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無自覚


昨日ぐっすり寝たおかげか、朝にはすっかり体の調子が良くなっていた。


「んー」


のそりと布団から出ると横で寝ていたクロがコロリと横に転がった。


そういえばクロも一緒に寝たんだったね。毛がふわふわで気持ち良かったなあ。


「本当にありがとうね、クロ」


そう言いながらゆっくりとクロの体を撫でると、私は布団から抜け出して障子を開ける。


すると、開いた障子から部屋に朝日が射し込む。少し眩しいけど、暖かくて心地よくてまた眠気が私を襲う。


少しだけ猫の気持ちが分かるなあ。


そう思いながらあくびを噛み殺して布団を畳もうとしたが、ふとクロの事を思い出した。


どうしよう・・・布団を畳まないといけないけど、クロが寝ていて畳めない。


「うーん・・・・・。まぁ、いっか。昨日クロに慰めてもらったから」


私は布団を畳むのを諦め、外へ出た。今日は朝から授業があるので、急いでいつもの広場へと向かう。


授業はいつも朝の五時頃にあり、最初は手裏剣や忍刀の訓練を行う。そしてそれが終わると長距離を走ったり、忍術の訓練を行う。忍術の訓練は色々あり、火遁や水遁、変装などを行う。


昨日あんな事があったからって休んでたら皆と知識や体力で遅れをとっちゃう!!まぁ、攻略対象に殺られないために出来るだけ多くの事を学びたいだけだけど。


もう皆集まってるかな?授業は始まってるかな?と少し不安に思っていたけど、広場にはまだ数人ほどしか集まっていない。


「間に合ったー!」


「結衣!」


「えっ、うそっ!結衣ちゃん?!」


「今日は休むんじゃなかったの!!」


私が広場に駆け込むと、皆が驚いた表情で私の側へと駆け寄ってきた。昨日の事があり、今日の授業は私が休むと思っていたようだ。


「もう大丈夫だよ!心配してくれてありがとう!」


私はそれが嬉しくて、つい頬が緩んでしまった。


「・・・っ!!」


すると、何故か集まっていた皆が私の顔を見て固まった。何故だ?今までこんなことなかったのに・・・


「・・・・・結衣」


私がオロオロしていると、一番近くにいた紫織にガシッと肩を掴まれる。えっ!!なにっ!!


「結衣!あんた頭打ったの!!」


「へっ・・・?」


頭を打つ・・・あぁ、怪我のことか!確かに怪我はしたけど、ただクナイがかすっただけで、他にはどこも怪我をしていない。それに傷は小さいから数日で塞がると思う。


「別にどこも打ってないよ。ただかすり傷が出来ただけ」


「まだ体調が悪いなら部屋で休んでてもいいんだよ!」


すると、今度は体調の心配をされた。体調は昨日ぐっすり眠ったおかげで絶好調・・・とまではいかないが、良いほうだ。


「別に体調は悪くないんだけど・・・」


その言葉の続きを言おうとした瞬間、やっと皆がここまで心配する理由が分かった。


ああ、これは確かに皆が心配するはずだよね。

だって・・・・・・結衣は常に()()()だったんだから。


そして、無表情だったが故に感情が全く読み取れず、周りから恐がられていて、仲間はいても友達は一人もいなかった。


でも、子どもの頃からずっと無表情だったわけじゃない。

私は子どもの頃とても表情が豊かだった。ただ、両親が亡くなったのを境に無表情になってしまっただけだ。原因はよく覚えていない。


「私はどこも怪我をしていないし、体調も悪くないよ。本当に大丈夫だから。心配してくれてありがとう!」


私はやんわりと肩に置かれた手を外し、その手を握ってニコッと笑いかける。


「・・・っ!!」


あれ、紫織の顔がだんだん赤くなってきた。本当に大丈夫かな。あっ!もしかして熱があるんじゃ!!


