第八話 高校までの道のりが、とても険しい件
うわ~~~~~~~っ!! めっちゃこっち見てるよ~~~~~~~っ!!
朝っぱらに高校生が、コスプレイヤーの女の子と路地裏を歩く。
そりゃ、滅茶苦茶怪しいわなっ!
そうこう考えている内に、警察官はゆっくりと俺達の方へ向かってきた。
「メロディ、こっちだ」
「戻るの?」
「さっきの人は、警察」
「ケーサツ?」
「そそ。警察に捕まったら、俺達は一緒に居られなくなる」
「……それは困るな」
「っていうか、いい加減モデルウォークやめなさいよっ!」
「チェッ」
俺とメロディはダッシュで引き返し、違う路地裏に入る。
確かこっちからでも、商店街の先に出れるはずだ。
しかし、再び問題が発生する。
その路地裏に、三人の新楽高校生がいたのだ。
――あからさまに、不良の。
もーーーーーーーっ!! 立て続けのピンチとか、ほんといらないからーーーーーーーっ!!
そんなの、ネット小説だけで間に合ってるからーーーーーーーっ!!
不良達は、もちろん立ち止まった俺達に気がついた。
そしてその内の一人が、ベタベタな言葉をかけてくる。
「ここは、通行料が必要でぇーす」
「ひっ……メロディ! 戻るぞっ!」
「……また?」
「待てよてめぇ!」
俺とメロディは再びダッシュで引き返し、これまた違う路地裏に入った。
確かこっちからでも……って、何でこんなに疲れるんだよっ!
ただ高校へと、登校しているだけなのにっ!
俺が顔をしかめる中、メロディは首を傾げる。
「リョータ、さっきから逃げてばっかり。敵なら、戦闘しちゃえば?」
こいつが原因だったぜ……。
「俺は超弱いのっ! 戦闘とかできないのっ!」
「そうなの? じゃあ、私がしようか?」
「だめだめっ! 魔王ってばれちゃうからっ!」
「大丈夫、死なない程度に頭を踏み潰すよ?」
「日本語でオッケーッ!」
えっと……どっちだっけ?
こっちだっ! こっちの路地裏なら、警察官も不良達も撒けるっ!
って、普通ネット小説だとしたら、俺つえーして無事終了じゃねーのっ!?
この八話、まだまだ半分以上あるんですけどっ!?
俺が一人嘆いていた、その時だった。
「リョータ、上からの方が早いんじゃない?」
「えっ?」
突然メロディーが俺の腕を取り、上空にジャンプしたのだ。
それも、人間ではありえない程の跳躍力で。
「うおあーーーーーーーっ!!」
「リョータ、うるさい」
俺は叫び声を上げ、メロディの体にしがみついた。
そのまま俺達は、建物の屋根に着地する。
「……ちょっとっ! いきなり何してくれてんのっ!?」
「上から行けば敵に見つからないし、早くコウコウに行けるでしょ?」
「そうだけど、誰にも見られなかっただろうなっ!?」
「たぶん」
「日本の人間は、そんなにジャンプできないのっ!」
はぁ……どよめきの声などは聞こえないし、たぶんセーフだろう。
そのまま俺達は屋根の上をコソコソと歩き、商店街の先までやって来た。
まさか人生の中で、屋根の上を歩くことがあるなんてな……。
今日日泥棒でさえ、こんなことしねーよっ!
俺達は誰もいないことを見計らってから、丈夫そうな雨樋をスルスルと下り、今度こそ最後の路地裏へと着地する。
こうして俺達は警察官と不良達を無事に撒き、ようやく高校の正門近くまで辿り着いた。
まったく、なんて朝だ……。
路地裏からコソッと正門前を確認して、生徒が減るのをひたすら待つ。
「……さてと、どうすっかなぁ?」
「リョータ」
「んっ?」
「もしかして私、ここに入れないの? みんな、リョータと同じような服を着てるし」
「制服は関係ないけど、まぁそんなとこだ」
「そうだったのか」
するとメロディが右手をかざし、一度だけ指を鳴らしたのだ。
その瞬間、黒色でドーム型をした光が、高校の敷地全体を包み込む。
やがて三十秒ほど経って、その光はフッと消えた。
俺は驚きを隠せないまま、メロディに問いかける。
「なんだっ……!? 何をしたんだっ!?」
「魔法をかけた」
「まっ、魔法っ!?」
「ここに入った人間が、私がいても問題にならないようにした」
「マジでっ!?」
あれかっ!? 一種の、幻惑系魔法ってやつかっ!?
初めての魔法を見て驚く俺を横目に、メロディが高校の正門を指差す。
「リョータ、行かないの?」
「あっ、ああ……行きますか……」
そのまま俺とメロディは、正門をくぐり高校へと入った。
……あれっ? おかしいぞ?
まだ生徒達が、ジロジロとメロディを見てくるじゃねーかっ!
俺は疑問を感じ、メロディに声をかける。
「あのー……メロディさん?」
「んっ?」
「そのー……さっきの魔法でさ、あなたの容姿や力も分からなくなるようにしました?」
「そこまで細かくはしてないよ。めんどくさいし」
しまったーーーーーーーっ!! この魔王様、めんどくさがり屋だったーーーーーーーっ!!
俺は頭を抱えながら、メロディに問い直す。
「でもあれだろ? 魔法をかけ直すこともできるだろ?」
「できるけど、次使うまでに時間がかかる」
……なるほど、クールタイムってやつか。
でもこれで、なんとかなりそうだっ!
「で、次使えるまでどれぐらいかかるの?」
「十年」
「なげぇぇえわっ!」