はじまりは突然に
前半は明るめ。後半は暗くなる予定です。
『おめでとうございます。あなたは殺意確率マシーンの適合者です』
いつものように家事全般をして、親が営む食堂を手伝って、モンスターを狩ってきた人の自慢話などを聞いて、使いなれたベッドで眠っていたとき、そんな声が聞こえて飛び起きた。
太陽の光はなく月がまだ輝いている時間。薄暗い部屋には見慣れた自室と、見慣れない大男がいた。大男の手には大人一人が入るくらいの黒い棺がある。とりあえず寝起きの頭で分かったことは、この大男が不法侵入者だということである。
「……おはようございます」
「おはよう」
下手に喚いて刺激するより話し合いに持っていけるよう冷静になるべきだ。そんなことを頭の片隅で思い挨拶したら普通に返された。話は通じるのかもしれない。
次は何て言うかと考えながら相手を観察する。
第一印象が大男ということもあり、改めて見ても大きい。家の屋根は高くはないが、天井に頭がつくなんて人見たことがない。二メートルはあるんじゃないだろうか。そんな大男は黒色のローブを羽織っている。あまり親しみのない布なのできっとお高いんだろう。ローブの下には傷がある屈強な肉体と高そうな腰巻き一枚だ。裸足だ。年は三十代ほどで、歴戦の戦士のような面立ち。少しこんがり焼けた肌に、顔にもある傷痕はワイルドさを引き出しているのでファンになる女性もいるかもしれない。
そこまで考えた結果、この大男は変態なんだろうと結論をだした。
「魔王が活動するこの時代、ストレスが溜まるのも分かりますがやけになったらいけませんよ。今度の勇者は魔王にも負けず劣らずの強さだそうですからきっと世界は救われます。それまでの辛抱です」
最近は魔王が積極的に活動をしているようで、どこの村も農作物がうまく育たなかったり狩人がモンスターに殺されたりしてひもじい思いをすることが多い。みんな頑張って生活しているがやはりストレスは溜まっているだろう。この大男もきっとそうにちがいない。というかそうであってほしい。生粋の変態なら打つすべなしだ。
緩やかな笑みを浮かべながら大男を見つめる。
大男は一瞬呆気にとられたような顔をし、その後笑いだした。
今度はこちらがで呆気にとられていると、大男は愉快そうに私の頭に手を置いた。
「ならば強くなってくれ」
大男の低い声が響いた瞬間、私の意識はなくなった。