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何故ここに・・・


「どんな変装にしようかなー」


私は変装用の着物を全て畳に置き、どんな変装にするか選び始めるが、町娘の着物や武士の着物、商人風などいっぱいあるから迷ってしまう。


「町娘の変装は移動が大変だし、武士の変装は目をつけられそうだし・・・」


「にゃあ」


私がう~んと悩んでいると、突然クロがある着物を前足で叩いた。


「どうしたの。クロ」


その着物を気に入ったのかな。でもその着物はただの黒い小袖なんだけど・・・。あっ!そうか!


「変装だからって町娘とか武士って役柄を決めなくても普通の着物を着ていけばいいのか!ありがとう。クロ」


そうだよ!変装は変装なんだから普通の格好でいいんだ!

それに正直、役柄を決めて演じるなんて面倒なことはしたくない。


私は早速着ていた忍装束を脱ぎ、黒い小袖に手を通す。


「う~ん、なんか違和感を感じる」


今まで着ていた忍装束ではズボンみたいなものを穿いていたけど、今はそれを穿いていない。だから違和感を感じるのかも。


でも小袖の下に忍装束を着ていたら変だし・・・


私がどうしようか悩んでいるとふと、あるものが目に入った。


「あっ、これなら」


私はそれを取り出して穿いてみる。うん!全く違和感を感じない!


「それにしても、結衣はよくこんなものを作っていたよね。こんな短いズボンみたいな物なんて・・・」


実は私が記憶を取り戻す前に、結衣は何故かこの時代に存在するはずのない短パンを作っていた。もちろんゴムなんてないから紐で縛るタイプのズボンだけど。



「せっかくだから男装してみようかな」


今の時代は女よりも男の方が偉いって思っている人が多い。確かこれを男尊女卑って言うんだっけ・・・。まぁいっか。


私は黒い小袖を脱ぎ、サラシを巻き始める。


・・・うっ、きつい。


胸を圧迫されて少し苦しいが、そのうち慣れるはずだ。


私は我慢してサラシを巻き続ける。



「出来た!」


ようやくサラシを巻き終え、袴を穿こうとするが、だんだん体調が悪くなってきた。


やっぱり少し緩めようかな。


さすがに体調が悪くなるほどきつく巻いてしまったらいざというときに大変なので、一旦サラシを外し、少し緩めて巻き直した。


「ふぅー」


少し膨らんでるけど、小袖を着るからバレないだろう。


サラシを巻き直すと、また小袖と袴を着て、髪を後ろで一つに括り準備万端!


ちなみに、変装中の袖の中には手裏剣や袖火、太股にはクナイ、懐には忍刀などを隠している。一応風呂敷の中にも忍器があり、怪我や病気のための薬も数種類入れてある。もちろんお金や飲み水も入れてあるよ!


「よーし!出掛けよう!」



ちなみにクロはお留守番だ。


最初は連れていこうと思ったが、もし何かあったときに守ることが出来ないので置いていくことにした。


くっ!一緒に色々な街に行きたかったのに・・・。

私の戦力が低くてごめんね。


「クロ。良い子で待っているんだよ」


私はクロの頭を軽く撫でてから屋敷を出た。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇







「やっぱり出掛けるなら一番賑やかな安土城の城下町だよね」


私は安土城を目指して、木々を木伝っている。だって二日間しかないんだからできるだけ早く着きたいじゃん。


さすがに途中で木がなくなったら歩道を走るけど、人の気配を感じたら早歩きで移動するようにしている。


やっぱり森は静かで居心地がいいなぁ。


「・・・・・」


私がほのぼのと移動していると、微かに金属同士がぶつかり合う甲高い音が聞こえてきた。


何かあったのかな。


私は少しだけ様子を見ようと方向転換し、その音のする方へ向かうことにした。


もしかして盗賊かな。それとも追い剥ぎかなって、どっちも同じ意味だね。


「・・・くっ!」


突然男のうめき声が聞こえ、我に帰る。


下では一人の男が数人の男達に襲われている。私が色々と考えている間に目的の場所へ着いたようだ。


やっぱり盗賊だったか。早くあの人を助けないと!


慌ててクナイを投げようとしたがふと、襲われている男の後ろ姿を見て何かが頭に引っ掛かる。


どこかで見たことがあるような・・・。


「この野郎ーーー!!」


私が思い出そうとしている間に、盗賊達が一斉に男に飛び掛かった。


「・・・っ!!」


数本の刀が男に向かって振り下ろされる。このままじゃ危ない!!


「ふっ。軟弱な奴らだ」


「・・・え」


私がクナイを投げようとした瞬間、盗賊達は一瞬にして地面に崩れ落ちた。


・・・あれ。いつの間に。


「つまらん」


私が茫然としている間に男は刀を鞘に収め、ゆっくりと振り返る。


「・・・っ!!」


そしてその男の顔を見た瞬間、やっと男の正体を思い出した。



上杉(うえずぎ) 謙信(けんしん)

金髪に吊り気味な青い瞳で綺麗な顔立ちをしている。

梅干しとお酒と(いくさ)が好きで、いつも(いくさ)を起こそうとする戦闘狂。過去に暗い記憶があり、人への執着が強い。


彼も『時をかける恋~戦国ver』・・・もう長いから略して『時かけ』の攻略対象の一人だ。


ちなみに彼のルートにも私の死亡フラグがある。しかも、それは主から謙信を監察することを命じられたが、途中で見つかり殺されるというただのモブらしい死亡方法だ。


いや、べつにモブらしい死亡方法でも死亡は死亡。フラグがあるんだ・・・。


いや、これ絶対佐助の仕業だろ!私が謙信に殺られると思って命令したな!!て、今はそれどころじゃない。謙信は剣術も戦術も優れているから、見つかったらひとたまりもないんだ。ひとまずここは逃げないと。


