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第七話

食べることのお話

「げほっ」


 むせて、起きる。喉はカラカラ、お腹もこれでもかと空いていて、寝覚めとしては最悪だ。何より目を開くと同時に視界に飛び込んで来た赤々と燃える炎のせいで、本当に最悪の目覚めになってしまった。

 驚いて飛び起きようとするも、全身がコンクリートか何かになってしまったように重く、思うように動けない。ああ、僕はここで焼け死ぬのか、と、静かにどこかで納得した。


「おはよう。ダメだよ、せめて雨くらいは避けられる場所で寝ないと」


 その炎の向こうに彼女がいることに気付き、もう一つ驚愕する。僕は彼女の手を取らなかったんだから、彼女が僕と一緒にいる理由もない。その彼女がここにいるということは、僕を追いかけて来た、なんて話になる。


「熱、はまあ大丈夫だよね。風邪もひかないだろうし。お腹は? 空いてない?」


 首を傾げる様は何度も見たそれで、天蓋が崩れた直後のものとはやはり異なる。彼女は彼女のままで、垣間見た恐ろしさなんてまるで感じない。唯一違うとすれば、スーツから覗く手と顔が肌色に変わっていたこと。記憶の中の彼女は、天蓋が崩れた辺りでこの色だ。これも僕の知らない何かなんだろう。

 だとしても、僕の中に植え付けられた恐怖が拭われることはなく、後ずさりしてしまう。すぐに壁にぶつかってどうしようもなくなった僕を、彼女は困ったように見つめている。


「何から話したらいいかな。とりあえず、場所? ここは君が寝転がっていたところの近くにあるちょっとした洞穴で、いい具合の形だから雨も入って来ない。濡れながら寝ちゃったら、いくら何でも死んじゃうからね」


 死ぬだなんて大げさな、と言いかけて止まる。彼女にとってはおそらく、死ぬなんて軽いことのはずだ。でなくてなぜ笑っていられるのか、僕には理解が出来ない。


「それと、これから君は外で生きていくことになる。私が出来得る限りのことをするけど、何でも出来るわけじゃないし、何からも守っていられるわけでもない。ちょっと運が悪かっただけで君は死んじゃうかもしれないし、私の手が届かないところじゃ何が起こるか分からない。だから、なるべく近くにいてほしい」


 言うと、彼女は炎に近付いて何かを取り出した。棒に刺さった何かがじゅわじゅわと音を立てている。これまで嗅いだことのない臭いに咽こみそうになって、それでも彼女から目を離す恐怖からどうにか耐えた。


「なんて、長話の前にちゃんと食べないと。良い焼け具合だよ」


 棒ごと渡される。果たして、これは本当に食べ物なんだろうか。棒がそこらの木から折ってきた物なのは分かるとして、刺されている物がよく分からない。こんな黒とも茶色ともつかない熱そうな見た目で本当に食べろと言っているのか。

 なんてまじまじと警戒しながら眺め回していると、くすくすと小さな笑いが起こる。


「君はやっぱり、変な顔でそれを見るんだね」


 出所の彼女はもう一本同じように取り出し、徐に口に運んでいた。


「大丈夫。ちゃんと食べられるから」


 同じように、しかし目を瞑って口に放り込む。途端、感じたことのない味と感触に口の中が占められる。これは何だろうと舌でグニグニしていると、また彼女が笑った。


「それが食べる、ってことだよ」

「食べる?」


 とうとう、僕は彼女に問いかける。いったいどこまでが本当なのか知りたくて、それでも深く聞くのは恐ろしくて、何となく聞きやすいところをオウム返しのように。


「そう。昔の世界で続けられていた人の営みを、ずっとずっと深いところから支えていたこと」

「昔?」

「こうなる前の世界。今のせかいとは何もかもが違っていた、人間が闊歩しちゃっていた世界。さすがに長くなるから、この話は後にしようか」


 また一本、僕はさっきと同じものを渡される。今度は謎の物体ではなく、明確に食べ物として目に映った。口の中を満たした感覚も、食べる、と彼女が表現したそれだと少しずつ分かってくる。

 だけど、それも束の間のこと。


「食べたら少し休んで、出発しよう」


 彼女はまた、よく分からないことを告げる。

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