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束の間の休息


あの後、どうやって帰ったのか覚えていない。


気付けば里に着いていた。


里の入り口では先生や仲間が総出で待っていて、私を見つけると皆私に走り寄って来た。色々と聞かれたけど、記憶があいまいで覚えていない。






「疲れたー」


自分の部屋に帰り、敷きっぱなしだった布団に素早く潜り込む。そういえば、あの時焦ってて里案内のことしか頭の中になかったから畳み忘れてたんだ。



それにしても、今日は疲れた。(二回目)


突然前世の記憶を思い出し、佐助を警戒していたら敵の忍者に襲われて・・・もうこりごりだよ。


まあ、死亡フラグが折れたから良かったんだけどね。


私は頑張った。転生して突然敵の忍者に襲われても。今回の戦いで佐助に助けられて惚れないように頑張って・・・


あれ?よくよく考えてみれば、佐助に助けられたからといって必ずしも佐助に惚れるとは決まってないんじゃ。


そうだよ!ゲームの強制力がない限り私が佐助に惚れることなんてあり得ない!!そう断言できる!


ん・・・ということは、頑張って一人で二人の敵の忍者を相手にしなくても良かったんじゃん!ゲーム通り佐助に助けてもらった方が楽に終わったのに。何でもっと早く気付かなかったんだよ!!



「まぁいいか。もう過ぎたことだし」


今さら過去のことを悔やんでも仕方がない。現実はゲームみたいにセーブやロードが出来ないんだから。


私は頭を切り替え、これからのことについて考え始めた。


死亡フラグさえ折れば平和な生活を送れることが出来るけど、頭の奥に何かが引っ掛かるような気がする。何か大切な事を忘れているような・・・


私が思い悩んでいると、誰かがこちらに近付いてくる気配を感じた。


今はだいたい午前の二時ぐらいだ。こんな夜中に訪ねてくるなんて誰だ・・・


私は布団の中に忍び込ませていた忍刀を手に取り、いつでも抜けるよう警戒する。もしかしたら昨日襲ってきた敵の忍者かもしれない。そうだったら、この忍刀で迎え撃ってやる!


そう意気込むと、息を殺して気配を探ったが、何だか懐かしい感じがした。この気配は・・・


そんなことを考えている間に、とうとうその気配が私の部屋の前まで来て、立ち止まる。


「・・・・・」


物音を立てないよう注意しながら相手の出方を待つが、一向に出てくる気配がしない。


こうなったら飛び出して相手を攻撃してやろうか、と本気で考え始めていると、襖の奧から声が聞こえてきた。


「あの、結衣さん。葵です。まだ起きていますか?」


そしてその声が聞こえた瞬間、頭に電流が走る。


一ノ瀬(いちのせ) (あおい)

黒髪に紫色の瞳で女と見間違う程の顔立ちの美少年

忍の里では最年少だが、佐助の次ぐらいに優秀で、何でもそつなくこなす。まぁ、そのせいで少し性格が歪んでいるけどね。


何故そんなことを知っているのかというと、それは彼も攻略対象だが、攻略対象じゃない。つまり隠しキャラだからだ!


私が隠しキャラまで知っているのは、実は前世の妹もこの乙女ゲームをしていて、いつも情報交換をしていたからだ。そのおかげで全キャラコンプリート!隠しキャラも、もちろん攻略済みさ!ってそれどころじゃない!!ああー、何で今さら思い出したんだよ!!


さて、何故私がこんなに慌てているのかというと、何を隠そう彼のルートでも私の()()()()()があるのだ。

しかも、死亡方法は毒死。さらにその毒はじわじわと広がっていくタイプで、もがき苦しみ、死んでいく私を葵が笑いながら眺めているという・・・考えるだけでも身の毛がよだつよ!!


物語のあらすじはこうだ。彼は任務中に主人公と出逢い、今まで自分の側にいない性格の主人公にどんどん惹かれていく。

しかし、それを当時の里の長『結衣』が目敏く見つけ、任務に支障が出てしまったら主に見限られてしまうかも!と主人公を殺そうとするが、それに逸速く気付いた葵が阻止する。

そして毒を塗っているクナイで結衣を毒殺し、二人は仲良く幸せに過ごしていく。ってまた私が悪役なの!!別にその前の里の長でも良かったじゃん!!


「・・・最悪だ」


「結衣さん?」


ついつい言葉がこぼれてしまい、相手ーー葵に起きているとばれてしまった。まぁ葵には気配で起きていると気付かれていたと思うけど・・・もう仕方ない。


「・・・入っていいよ」


私は上半身を起こすと、渋々葵に部屋に入る許可を出した。


「失礼します」


そして襖を開けて部屋に入ってきた人物は予想通りの美少年だった。まつげは長く、瞳は大きく、本当に男なのか!と疑うほどの顔立ち。女装したら絶対誰にも男だって思われないと思う。


「どうかしたの?」


私は思考を切り替え、葵に質問する。


実は、葵は十日ほど前に突然この里にやって来たばかりで私との接点はあまり無い。あったとしても授業や偶然会うぐらいしかない。だからわざわざこんな夜中にやって来る理由もないはずなのに。どうしたんだろう?!


