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チグリジア  作者: ハルカ
8/8

グリフォン、死す


「ギエエエッ」


「グリフォーーン!!」



 勇者に出会って早々、グリフォンが死んだ。



 あれから洞穴に巣をつくってあるということで案内してもらいそこで少し休む提案を受けた。


 グリフォンの巣といえばやはり金銀財宝のありか。

本当に持っているのか聞いてみると、昔は金の出る山にいてその山を荒らす人間は食べていた。特に何か守っていたことはないそうだ。


 恐らくたまたま伝説となったグリフォンは金銀財宝を任されていたか、ただ縄張りを荒らす輩を襲っていたら守っていると誤解された、こんなところだろう。

 ちなみになぜ魔王城の近くに縄張りを作り直したかというと、少しでも魔王の近くにいたかったかららしい。乙女だ。


 モンスターといえどしっかり喜怒哀楽があったため、人間と違うのは価値観なんだなあと思う。

怪我も治りきっていないのに数十分後には出発しようと言われたときはバカなんじゃないかと思ってしまった。私は傷が痛くてとても動く気分じゃない。

なのでくさっても勇者。人間とはいえ勇者なのだから万全の状態で挑むべきだろうと説き伏せて数日間グリフォンの巣で籠っていたが、グリフォンはずっと落ち着きがなくソワソワソワソワしていた。餌をもってきてくれたからいいんだが怪我を気にするようすもなく動くのは命知らずすぎる。生肉、美味しかったけど。いつもと違う食材でもキマイラとしての本能が食欲を操ってくれるのでこんな食べ物気持ち悪い!ということは今のところない。


 数日間安静にしているとすごいスピードで傷が治ったし、グリフォンが我慢できずに暴れだしたのでやっと勇者の元へ旅立った。


 魔王がいっていた感覚の件も本当みたいで無事に魔の森という森の中にいる勇者をみつけることができて、興奮したグリフォンが魔王様ばんざーーい!と背後から奇襲をしかけたら勇者にあっさりと切り捨てられた。


 上空で見ていたが、おかしい。


勇者御一行はまっすぐに前を見て進んでいた。そりゃあ警戒していただろうから背後からとはいえ馬鹿正直に突っ込んだグリフォンに気づくだろう。

でもグリフォンは魔法でスピードをあげていたし、グリフォンなんだ。


それを一撃で切り捨てるなんて。


 他のパーティーは途中で気がついたものの、グリフォンのスピードに対応しきれていなかった。魔法使いはグリフォンの魔法をなんとなく感知していたのか魔力を練っていたけど、攻撃してこなかったということは居場所は分かっていなかったから僧侶と戦士と同じようにあのままだと一手を食らっていた。それが普通だと思う。


 勇者ってあんな化け物なのか。


動揺した気持ちを整えている三人に囲まれてグリフォンを見つめていた勇者が、私を見た。



「ひっ」



 ゾッとした。血で濡れた剣。私と同等だったグリフォンがあっさり死んだ。私もあの剣で殺されてしまうイメージが脳裏に浮かぶ。


 勇者ってこんなに恐ろしいものなのか。


 勇者につられて他の三人も上を見上げ、私を見つけた。

どうしてグリフォンとキマイラがいるのかとまた動揺したが、すぐに戦闘体制をとった。さすが、勇者の付き人になる人達だ。けれどあまり大きな恐怖を感じない。離れているからか。私が怖いのはただ一人、無表情でこちらを見つめる勇者だけだ。


 逃げたい。


話し合いなど出来る気がしない。降り立ってしまえば最後、慈悲もなく殺される未来が見える。地に落ちたグリフォンのように。

 激しく鼓動する心臓を体で感じながら少しずつ高度をさげる。


三人は警戒して闇雲には攻撃してこない。勇者がただ見つめているだけだからということもあるだろう。



「どうする?まだ魔力はあるけど、キマイラ相手に効く魔法はあまりないんだけど」


「グリフォンといいキマイラといい……なにが弱い魔物ばかりだ、だ。とんだ嘘つきだなあの案内人」


「……勇者様」



僧侶は切羽詰まった顔で勇者を見つめた。

勇者は見惚れるような穏やかな笑みを浮かべる。



「僕がやろう」



私が地面に足をつけると、勇者が一歩前に出た。

思わず一歩後ずさってしまったが、二歩目は耐え勇者を見つめる。


 私にだけ見える勇者に、表情はなかった。



「……私は、襲いません。協力したいと思っています」



 瞬きが増える。

視界がぼやけてきた。汗が止まらない。どうしてこんなにも怯える、しっかりと私は言い切った。すぐに殺される未来はないはずだ。ないはずなのにこの恐怖はなんだ?


 勇者は片足を下げ、剣を持つ腕を引いた。

……勇者は私を見ながら、剣を構えた。



「う、嘘ではありません!魔王のせいでこうなりましたが私は元々人間なのです!リンム村に住むマーヤといって……!」



血の気が引く。


勇者は動かない。表情も体も。

何を考えているのか分からず怯える私を見て、やっと勇者は口を開いた。



「何を言っているのか分からないよ」



 降りてきた剣の軌道は見えなかった。



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