「紫織、もしかして熱があるの!」


私が紫織の額に手を置いて熱がないか確認しようとすると、紫織は何故か後ずさった。そんなに額に(さわ)られるのが嫌なの!!じゃあどうやって体温を確認したら・・・


「熱じゃ・・・ないから・・・・・あぁ」


私がどうしようか悩んでいると、紫織の体ががくりと地面に崩れ落ちる。


「紫織!!」


私は急いで紫織の側にしゃがみ込み、様子をみる。顔は赤いけど熱はない。だったらもしかして体調が悪いのかな。体調が悪い時は背中を擦れば少しは落ち着くかもしれない。


紫織の背中を擦りながら横目で周りを確認すると、私の近くにいた人達も数人顔を赤く染めて茫然としていた。もしかして皆も体調が悪いの!!高坂先生を呼んでこようかな・・・


先生を呼ぼうか呼ばないかと悩んでいると、ふと前世のことを思い出した。


そういえば・・・前世のときでも妹の面倒を見る時によくこうして宥めていたっけ。


妹は小学生のとき泣き虫でよく泣いていたけど、中学生になったら全然泣かなくなってビックリした!成長したんだって嬉しかったけど、心の片隅では頼られなくなって少し寂しく感じてたなぁ・・・


「・・・・・わいい」


「へっ?」


私が前世のことを思い浮かべながら背中を擦っていると、紫織がボソッと何かを呟いた。もしかして体のどこかを痛めていて、それを伝えようとしているのかな。


「・・・可愛い!!可愛すぎる!!本当に何なのこの子!!」


今度こそ聞き取ろうと耳を澄ませていると、突然紫織が顔を両手で覆い、悶え始めた。何かちょっと恐いんだけど!!本当にどうしたの!!


思わず背中を擦るのを止めて紫織から離れようかと考えた私は決して悪くないと思う。うん。


とりあえず無心でいよう・・・


私は何も考えず、ただひたすら無心でいることにした。







「ありがとう。もう大丈夫」


私が無心になって背中を擦っていると、紫織がだんだん落ち着いてきた。やっぱり体調が悪いときは背中を擦るのが一番だね!!


あっ!そういえば皆も体調が悪いんだった!!


慌てて皆を確認するが、皆の顔色も元の顔色に戻っていた。さっきのはいったい何だったんだろう・・・


「皆揃っているな」


私が物思いに耽っていると、先生が広場に到着した。って、皆揃っていたの!!


慌てて周りを見渡すと、さっきまでは来ていなかった人達も広場に到着して、皆が集合していた。いつの間に!!


「結衣。どうした」


「いいえ。何でもないです」


私がキョロキョロと周りを見渡していると、先生が怪訝そうな表情を向けてきたので、ビシッと背筋を伸ばして返事をする。


「そうか。ではさっそくいつものように手裏剣の練習・・・といきたいが、今日は別の事をしてもらう」


別の事?いったい何をするんだろう・・・もしかして新しい忍術を教えてくれるのかな!!


私は先生の言葉の続きをワクワクしながら待っていたが、先生の隣に突然現れたある人物を見て、その気持ちは急降下した。えっ、だってあの人は・・・


「彼は昨日紹介した我々の主、佐助殿だ」


あの佐助だったからだよ。いったい何しに来たんだ!!ゲームでは任務の時以外いつも縁側でのんびり過ごしていたはずなのに!!


「実は今日から二日間、佐助殿と一緒に任務に行かなければならなくてな」


そうか!任務だから佐助はここに来てるんだ!!納得。って、ににに任務!!しかもあの佐助と一緒に!!だったら今日から二日間はもう佐助と会わなくてすむ!!あっ、でも先生もいないからその間新しい忍術を教えてもらえない。


「そこで、二日間は変装して各自好きな場所へ出掛けろ。決して誰にも我々が忍であることに気付かれないよう気をつけろ。以上だ」


それだけを言うと、先生は佐助と一緒に一瞬にして姿を消した。さすが上級の忍者だ。って、それよりも好きな場所に出掛けてもいいの!!やったー!!


実は私、外に興味がなくてあまり出掛けた事がなかった。それよりも忍術や医学の書物を読む方が楽しかったから。自分でも不思議な子だったなぁって自覚してるよ!外よりも本に夢中な子どもなんて・・・


でも、今の私は今までの私とは違う。だって前世の記憶を思い出したんだから!!

ゲームでしか知らないこの世界の人々がどんな服装や建物で過ごしているのか凄く興味がある!!見てみたい!!


よーし!善は急げだ!!さっそく変装して町へ出掛けよう!!




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