第五話 魔王様が無防備すぎて、ドキドキする件
普段、気楽に呼ばれないねぇ……。
やっぱ魔王様とでも、呼ばれているんだろうか?
そんなことを想像しつつ、俺は自分の夕食を作る為にキッチンへと向かった。
ちなみに俺の夕食は、カレーライス(もちろんレトルト)だ。
俺は炊き上がったお米をお皿によそいながら、部屋で座ったままのメロディに話しかける。
「魔王だからそうかもしれないけど、さすがに親からは呼び捨てにされるだろ?」
「お母さんは私が小さい頃に亡くなって、お父さんも最近亡くなった」
「……あ、そうだったのか」
「だから私が、魔王になった」
なるほどね、メロディは魔王になりたてだったのか。
見た目が俺と同い年くらいで、魔王に就任。
さすがに状況までは想像できないが、色々とあって大変そうだ。
なにせ自分の住む城に、人間が攻めて来るとかだもんな。
そして俺と同じように、呼び捨てにしてくれる友達とかもいないんだろう。
俺は少し感情深げになり、温めているレトルトカレーのパックに目を向ける。
すると、その時だった。
「リョータ、何してるの?」
「うぉあっ!?」
いつのまにかメロディが、俺の隣までやって来ていたのだ。
……それにしても、近くね?
俺は魔王と言えど、美少女の接近に焦りを隠せなかった。
これはあれか、もう俺をまったく敵視していないのか。
命の恩人設定、超凄いなっ!
俺は焦りを紛らわす為、メロディに再び話しかける。
「おっ、俺の夕食を作っているんだよ」
「何これ?」
「これはね、カレーライス」
「ふーん……私も食べたい」
「ええっ!? 食べたいって、さっきみそラーメン食べただろっ!?」
「ムッ……」
メロディは言葉通り、ムッとした表情を見せた。
やばい、嫌な予感……。
そう思った直後、メロディが俺の右腕をひねり上げる。
「痛いっ! 痛いっ! 痛いっ! 痛いっ!」
「食べたい」
「分かったっ! 分かったからっ!」
俺の叫び声を聞き、メロディは手の力を緩めた。
まったく……なんて馬鹿力なんだ。
こうして出来上がったカレーライスとスプーン二本片手に、俺とメロディはテーブルへと戻った。
まずはメロディが、カレーライスを食べ始める。
もちろん、ちゃんとフーフーをして。
「……おいしい」
「カレーライスを嫌いな人には、今まで出会ったことがないぜ」
「でも、みそラーメンには勝てないかな」
マジか、凄いなみそラーメン。
俺は機嫌が良さげなメロディーに対し、ここぞとばかりに一つの疑問をぶつける。
「そういえば、メロディも魔法を使えるのか?」
「使えるよ」
「……ですよねー。あっ、あれだぞっ! 魔法を……その……人間より強いってとこを見せると、魔王ってばれちゃうからなっ!」
「えっ? リョータ以外に、ばれなきゃいいんでしょ?」
ぐっ……何も言い返せねぇ。
間接的に、暴力はやめろと言ったつもりだったが……。
結局メロディはカレーライスを半分食べ、スプーンを置いた。
俺の夕食……カレーライス半分……。
夕食を済ませ、俺は食器を洗い始める。
メロディが、お片づけ手伝いますっ! なーんてこともなしに。
俺、完全に魔王様の世話係じゃねーかっ!
食器を洗い終え部屋に戻ると、メロディはラノベを読んでいた。
メロディには言葉が通じるし、きっと文字も読めるんだろう。
「面白いか?」
「ルネサンクには、ない書物」
「俺のオススメは、ネット小説の“俺、レベル50になったら、告白するんだ”だな」
「えっ?」
「作者の田仲ケンジさんは、最終話まで書き溜めをしてるって噂だ」
「誰?」
「そんな中、コメディー小説を書いて気分転換してるらしいぜっ!」
「っていうか、いきなり何を語りだしてるの?」
「いや、別に……」
そのまま俺は日課でしているオンラインゲームをする為に、ノートパソコンを用意した。
ゲームの名前は、“エクスカリバーオンライン”。
通称EOで、俺が中学一年生の時からしているMMORPGだ。
こんな状況だけど、日課は日課っ!
いわゆる廃人の俺には、欠かせないことなんですっ!
ノートパソコンをテーブルの上に置くと、即座にメロディが反応する。
「何それ?」
「これはね、パソコン」
キッチンの時よりも近く、メロディは俺の左隣にピタッと寄り添った。
メロディの長い髪の毛が、俺の左腕に当たる。
近いっ! 近いよーーーーーーーっ!! 魔王様ーーーーーーーっ!!
あれっ……? ちょっと待って。
世話係と思ってたけど、これ、一種の同棲だよな?
健全な男子高校生の俺は、彼女いない暦=年齢の童貞。
同棲なんてもちろん、女の子と部屋で二人きりなんてのも初めてだ。
やばい……なんかメロディのことを、意識してしまうじゃねーかっ!
そんな中パソコンの起動を待ちきれないのか、メロディがある物に再び反応する。
「リョータ、これもパソコン?」
「いっ、いや、それはテレビ」
テーブルの前にあるテレビへ、メロディは四つ這いで近づいた。
メロディは、ミニスカート姿だ。
俺の視界には、メロディのきわどいお尻が映る。
やべぇ……ドキドキが止まらん。
魔王様ーーーーーーーっ!! 無防備すぎますよーーーーーーーっ!!
今度こそ、パンツ見えちゃいますよーーーーーーーっ!?
「テレビ?」
「うほぅ! そそっ、テレビテレビ……」
「……何驚いてるの?」
急に振り返ったメロディと目が合い、俺は咄嗟に顔を背けた。
俺は再び焦りを紛らわす為、リモコンを手に取りテレビの電源を点ける。
「おおー、なんか映った」
「すっ、凄いだろ?」
「うん。何これ? 鉄の箱に乗ってる」
「それは車だよ。ルネサンクにはない?」
「ない。馬車とかならあるけど」
なるほど……ルネサンクは、異世界あるあるの中世ヨーロッパ風ってパターンかな?
俺はそのまま、EOを起動した。
メロディのお尻を、見つめながら。