里の案内中に敵と遭遇しました
「ここは練習場です。昼は皆、大体ここにいます」
「ふーん」
今、私は絶賛里を案内中です。しかも相手は将来私を殺す人物・・・頭が痛い。
何故こうなってしまったのかというと、いつもお世話になっている高坂先生に頼まれたからだ。他の人に頼まれてたら絶対断れたのに。
一度仲間に案内役を押しつけようと思ったが、誰とも会えなかった。いつもだったらそこら辺で忍術や体術の練習をしてるはずなのに・・・何で今日に限って全然会えないんだよ!!
「お前さん、認めてないでしょ」
私が思わず零れそうになるため息をぐっと堪えていると、佐助が私に話し掛けてきた。
認める?いったい何を認めるというのだ?
私が首を傾けていると、前に立っていた佐助がゆっくりと振り返る。ゲームのように飄々とした表情だが、その瞳からは何の感情も読み取れない。
「俺が主だっていうこと」
「えっ!!何を言っているんですか」
確かに私は佐助を警戒しているし、心の奥深くで主として認められないって思ってる(殺されるから)けど、どうして気づいたの?
私は目を見開き、佐助の顔をまじまじと見つめる。
「お前さんの顔がわかりやすいからさ。今も顔に出てるよ。どうしてって」
「っ!!」
心を読まれてしまった。今までそんな事なかったのに・・・
「まぁ、べつにどうでも良いけど」
どうでも良いならもう私の心を読まないでください。というか、私ってそんなに顔に出やすいの・・・
私は忍者としてのプライドを傷つけられ、かなり落ち込んだ。
「いったい何に怯えてるのさ」
だから、私はその時佐助が呟いた言葉を聞き取ることが出来なかった。
「・・・・・次は水術の練習に使っている湖を案内します。少し遠いので木伝って移動します」
「・・・ん」
私は気まずくなり、半ばやけになって木に登る。
木伝って移動し始めると、後ろから微かに木伝う音が聞こえる。
ちゃんとついてきているのか不安になって後ろを振り返ると、ある程度の距離を保ってついてきている佐助が見えた。
さすが攻略対象だけあって身体能力も高い。それにあんなに静かに木伝って移動出来るなんてすごいなあ。私が木伝うときはもう少し音が大きいのに・・・もっと修行してあんなふうに木伝えるよう頑張ろう。
私が佐助に感心してこれから頑張ろうと意気込んでいると、突然鋭い殺気を感じ、視界の端で何か黒いものが私に向かって飛んでくるのが見えた。
「っ・・・!!」
私が咄嗟に懐からクナイを取り出してそれを弾くと、金属同士のぶつかり合う甲高い音が森の中に響き渡る。
「・・・外したか」
草木から声が聞こえ、目を凝らしてよく見てみれば複数の忍がそこに隠れていた。しかも服装からみて敵の忍だ。
何で敵の忍がこんなところに・・・ここはまだ甲賀流の領域のはず。
私は今さっき弾いた黒いものを見た瞬間、背筋が凍りつく。
「っ・・・クナイ!!」
もし私があのまま気付かなかったら・・・
想像するだけでもゾッとする。全身が粟立って思わず腕をさすろうとしたが、敵に隙を見せてしまうので我慢する。
そして、それと同時に思い出してしまった。このイベントが佐助に惚れる原因のイベントであることを・・・
ーーっ!!こんなに早くにイベントがくるなんて・・・でも、今の私はあの結衣じゃない!助けられたからって佐助に惚れるはずがない!大丈夫だ!落ち着け。
私は腹を括って身構えるが、腕が小刻みに震えてしまう。
当たり前だ、今まで忍術の練習でクナイを使ったことはあるが、人に向けるのは初めてなのだから。それに、今の私は忍の結衣であっても前世の記憶があり、人を傷つけるという行為に後ろめたさを感じてしまう。
「敵の忍が何の用だ」
私は声が震えるのを抑えて淡々と話そうとしたが、最後に少しだけ声が震えてしまった。
「お前に用はない。用があるのは猿飛佐助の方だ」
忍は私の声が震えたことに気付かなかったようだけど・・・佐助に用?
「面倒だね」
後ろで佐助が気だるげそうに呟く声が聞こえてきた。後ろを振り返ろうとするが、一人の忍が私の方に突っ込んでくる。
「っ・・・くっ!!」
私が留まっていた木から飛び去ると同時にザシュッと何かが斬られる音がした。違う木から私がさっきまで留まっていた木を確認すると、そこには一筋の斬り傷がついていた。そして、そこに留まっている忍の手には一本の忍刀が握られている。
もしかして、あの忍が私に斬りかかってきたの・・・
自分の顔から血の気が引くのを感じる。
「だが、この事を知ったお前にも消えてもらう」
一人の忍がそう言うや否や、二人の忍が私にクナイを投げ掛けてきた。
「くっ!!」
私は飛んできたクナイをすべて弾き、佐助を一瞥する。すると、佐助が六人もの忍を相手にしていた。私に比べて三倍の忍を相手にしている。
まぁ、佐助は強いから大丈夫だけど・・・私の方はそうはいかないよね。
私は二人からの攻撃を避けつつ、必死にイベントの事を思い出す。
確かゲームでは結衣が油断してやられそうになったところを佐助に助けられてたはず。なら油断さえしなければ佐助に助けられず、自分一人でこの忍達を倒せるだず!!
私はそう意気込むと、精神を安定させるためにゆっくりと、大きく深呼吸をした。
もう手の震えは止まっている。それに、だんだん勇気が湧いてきた。たぶん私の中のもう一人の結衣がまだ微かに残っているからだろう。
佐助に惚れて殺されるのは絶対に嫌だけど、こういう時はとても心強い。
結衣、ありがとう。
私は自然と口角が上がり、不敵な笑みを浮かべる。
さあ、やりましょうか!