第一話 マイルームに帰っただけで、ブラウザバックされそうな件
おいおいおいおい、ちょっと待て……。
いやいやいやいや、待ってられんっ!
「何だよこの……ネット小説第一話目冒頭みたいな展開はっ……!」
俺は今、十五年間生きてきた中で、初めて自分の目を疑っている。
そりゃそうだ、だってマイルームにあるマイベッドの上に、
一人の小柄な女の子が寝ているのだから――。
おいーーーーーーーっ!! だめでしょーーーーーーーっ!!
今時こんなありきたりな展開、絶対ブラウザバックされちゃうってばーーーーーーーっ!!
せめてこう、なんかあるじゃないっ!?
冒頭は命なんだから、もっとインパクトのある展開じゃないとっ!
例えばここは、おっさんが寝てるとかさっ!
のちにそのおっさんと、禁断のラブストーリーが始まるとかさっ!
正直おっさんじゃなく、女の子でよかったけどもっ!
思わず頭を抱えた俺は、今一度女の子を見つめた。
で、誰……?
もしかして、部屋間違った?
いやいや、鍵を開けたし、俺の部屋で間違いはないはず……。
仰向けでスヤスヤと寝ている女の子は、銀髪でロングヘア。
前髪が綺麗に切り揃えられていて、毛先がクルンとカールしている。
服装は黒色のノースリーブに、黒色のミニスカート。
そして黒色のニーハイソックスに、黒色のブーツを履いた全身黒ずくめの格好だ。
あちゃ~~~~~~~っ!! 主人公紹介の前に、女の子の詳細入っちゃったよ~~~~~~~っ!!
って違う違う、これはネット小説なんかじゃない。
そんなことより、土足かよっ!
だから違う違う、ツッコムところもそこじゃない。
落ち着け俺、コスプレイヤーさんが間違って部屋に入ったのかもしれないんだ。
でも……鍵かかってたよな?
俺が一人パニくっていた、その時である。
「……むにゃ」
「ひゃうっ!」
女の子が寝返りを打ち、俺は変な声を出した。
……だって、あれじゃん?
くの字に曲がった女の子の足……そして、ミニスカート……。
もちろん、パンツが見えそうになっているじゃん?
だから、ありきたりだってばーーーーーーーっ!!
いっそのことパンツに人格があって、何見てんだゴルァって襲ってくるとかじゃないとーーーーーーーっ!!
あ、いや……別にパンツ見たかった訳じゃないですよ?
……よし、今日これまでを一旦振り返ってみよう。
もしこれがネット小説なら、これまたブラウザバックされるかもしれない七百五十一文字で……。
†
俺の名前は、高橋良太。
つい五時間ほど前に入学式を終えたばかりの、高校一年生だ。
趣味は、ラノベ、ゲーム、アニメ。
好きな言葉は、ステータスオープン。
いわゆるオタクで根暗だった俺は、中学生時代周りに馴染むことができず、住んでいる地域から遠く離れた新楽高校に入学をした。
心機一転、今度は明るく楽しい学生生活を送る為に――。
しかし新楽高校までは、家から片道三時間。
とてもじゃないが、毎日気楽に通える距離じゃない。
そこで俺は両親に頼み込み、一人暮らしをして通学することに決めた訳だ。
両親は最初猛反対をしたが、生まれ変わりたいという俺の真剣な頼みに折れ、最後には渋々承諾をしてくれた。
天気は晴天、桜舞い散る新楽高校。
俺は入学式後、クラスの教室に移動をした。
そこで担任の先生から簡単な説明を受け、一日目が終わる。
残念ながら友達はできなかったが、勝負はまだまだこれからだ。
明日から、本格的に始まる高校生活。
俺は期待に胸を膨らませつつ、下校をした。
知らない地域なので、付近の探索をしながら帰途につく。
ここ新楽町は、都会と田舎の中間的な雰囲気。
簡単に言えば、ごく普通の町だ。
昔ながらの商店街もあり、生活をする分に困ることはなさそう。
そうこうしている内に、いつのまにか時刻は十七時を回っていた。
夕食の買い出しを済ませ、俺は今から一人暮らし最初の夜を迎えようとしている。
こうして俺はマイルームがあるアパートに帰り、ドアの鍵を開け部屋へと入った。
バス、トイレ別の、六畳ワンルーム。
キッチン、冷蔵庫付きで、エアコンも完備。
家賃、生活費は、もちろん両親持ちだ。
お父さん、お母さん、本当にありがとうっ!
†
と、いった経緯で、女の子と出くわした訳で――。
なんかほんとすみませーーーーーーーんっ!! どこにでもいる平凡な高校生だっていう、自己紹介みたいになっちゃってーーーーーーーっ!!
そしてありがとうございまーーーーーーーすっ!! ここまで読んでくださってーーーーーーーっ!!
っていうか、何を思ってんだ俺はーーーーーーーっ!?
しかし……俺自身に変わったことはなかったな。
トラックに轢かれてもいないし、神様がいる真っ白な部屋にも行っていない……。
っていうことは、あれか。
やはり、あれなのか。
そう、俺は生粋のオタクだ。
すぐさま冷静さを取り戻し、ある一つの現象を脳裏に思い浮かべた。
この女の子は、きっと異世界から来たんだと――。