第六話 怒った魔王様は、プロレス技がお好きな件
鳴り出したEOのBGMを聞き、メロディが再び俺の隣へ戻って来る。
「何これ?」
「これはゲーム、娯楽の一つだね」
「ふーん……おっ、なんかいっぱい動いてる」
俺はキャラを動かし、露店放置の作業をした。
露店放置とは、キャラをフリーマーケットというマップ上に置き、選択したアイテムを他プレイヤーに販売する行為だ。
状況が状況だし、今日はこれだけにしておこう。
どうせこの状況を伝えるフレンドもいない、ソロプレイヤーだしね……。
そんな中メロディが、俺の顔をジッと見つめてくる。
「私もやりたい」
「ええっ!? ……これはだめ、これだけは勘弁」
次の瞬間、メロディは俺にスリーパーホールドをかけた。
「痛いっ! 痛いっ! 痛いっ! 痛いっ!」
「やりたい」
「分かったっ! 分かったからっ!」
俺の叫び声を聞き、メロディが腕の力を緩める。
って、さっきもあったよなっ!? こんなやり取りっ!
しかし……女の子の体って、こんなにも柔らかいのか。
メロディはそこまで胸が大きくないけど、感触は味わった。
ムニュって感じではなく……こう、フワッとした感じ……。
いかんいかんっ! 何を考えているんだ俺はっ!
俺は二台目のノートパソコンを取り出し、テーブルの上、メロディの前に置いた。
そのノートパソコンでもEOを起動して、別アカウントのキャラでゲームを始める。
「はい、やってみ?」
「うん」
「こうやってマウスで動かして、左クリックで攻撃、右クリックでスキルを撃つんだ」
「分かった」
俺の説明を聞き、メロディは夢中になってゲームを始めた。
メロディが操作しているのは、ダンジョンの近くでログインをしたキャラ。
今からモンスターと戦闘をする訳だ、しばらくは静かになるだろう。
しかし、一分後。
「リョータ、超つまんない」
「飽きるのはえぇぇなっ!」
メロディがゲームを止めかけた、その時だった。
ピロローンと、レアアイテムのドロップ音がなったのだ。
俺はモニターを見て、驚きの表情を隠せなかった。
なんとメロディの操作しているキャラがモンスターを倒し、俺が一年かけて狙っていたレアアイテムを手に入れたのだ。
「……マジか、オリハルコンじゃねーかっ!」
「なに? どうしたの?」
「すげーよメロディ! これで俺は、人気者だっ!」
「……そうなの? よく分からないけど」
もちろんメロディは、キョトンとした表情をしていた。
そりゃそうだ、この喜びはEOプレイヤーにしか分かるまい。
しかし俺が喜びすぎたせいか、メロディはそのままゲームを続けようとする。
「じゃあ、もう少しだけやろうかな」
「おうっ! 頼むぜ頼むぜーっ!」
「おっ、また……」
「マジかっ! ……あー、これはゴミだね」
「ゴミなの?」
「うん。売れないアイテムだから、これは駄目ですわー」
メロディは再びムッとした表情を見せ、俺にスリーパーホールドをかけた。
「駄目なの?」
「痛い痛いっ! メロディが駄目って訳じゃなくてっ……!」
「そうだったのか」
スリーパーホールドを止め、メロディがゲームを再開する。
まったく……これいつか、殺されるんじゃねーかっ!?
その後メロディーは三十分程ゲームを続けるも、あれからレアアイテムが出ることはなかった。
時間も時間なので、俺達はゲームを終えてお風呂に入ろうとする。
「メロディ、先入っていいよ」
「うん」
「玄関の傍、ここが浴室ね」
「……水瓶?」
「違うわっ! これがこの世界の、一般的な浴槽なんですっ!」
これがボディソープ、これがシャンプーなど色々教え、俺は部屋に戻ろうとした。
しかし俺は二、三歩だけ歩き、その場で立ち止まる。
もしかしたら、この無防備すぎる魔王様……いきなり裸になったりするんじゃないかと、あわーい期待を込めて……。
「リョータ、あっち行って」
「あ、はい」
……ですよねー。
†
こうしてお互いお風呂に入り、しばらくボーっとしていたらもう二十三時。
俺達は、そろそろ就寝することにした。
明日も学校だ、夜更かししている場合じゃない。
そこで俺は、メロディに寝巻きであるグレーのスウェットを貸してやろうとした。
しかしスウェットを見たメロディが、一言口にする。
「黒色じゃないから、着たくない」
色っ!? 色ですかっ!?
寝巻きなのに、そこ重要ですかっ!?
そしてお約束通り、マイベッドはメロディに取られた。
一人暮らし最初の夜、俺は床で寝ることに。
もう一組布団があったから、よかったものの……。
電気を消して、いざ就寝。
……なんか、だんだんとイライラしてきたぞ。
冷静に考えたら、これからメロディの生活費とか全部俺持ちじゃねーかっ!
同棲やら、意識してしまうやら、ドキドキするやら、全部撤回だっ!
天井を見つめそう考える俺に、メロディから声がかかる。
「リョータ」
「……何だ?」
「リョータといると、楽しい」
……まぁ、許してやるとするか。