もしかして、高学歴なんじゃ…?
敗残兵な私を松っちゃんは抱きしめてきた。
「もう大丈夫。これからは俺がいる」
え〜…と、何この状況。
「それは、私の借金も含めて、全ての面倒を見るという事ですか?」
ゆっくり私の体を離し、胡散臭く微笑む。
「君の借金は、合法的に何とか出来るはずだよ」
いや、無理だろ。何だよ、合法的にって。
松っちゃんが真剣な表情で私を見つめてきた。
「俺は、来週には事故の後遺障害認定で保険金が支払われるんだ」
「はぁ」
「5千万くらいある。それを元手に株をやろうと思うんだ」
今、5千万って言った!?…ヤバイ!顔に出たかも?落ち着け!私!
「え、そんなに出るんですか?」
カリカリと頰を掻きながら、話を促す。
「うん。まぁ零細企業だったけど、利益は出てたから、それを元に計算したら、それくらいが妥当ってことで、揉めないギリギリだったんだ。もっと吹っ掛けてもいいんだけど、時間掛かるからさ」
あ、確か社長だったっけ?胡散臭いとか思ってたけど、本物だったんだ。
「じゃあ、そこから弁護士費用を引いた額が5千万くらいってことですか?」
「弁護士なんか頼んでないよ」
松っちゃんは真顔で言った。
「その手の計算は自分でも出来るし」
なんだってーーー!?
「いやいやいや、保険金の計算って、めっちゃ難しいんじゃないですか?」
前の店で事故ったって娘が弁護士費用が大変とか言ってた気がする。
「計算式が分かれば、誰でも出来るでしょ?」
またも真顔で、誰でも出来るとか言ってきた。間違いなく私には出来ねーよ。自信ある。数学苦手だから。
「…因みに、何の会社だったんですか?」
「ご近所の共産圏の国からの海産物を輸入する会社だよ。今はフリーで通訳やってるけど」
あ、分かった。松っちゃんは昔仲良かった昼の同僚と、同レベルの学歴クラスだ。
彼女とは隣国の神話系小説の話で大いに盛り上がった。当時は隠れオタだったから、漫画化とかアニメ化とかで興味出たのは内緒にしてたけど。
彼女は六大学の、ややお高い系私立の文学部卒で、学生時代には翻訳のバイトをしてたって言ってた。
「通訳ってことは、大学とか出てるんですか?」
「うん。まあ、あんまり言いたくないんだけど、高校からエスカレーターで行けるとこ」
「…もしかして、都内の?」
松っちゃんが今日初めて目を逸らした。
「なんで?」
「昔、学生時代にバイトで翻訳してたって友人が居たんです。彼女は六大学卒でした。…エスカレーター式の」
松っちゃんは深い溜息を吐いて、困った様な笑顔を向けてきた。
「マリアちゃん、もしかして、首都圏出身なの?」
「まぁ、近いですね。こっちではあんまり言わないんですけど」
短い沈黙の後、二人で吹き出した。
「だよね!百万都市なら平気だけど、この辺じゃただの嫌味だからね」