第七話 七話にして、ようやく高校に向かう件
――翌朝。
俺は高校に行く準備をしつつ、朝食を作り始めた。
朝食は、食パンととろけるチーズで作ったチーズトースト。
二枚のお皿に載せたチーズトーストをテーブルの上に置き、俺はまだ寝ているメロディを起こそうとする。
まったく……布団蹴飛ばして、足広げて……。
パンツ見えちゃいますよ? 魔王様。
「メロディ、メロディ!」
「……んが?」
「起きろっ! 朝だぞっ!」
「……おはよう」
メロディは起き上がり、目を擦りながらテーブルの前に座った。
俺はチーズトーストを食べながら、まだボーっとしているメロディに声をかける。
「これ、朝食な」
「……うん」
「俺は今から高校って場所に行ってくるから、おとなしく家で待っててくれ」
「えっ?」
メロディはチーズトーストをかじりながら、キョトンとした表情を見せた。
俺は朝食を食べ終え、鞄を手に持ち立ち上がる。
「ご馳走様っ! んじゃ、行ってくるっ!」
「どこ行くの?」
「だから高校だって。たぶん、昼頃には帰れるから」
そう言い残し、俺は玄関へと向かった。
するとメロディは立ち上がり、俺の後を付いて来たのだ。
……嫌な予感がする。
やはりその直後、メロディが俺の着ているブレザーの袖を掴む。
「私も行く」
「だめだめ、おとなしく家で待っててくれ」
次の瞬間、メロディは俺にスリーパーホールドをかけた。
しかも昨夜とは違い、完璧に俺の首を絞めて。
「くっ……首はだめだってっ……!」
「私も行く」
「だめ……学校は……さすがに……」
「行く」
「わっ……分かった……」
俺が観念すると、メロディはスッとスリーパーホールドを解いた。
こんな様子じゃ、部屋に残しても外に出て暴れるかもしれない……。
不安を感じ取った俺は、昨日に続き一大決心をする。
とりあえずメロディを、高校まで連れていこうと。
担任の先生に上手く話して、何とかしようと。
この世界が滅ぶよりかは、マシなはずだから……。
「はぁ……外は寒いぞ、これ着るか?」
「黒色じゃないから、やだ」
「知らないぞ? ったく……」
俺は善意で茶色のジャケットを渡そうとするも、メロディにあっけなく拒否をされた。
天気は晴天、時刻は八時過ぎ。
こうして俺は、メロディを連れて渋々部屋を出た。
「……まてよ?」
「リョータ、どうしたの?」
俺は玄関を出て、いきなり問題を発見してしまう。
そう、問題とは、メロディの格好だ。
もちろん、防寒以前の問題な訳で……。
見た目が完全にコスプレイヤーの、魔王様。
時代が時代とはいえ、絶対に目立つだろこれっ!
俺の住んでいるアパートは、部屋が四つしかない小さなアパートだ。
ちなみに俺の部屋は、二階の201号室。
隣には誰も住んでいないが、一階の二部屋には人が住んでいる。
俺はメロディを連れ、コソコソと階段を下り、道路へと駆け出した。
するとメロディが、早速腕を組みだす。
「リョータ……寒い……」
「……ほらみろ」
四月だが、まだ結構肌寒い。
ノースリーブでミニスカートのメロディには、堪える寒さだろう。
「家に居とくか?」
俺は笑顔で提案をするも、メロディはすぐさまムッとした表情を見せた。
はいはい、分かりましたよ……。
高校までは、アパートから閑静な住宅街を抜け、近くにある商店街を通って行く。
そこからしばらく歩いて、計十五分程で到着だ。
しかし、やはり思っていたことが起きた。
「リョータ、みんなが私を見てくる」
「……はぁ」
予想通り、すれ違う人達が皆メロディを見てくるのだ。
そりゃそうだよなっ! ネット小説じゃあるまいしっ!
「最近の若い子は、凄いわねぇ……」
「あれよ……コスプレってやつよ……」
「あらまぁ……」
すれ違うおばちゃん達の声が、痛いくらい耳についた。
ううっ……残念ながら、コスプレじゃないんですよ……。
俺は我慢できず、路地裏を使い高校を目指すことにした。
もちろんこの辺の地理には詳しくないので、スマホで地図を確認する。
「何それ?」
「これはね、携帯電話」
「私も欲しい」
「いつかな。今は、それどころじゃないの」
再びムッとするメロディを無視して、俺は進路を検索した。
よし、大体は把握できたぜ。
日々EOでダンジョンを駆け回っている俺だ、これくらい楽勝ですわっ!
「実はね、メロディの格好は日本じゃ超目立つんだ」
「そうなの? 魔ゾコレでも、いい評判だったからかな?」
「何だよその、パリコレみたいな行事名はっ!?」
「ウフ」
「……とにかく、裏道から行くぞ」
俺はモデルウォークするメロディを連れ、四つの路地裏を経由しながら進んだ。
そして、五つ目の路地裏に入る。
ここを抜ければ、商店街の先に出れるはずだ。
最後であるはずの路地裏に入った、その時だった。
「……げっ」
「リョータ、行かないの?」
なんとその路地裏の出口に、自転車に載った警察官がいたのだ。
しかも、俺達をめっちゃ凝視した……。