第8話 不安
文章を考えるのって難しい。
特にキャラクターにしゃべらせながら話を進めていくのが・・・
次回更新は7月24日です
「本日は皆さまお疲れでしょうし、心装兵器を扱うのは明日にしましょうか」
あれから数十分かけてようやくペアが決まったようだ。俺たちが早く決めすぎたともいうのだが、長引いた要因は一つとしか言えない。
「あはは・・・皆、なんかごめん」
そう言って皆に謝っている男は秋山 雪という男だ。
こいつは顔面偏差値・容姿・成績・運動神経ともにレベルの高い男で女子生徒から人気があるようだ。ただ欠点があるとするならば優柔不断なところと男子からの評価が良くない事だろうか。
「俺みたいにこいつとしか組まねぇってスパっと決めないからこうなるんだよ」
その秋山に突っ込みを入れたのは翠簾野 武隈という男。
こいつは秋山と同じイケメンだがはっきりと物事を決めるタイプだ。男らしい部分が多々見られ、男子からも女子からも好かれているそうだ。ただ、聞いた噂ではそこまで頭は良くないらしい。
時間が余っていたので誰がどうペアを組むか眺めていたのだが案の定イケメンであるこの二人にほぼ全員集まった。数名は良いかな?と思っていた男子に突撃していったので俺と同じようにその光景をあきれた様子で見ていた。
「秋、一緒にやろうぜ」
それから翠簾野は速攻でこの子と決めたことで狙っていた女子がある程度ばらけた。これで半数は終わるだろう・・・と思いきやばらけた半数は秋山の元へ向かうという非常事態が発生。
もうあきれるどころかドン引きしていた。顔が良けりゃ誰でもいいのかといった感じだ。しかも、余計に悪化した原因は秋山の優柔不断さ。誰にするか散々悩んだ挙句、一番仲のいい人を選んで終了。
その後、こいつでいいやといった感じで女子はばらけ何とか決まった感じだ。正直相性とかは恥からチェックした方が早かったような気がする。
「そうは言うけどね。普段友好関係の人に順位とかつけないからすぐになんて決めれないよ」
「別に誰かを選んだら付き合えないカップリングな訳じゃねぇんだしこの人と思った人でいいだろ」
秋山の言う事も尤もなんだが翠簾野がグッジョブすぎるな。もっといってやれと叫びたくなったのは言うまでもない。
「そろそろお話をしてもよろしいでしょうか?」
そんな二人の終わる雰囲気のない会話に王女が申し訳なさそうな表情で切り込むと静かになる。
「それでは、本日は特に訓練の予定はありませんし、ペアも決まったことですのでお部屋へとご案内します。夕食はこちらでご用意してご案内しますのでお部屋でお待ちいただけますようお願いします」
「「「「「わかりました」」」」」
王女様の言い方が何かひっかかるような気がしたが・・・それよりも昼食を食べていないことを忘れていた俺たちは夕飯に意識が向いていた。
「あぁ、早く夕飯食べたいなぁ」
「お兄さん、声に出すのやめて。お腹が余計に空くから・・・」
「すいませんでした」
つい口に出してしまったことで妹に怒られた挙句、周りのクラスメイトから睨まれてしまった。さっさと意識をそらす為にも部屋に案内してもらうことにした。
俺たちが住む場所は王城内にある客間だった。扉を開けて見ればとても個室とは思えない広さで2つのベッドが並んで置かれていた。
(・・・ん?2つのベッド?)
ここでようやく違和感に気付いた俺は王女様の話を振り返ってみると、"ペアが決まったので部屋に案内します"と言っていた感じの事を言っていた気がする。つまり、ペア同士で同室なのではないだろうかという可能性が出てきた。
「お姉ちゃんには悪いですがお兄さんをしばらく独占できそうですね」
「気づいてたのか!」
下衆顔をしながらそう言い放つ妹に全力でツッコミを入れた後、仕方なく部屋に入る。
(まぁ、妹に手出す兄は居ないから安心して眠れるだろう)
と安易な考えをしつつベッドに腰掛ける。未だに学生服を着たままだったことに気付いて上着を脱いぎ、皺にならないようにクローゼットを開けると中にあるハンガーにかける。
「やっぱり、そうなんですね」
ここまでやって気付いた。俺は自然に服をかけていた。つまり、ここで生活していたことがあることを意味していた。
さっき完全にばれたと思って油断していたのかもしれない。もしここで探すそぶりを見せればまだ誤魔化せたのかもしれないのだが・・・。
「あぁ・・・」
最早手遅れ。ばれた以上はちゃんと説明しないと納得してくれないのがこの姉妹だ。夕食までまだ時間はあるし丁度良かった。
「そうだ。この世界で愛理と共に平和の為に戦った。そしてこの世界であいつは死んだ」
紛れもない真実を語ったが、実のところ妹とご両親はどこかで事故にあって死なせてしまったと勘違いしている節があった。まぁ、誰が異世界行って戦ってましたなんて言って馬鹿正直に信じる方がおかしいんだけどさ。
「そう、ですか」
その声は震えていた。俺は背を向けているからその表情を見ることはできない。もしかしたら、姉と同じように自分もなるのではないかと不安になっているのかもしれない。
あの場で愛華が声を発したのは王女様と話した時が初めてだ。それまでほぼずっと俺にくっついて震えていた。恐らくあの中の誰よりも現実的な判断をしているだろう。
「あぁ・・・。だけど安心しろ」
その不安を少しでも取り除くのが姉の代わりにできる兄としての役割だろうと思う。
「今度は誰も死なせねぇ。だから愛華、お前も絶対に守ってやるから安心しろ」
そう言いながら愛華に近づいて抱きしめた。華奢な体はちょっとでも力を入れたら壊れそうなほど脆く感じる。最初は震えていたが徐々に震えが収まり、抱きついてきた。その表情は見えないものの、耳が赤くなっているのを見て何も見なかったことにした。
余談だが、夕食の時間になるまでずっとそうしていたため入ってきたメイドさんが徐々に顔を真っ赤にして―――
「失礼しました!」
―――飛び出して行ってしまった。
その後、俺たちが必死にメイドさんを追いかけたのは言うまでもないだろう。