第7話 名前の由来
バレました。
やりました。
次回更新は7月21日です
それからまず、地球に帰れるのかという話になった。戦いに参加し、それが終わったとしても帰れなければ何の意味も無い。
「地球へ送還することは可能です。ですが、今回のことが解決しなければ恐らく変えることは出来ないでしょう」
「それは何故ですか?」
「問題解決をするにあたり、召還を提案して実行したのは神様です。そして、過去に勇者様を帰還させたのも神様です。つまりは、今回起きている問題を解決すれば送還してくれると思います」
そう、この世界は地球と比べ神様が積極的に秩序の維持に関与してくれる世界だ。秩序が乱れ続ければその分世界の管理にも負担がかかるとの事だった。秩序はこの世界に住む者の誰かが強くなりすぎても同じことが言える。だから、問題解決の後に影響を及ぼさない存在として異世界人を呼ぶという理由もあるそうだ。
だから俺と愛理は戦わざるを得ない状況にあり、帰る為に嫌々戦っていたのも否定はしない。けれども・・・気付けば道中で出会った人々の温かみを知ったことで人々の平和を願って戦っていた。彼らも戦いの中で知ることだろう。
そういうわけで帰る為にも協力することが決定した後、自己紹介を早急に済ませる。クラスメイトに興味は無いが一応名前は覚えておくことにした。
その後で俺たちは一緒に戦う"ペア"を組むこととなった。
「心装兵器が真価を発揮するには信頼関係が不可欠です」
「真価・・・ですか」
その際の注意点を復活した王女様から教わっているところである。
「心装兵器はその名のとおり心の在り方によって変化します。つまり、嫌っている人に扱われると十全に能力が発揮されないのです」
そう、この兵器は心象によって効果の発揮の仕方が大きく左右する。昔の俺は恋人である愛理とペアを組んでいた為、完全に能力を発揮していた。
何と戦うにせよその能力が発揮されなければ同じ兵器を使っている相手とは大きな差が開くことになる。別に最初はそれでもいいのだが一向に改善する余地のないほど嫌われていたら全く能力を発揮することなく何もできずに死ぬこともある。だから心装兵器を扱う人への心象は重要となっている。
そして、俺たち異世界人が呼ばれたのはこの部分が大きく関係している。俺たちは平穏な日常を過ごしてきた分、互いの事を理解する時間が多くある。危険に常に晒されている人たちにそういった余裕は無い為、嫌っても好いても居ない人とペアになるパターンが多くなっている。そのため異世界人と比べると性能は格段に落ちるらしい。
一応ごく稀に吊り橋効果でより強く効果を発揮する場合もあるらしいがあくまでも一時的であって、長続きはしないそうだ。
「では、好きな人のところへ向かってみてください」
丁度32名中男子16名女子16名と男女同数であった為、均等にペアが作れる。こういう時、男が選ぶのではなく女が選ぶのが理想となる。何せ女の心象次第なのだから仕方のないことである。もちろん俺のところにはクラスメイトは誰もこな―――
「お兄さん。私とペアお願いできますか?」
―――妹が来ました。予想通りというかクラス内で嫌われ者の俺が組める相手なんてのは愛華くらいしかいない。もちろん愛華からしても俺以外に信用している人はいないだろうから選択肢はなかったのだろう。
「おう」
少々妬みの感情がこもった視線を感じたがスルーすることにした。早々にペアが決まったので王女様に報告に向かう。
「ペアが決まりました」
「かしこまりました。皆さまが決まるまでこちらでお待ちください」
どうやら特に適性を問われることはなさそうだ。まぁ、俺にずっと引っ付き続けていたから特に必要ないと判断したのだろう。
「・・・本当に、愛理お姉ちゃんではないのですか?」
そんな中爆弾を投下する妹。未だに疑っていたのかと思っていたのだがそういえば直接本人から聞かない限り納得しない人間だったなと苦笑いする。
「違うと思います。私は地球ではなく、こちらの生まれになりますので」
