋ねる。私はとりあえず頷いた。


おそらく、一犀は未来予知で私の未来を見たのだろう。でも、いつどこのライブハウスかは書かれていない。


私はとりあえず一犀の警告を頭の片隅に置くのだった。


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