私が謙信に背を向けようとすると、謙信の後ろでゆらりと動めく影を見つけた。あれは・・・。


「・・・・・」


私が不思議に思っていると、その男はふらつきながらも刀を大きく振りかぶる。


まさか!!謙信に斬りかかるつもりか!さっきの一撃で謙信の力量は分かったはずなのに・・・。


私が動揺している間に、男が謙信に向かって刀を振り下ろそうとする。


「危ないっ!」


「ぐわっ!!」


私は思わず叫び、留まっていた木の枝を蹴って今にも謙信に襲いかかりそうだった男の顔面を蹴る。


途中で謙信の上を通ったけど、謙信は一瞬刀を抜こうとしただけで何もしなかった。私に殺意がないことに気付いたようだ。


「ふぅー」


男が木にぶつかって意識を失い、地面に倒れ込んでいるのを見てひと息つくが、内心では凄く焦っている。謙信が殺られそうになるのを見てついつい体が勝手に動いてしまったんだ。この後のことなんて全く考えていない。


チラッと謙信を盗み見ると、こっちを睨んでいる。そうだよね。突然男が現れたら警戒するよね。


「・・・・・」


「・・・・・」


しばらく沈黙が続き、今もなお謙信は私を睨んでいる。

佐助ほどじゃないけど、視線が痛い。


うわー!どうしよう。何を話せば・・・。


慌てて対策を考えるが、全く思い付かない。


もうこのまま逃げちゃおうかな。


私は考えるのを放棄して逃げることを決意する。


「・・・っ!!」


しかし、私が謙信の視線を無視して木々の間に姿を隠そうとすると、突然後ろから伸びてきた手に引っ張られてしまい、気付けば木に押さえつけられていた。


「・・・・・」


目の前には何故か謙信の顔がある。


綺麗な顔だなぁって、あれ。今どうなっているんだ。両手首を謙信に捕まれて、木に押さえつけられていて・・・


今の状況ってまさに謙信の死亡ルートと同じじゃん!!謙信を監察していたら、見つかって斬り殺される!!いや、正確には自分から飛び出してバレたんだけど・・・って、そんな呑気にしていられない!一刻も早く謙信の腕から抜け出さないと!!


「離せっ・・・っ!」


私は謙信から逃れようともがくがびくともしない。

くっ!やっぱり男と女じゃ力の差がありすぎる。でも何とか逃げないとゲーム通りに殺されて・・・。


顔からさあっと血の気が引くのを感じる。


「忍か」


「違うっ!」


やっぱりバレたか。まぁ木の上から飛び出て来たんだから当たり前だろうけど・・・。


「何故、俺を助けた」


「・・・えっ」


私が四苦八苦しながらもがいていると、謙信が真剣な瞳で私を睨みつける。


おかしいな。ゲームでは謙信に見つかるとすぐ斬り殺されるはずなのだが、今の謙信はただ私の手首を拘束しているだけで、何もしていない。何でだろう・・・。


「応えろ」


私が考えていると、謙信が声をさらに低くして問いかけてくる。


心なしか、手首を掴む手の力が少し強くなった。


「別に、ただ偶然ここを通りかかったから助けただけだ」


本当は体が勝手に動いたんだけど。


私は目の前にある謙信の顔を睨みながら言った。少しでも怯える様子を見せたら、相手に隙を見せることになる。


常に堂々と・・・って、別に忍はあまり堂々としたらいけないんだけど・・・。


「何が目的だ」


謙信の掴む力がさらに強くなり、爪を立てられた。血は出てないけど、ズキズキ痛む。


「っ!何も目的はない!いいから離せ!!」


私は叫ぶのと同時に謙信の手を思いっきり振り払い、駆け出す。


これ以上謙信の相手なんかしていられないよ。


「待てっ・・ぅっ!」


後ろで謙信の呻き声が聞こえたけど、構わず走り続ける。


最後の呻き声は何だったんだろう。もしかして怪我をしていて、私を止める時に傷が少し傷んだとか・・・。

なーんて、謙信があんな盗賊相手に掠り傷を負うわけないか!


謙信から見えない場所に行くと、縄鏢(じょうひょう)と呼ばれる武器で木に登る。


ちなみに縄鏢(じょうひょう)とは、紐や鎖の端に(おもり)を括り付けている道具の事だ。


ここまで来れば大丈夫だろう。


私は気配を消し、周りの様子を確認してから腰を下ろした。


まさかこんなところで上杉謙信と出会うなんて。なんて最悪な日なんだ・・・。


私はさっきの出来事を思い出し、深いため息をついたが、ふと気になることがあった。


そういえば、謙信に腕を捕まれたとき、やけに体温が高かったなぁ。それに簡単に腕を振り払えたし・・・て、何考えているんだ!別に関係ないだろ!


謙信の事を考えていると気付き、首を横に振って否定する。


ゲームの謙信は怪我も病気も全くしなかった。だからあれは気のせいだ。


そう思っていても、やっぱり気になる。それにゲームだからって何もないわけじゃない。裏で色々と傷付いたり、病気にかかって苦しんでいたはずだ。


そう考えるとだんだん胸が苦しくなってきた。私は忍者でもちゃんと人の心がある。さすがにこのまま無視するわけには・・・。


「あーーー!もう!」


私は前髪を掻き乱し、地面に降り立った。


これはただ様子を見るだけ。一瞬確認したらすぐ安土城に向かうんだから!


そう決意し、私はさっきのーー謙信のいた場所へ向かって静かに駆け出した。





謙信の髪色を銀色→金色に変更しました



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