「そうですか・・・」
分かっては居たことのようだがショックは大きいだろう。姉の生き返りのような人に出会えて、姉ではないと否定されるのだから。
「ですが、愛華さんの姉のように接して頂いて構いません」
その様子を見かねたのか、それとも元々そのつもりだったのか愛華に向かってそういった。愛華はその発言に驚いてはいたものの嬉しそうに頷いた。
「ではお姉ちゃんと呼ばせていただきます」
「はい、よろしくお願いしますね。愛華さん」
「お姉ちゃんはお姉ちゃんなのですから呼び捨てで呼んでください」
「・・・わかりました。では愛華も敬語をやめて頂きたいです」
「それはこっちのセリフだと思います」
「ふふふ」
「あはは」
どうやら似たもの同士は仲良くなるのは早いらしい。こうして比べてみても誰もが姉妹だと思うだろう・・・それ程までに似ていた。だから俺も目立つなと妹に言っておきながらつい声に出して目立ってしまった。
「そういえば愛華のお兄さんも私を愛理と呼んでいましたね」
ふいに俺の方に話題を振ってきた。視線を向けると興味津々といったご様子。
(・・・まぁ、クラスメイト達はまだペア決まらなそうだしちょっとくらい話してても大丈夫か)
「あぁ・・・。俺の恋人の名前だ」
「そうだったのですか。そんなに似ていますか?」
俺の返答にそう返すとドレスのスカート部分をつまみ上げて自分の後ろや足、腕といった部分を確認する。そのしぐさが愛理と重なる。
「・・・似ているよ。それこそ、妹が間違えるくらいにな」
「すごい偶然もあるのですね」
「本当にな」
そう言って微笑み合う。まさか、こんな風に妹以外に話をする機会があるとは思っていなかったこともあって気分が高揚していた。
「あー!お兄さん、久しぶりに笑ってるー!」
その様子を見た俺を妹は指さしながら面白いものを見たと言わんばかりに笑っている。
「失礼な。普段から笑ってるだろう」
「嘘つきー!お姉ちゃん居なくなってから作り笑いしかしなくなったくせに!」
反論してみるが無意味だった。どうやら本気でそう感じているらしかった。俺自身そんなつもりはなかったのだが妹からすればそう感じたのだろう。
「愛華がそういうならそうだったんだろうな」
「投げやりすぎない?」
「俺に関する事でお前たちが間違えたことはないからな」
緊張がほぐれ、いつものような調子に戻ってきた妹とじゃれ合う。
しかし、王女様の反応が突然無くなったと違和感を覚えた俺は王女様の方を向く。すると何か考えている様子だった。
「・・・恋人であるお姉さんが居なくなった?」
その王女様の呟きを聞いたとき、俺は"ヤバイ"と思った。そういえばこの国では俺の名前と愛理の名前は有名だ。それこそ、知らない人が居ないくらい有名な話だろう。今ここでバレる訳にはいかない。元勇者である俺への期待感はペアである妹にも負担をかける可能性があるからだ。
「そ、そういえば王女様の名前の由来は何から来てるんだ?」
慌てて話題を振ると我に返った王女様がきちんと答えてくれた。
「犠牲となってまで平和を作り上げた勇者愛理様は現在では聖母アイリとして神聖視され、崇められています。そのアイリ様と同じように平和の為に生きて欲しいと願って名付けたそうです」
それを聞いた瞬間、俺と妹の時間は止まった。
俺は今、大量に冷や汗をかいている。まるで魔王を相手にしているかのような威圧感が俺に向けられていた。ぎこちない動きで振り返ると、ジト目の妹が俺を見ていた。
その目は恐らくこう語っている。
「お兄さん。何故そのことを黙っていたのですか」と。
そう、バレてしまったのだ。妹に俺達がこの世界の元勇者であることが。
「・・・?突然固まってどうしたのですか?」
事情を知らない王女様は首をかしげている。可愛らしい仕草だか今はそれどころではない。どうにかしてこの状態から逃げなければ・・・・・・・。
「お兄さん。後で色々教えてくださいね?」
「・・・・・はい」
「???」
どうやら俺は、妹から事情を説明し終わるまで逃げられなくなったようです。