「いえ、その・・・結衣さんが襲われたという噂を聞いて、心配になって」


葵は私の布団の側に座り込み、上目遣いで私を見上げる。


くっ、何だこの可愛い小動物は!!もうこのまま持って帰りたい!!って、ここが自分の部屋だった。


「心配してくれてありがとう。私はもう大丈夫だから、葵は自分の部屋に戻って休んでごらん」


何とかニヤけそうになる頬を引き締めて言うと、葵の瞳の奧がかすかに揺れたような気がした。


「そうですね。結衣さんもゆっくりと休んでください」


だがそれはほんの一瞬で、葵はすぐに笑顔になり、腰を上げた。


気のせいかな?何だか凄く悲しそうな瞳をしていたような気がしたんだけど・・・


「お休みなさい」


気付けば葵は襖の外側に座り、襖を閉めようとしていた。


「あっ、うん。お休み」


スゥッと襖が閉まって気配が遠ざかっていくのを確認すると、張り詰めていた緊張が解け、私の体が布団へと逆戻りする。


「疲れた」


さっきは普通に話せたと思うけど、やはり攻略対象を目の前にしてしまうと否が応でも体がこわばってしまう。


「はぁ~」


私はため息をつくと、ゆっくりと体を起こした。


葵の突然の訪問で目が覚めてしまったので、これからのことについてもう一度よく考えることにした。


ろうそくに火を付け、籠から和紙と硯、それから墨と筆を取り出し、文机の上に置いてシャカシャカと墨汁を作り出す。


書いた方が考えが纏まりやすいので、和紙に攻略対象の名前や、そのルートについて思い出せる限りのことを書きなぐる。


すると・・・なんと、攻略対象のうち半数以上ものルートに私の死亡フラグが合ったことを思い出した。しかも、そのほとんどが任務の途中に攻略対象と出会い、斬り殺されるという実にモブらしい死に方だ。


そういえば、ゲームで攻略中に何度か結衣の姿を見たことがあるような・・・


このゲームの製作者は結衣を恨んでいるのかよ!!少しは結衣の立場になって考えてみろ!!


この行き場のない怒りをどうやって晴らしたらいいんだろうか・・・


「はぁ~~」


さっきよりも深くため息をはいた。だって、まだまだ私の死亡フラグは残っているんだよ!!憂鬱な気分にならない方がおかしいよ。


それに比べ、主人公は良いよね。どんなに危険な状況にあっても攻略対象が現れ、助けてくれる。しかも最後は必ずハッピーエンドだし・・・あれ、そういえば主人公っていつタイムスリップしてくるんだっけ?


ふと、主人公のことについて気になったので、今度は主人公について思い出せる限りの情報を和紙に書きなぐる。


たしか、主人公はタイムスリップしてすぐ戦に巻き込まれてしまう。その戦は織田と上杉の戦だったはず。

そして、何故かタイムスリップした場所は織田と上杉の一騎討ちしている場所の近くで、二人に見つかり、興味を持たれてしまう。

主人公は恐怖を感じてその二人から逃げ出すが、そこにも様々な攻略対象がいて、またもや興味を持たれてしまう。

そして主人公は攻略対象のうち一人に捕まり、どんどん二人の間柄が進展していくという・・・


そこまで和紙に書きなぐると頭の奧で何かが引っ掛かり、筆が止まった。


あれ、そういえば・・・織田と上杉の戦いっていつあるんだったっけ・・・・・


そうだよ!主人公がタイムスリップしてくるのは織田と上杉の戦の途中だっていうのは分かってるけど、その戦がいつ起こるのかが分からないんだ!ああー!!どうしよう!!主人公がいつタイムスリップしてくるのかが分からなかったらいつゲームが始まるのか分からないよ!!!いったいどうすれば・・・


私は文机の前で頭を抱え込み、絶望感に包まれる。


すると下から猫の鳴き声が聞こえ、その猫が私の体にすり寄ってきた。


「にゃあ」


「・・・クロ」


この猫の名前はクロ。全身が黒いからクロと名付けた。

クロは私が小さい頃に怪我をしているのを見つけ、手当てをするとなつかれてしまい、それからずっと一緒にいる。家族のいない私にとってクロはとても大切でかけがえのない存在だ。


クロが私に体をすり寄せ、ゴロゴロと喉を鳴らす。これは私を心配してくれている様子だ。落ち込んだ時、悲しかった時、辛かった時はいつもクロが側にいて宥めてくれた。


「ありがとう・・・・・クロ」


何だか少しやる気が出てきた。


「とりあえず、これからも攻略対象に注意して暮らしていけばいっか!主人公がきたらその時はその時だ」


私は攻略対象の情報を書いた紙を火に近付け、燃やす。もしこの和紙を見られたら怪しまれるからね!


それからろうそくの火を吹き消し『明日こそは平和な一日を送れますように』と祈りながら布団に潜り込もうとすると、クロが布団の中に滑り込んできた。いつも夜はどこかへ出かけているのに・・・


「ふふっ、久しぶりに一緒に寝ようか」


そう言うと、クロは小さく鳴き、私にすり寄ってきた。

クロの毛はふわふわで抱き心地がいいので、軽く抱き締めてゆっくりと撫でていると、だんだん瞼が重くなってきた。


どうやら自分で思っていたよりも疲れていたようで、だんだん意識が遠ざかっていく。



絶対に・・・死亡フラグなんて、阻止してやる・・・・・







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