DAY3
翌日の朝、スズナに殺された場所。
バツの悪そうな顔で待っていたスズナに、正哲は手で仰ぐ。
「気にするな。殺すのも殺されるのも、俺達にとっては日常だ。お前はまだかもしれんが、そのうち気にならなくなる」
「そういうものでしょうか」
「そういうもんさ」
長澤に居続けるなら、遅かれ早かれ常在戦場の心得が身につくだろう。
「で、どうだった。夢中で人を殺した気分は」
「…………」
「なんだよ。別にからかっているわけじゃねえよ。お前がどう感じたか、率直な感想を聞かせて欲しい。今後の指導方針にも関わるからな」
「そういうことでしたら……」
渋々といった表情でスズナは語りだした。
「視界も頭の中も真っ赤に染まる、そんな感じでした。訓練では感じたことのない境地でした」
「ふーん」
つまり本当に夢中だったのだ。
ただ殺されまいとして、ただ脅威を排除したまで。
生物として当然の権利を行使しただけ。
正哲は内心で落胆した。
それでは凡人だ。
そこいらの一般人に刃物を保たせて、生存のために振るわせるのと変わらない。
理想は意識的に、もしくは自覚的に攻撃することだった。
体が覚えた技を無意識で繰り出すのではなく、できれば意図的に相手を効率よく仕留めるために組み立てる。
そんな境地であったなら、この訓練は終りが見えたと思えたのだが……。
……先は長いようだな。
正哲は心中で嘆息した。
「とりあえず先に進もう。まだプレイヤーは辿り着いていないが、先回りしてNPCから武具を購入しておきたい」
「そうですね。他のプレイヤーがいなければ看破を気にする必要はなくなりますし。……あの、私も看破を取得できるようになったのですが、取得した方がいいですか?」
「うーん? どっちでもいいぞ。好きにしろ」
「そうですか。クロムさんは取得したんですよね?」
「まあな。相手がPKかどうかなんざどうでもいいんだが、初期状態でどのくらい見破れるのかは気になる」
あまりにも「偽装」が「看破」で見破られるようなら、「偽装」のスキルレベルを上げなければならない。
もしくは「偽装」することを諦めて、常時PKとして周囲のプレイヤーと戦い続けるか、だが。
さすがにそれは避けたかった。
……まだ常在戦場の心得なぞ、小娘には備わっていまい。
気疲れして肝心の欠陥の克服という課題をこなせなくなる。
それでは意味がないのだ。
ふと思いついて、正哲は「看破」スキルを試してみることにした。
結果、しっかりと目を凝らすと、スズナの「偽装」を「看破」できることに気づいた正哲は、スズナにその旨を伝えた。
「疑ってかかると偽装より看破の方が強いらしいな」
「そうなんですね。変装もしているのでバレることはないかと思いますが……」
「どうかな。男女二人組を見たら必ず疑ってかかるくらい、するかもしれんぞ」
「そうなると厄介ですね。偽装のレベルを上げますか?」
「ひとまず初期レベルじゃ足りないことは分かった。スズナ、試しにひとつ上げてくれ」
「はい。……上げました」
「よし」
正哲はスズナをじっと見つめる。
スズナは落ち着かない様子だが、この際、気にしていられない。
正哲も少女を見つめる趣味はないのだ。
互いに気まずい時間を数秒ほど過ごし、正哲は結論した。
「よし。ひとつ偽装のレベルを上げれば初期レベルの看破に見破られることはなさそうだ」
「ということは、常に看破より偽装を高めておく必要があるということですか」
「完璧に隠し通すならそうだな。だが看破にスキルを振るプレイヤーはそう多くないだろう」
まずPKを倒す必要があるところからして、難易度が高い。
また普通は戦闘系のスキルツリーを伸ばしたいはずだから、わざわざPKを発見するために看破を伸ばすようなプレイヤーは考えづらいのだ。
ちなみに「看破」のスキルツリーを伸ばしていけば、「採集」や「採掘」などの上位スキルが手に入る。
だがPKを倒すことと採集などを重視したスキルの習得を目指すのでは、方向性が違いすぎる。
他にも「魔物知識」のスキルツリーの上位スキルも手に入るから、戦闘能力を上昇させられなくもないが、迂遠な方法だ。
通常なら「看破」を伸ばすプレイヤーは希少だろう。
しかし今は正哲とスズナには多額の賞金が掛かっている。
優先的に「看破」を伸ばすプレイヤーは必ず現れるだろう。
多くはないが必ず現れる。
その場合は、……返り討ちにすればいい。
「幸い、変装にはバリエーションがある。一度看破されたからと言って、ずっと看破され続けるわけじゃないだろう。看破されて、襲い掛かってくるなら返り討ちにすればいい」
「そう……ですね。分かりました」
正哲はスズナに合わせて「偽装」のレベルをひとつ上げた。
◆
ふたりは街で一通りの武装を更新して、フィールドに出た。
まだ他のプレイヤーはここまで来ていないようだ。
「さすがにここで待ち構えるのは効率が悪いな……」
「魔物を狩りますか?」
最前線で他に誰もいないフィールドで魔物を狩る男女二人組。
……絶対に目立つ。
というかそんな存在は、クロムとスズナの賞金首以外に有り得ない。
追いついてきたプレイヤーに目撃されれば一発でバレる、間抜けな状況だ。
格好悪い以前に、そもそも魔物を狩ってゲームを楽しむのは今回の趣旨にそぐわない。
「少し戻るぞ。そこでプレイヤーを待ち伏せする」
「……はい」
スズナの表情が曇るが、それだけだ。
段々とPKに慣れてきているのが分かる。
正哲は一ヶ月間、スズナがPKを続ければやがて人に剣を向けることに躊躇いを覚えなくなるだろうと確信した。