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Brave of Hearts ~再び繋がる心~  作者: 烏天狗
第零章 プロローグ
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第3話 蘇る悪夢

今回は2話連続投稿になります

昼食の時間がやってきた。


教室を見渡せばいくつかのグループに分かれており、すでに昼食の準備を進めていた。いつもであればこのまま1人で昼食を食べるのだが・・・・。


「お兄さんいますか?」


「お兄さん?さっき出て行ったよ」


声が聞こえ、教室の入り口を見ると愛華が訪れていた。聞かれていたクラスメイトはどうやら居ないことを伝えているらしいジェスチャーが見え、声も聞こえた。しかし妹はそこまで素直に聞き入れる程この高校の人間を信用していない。特に俺の情報に関しては。


「居るじゃないですか」


若干不機嫌そうな声を出してクラスメイトの横を通り過ぎると俺の方へと歩いてくる。俺は教室に居ないと言ったクラスメイトは自分の言葉が信用されていないことを悟り、呆然と突っ立っていた。


愛華は俺の席の位置を知っているのだから見ればすぐに分かる筈なのだが・・・。信用できる人間なのか見極めようとでもしたのだろうか。・・・・・・まぁ、何にせよアイツは今後信用されることは滅多なことが無い限り不可能だろう。それほどまでに俺に関する嘘を付く人間を妹は嫌っている。


「度胸あるなぁ」


こちらに近寄ってきた妹に向けてそういうと満面の笑みで俺に言い返してきた。


「これだけ悪い噂を流されても平然としてる人の妹ですから」


皮肉とも取れるこの発言を聞いて俺は血の気が引いた。滅多に浮かべることの無い作った表情の笑みは相当頭にきている時のサインだ。爆発も近いと見ていいだろう。


「と、とととりあえず別の場所で食うか。流石に上級生の教室では食べにくいだろう」


「・・・・・・はい」


動揺しながらも何とか状況を打開しようと声をかけるがまたもやニッコリと目が笑っていない笑みを浮かべる。・・・これ以上刺激をされては困る。そう考えた俺はガス抜きをする意味でも早く2人きりになったほうが良いだろうと判断する。弁当を持ち、教室を共に出ようとする。


「・・・・・・なんですか?」


「彼と関わるのはやめたほうがいいよ」


しかしそれは先ほど信用されなかったクラスメイトによって阻止される。しかも、今一番言ってはいけない言葉までワンセットである。もう手遅れだった。


「あぁ・・・」


終わった・・・そう考えたときには愛華は俯き、ぷるぷると震えていた。この動作は姉妹共有の動作であり、怒りのボルテージが上限に達したことを表している。もう、限界だと。


「・・・・」


「え?今何か言った?」


この日、高校で初めて愛華の火山が噴火した。


「何も知りもしないくせに知ったような口を開くのやめていただけませんか先輩」


「・・・え?」


「もういい加減うんざりです。皆さん余りにもしつこいので言っておきますが噂として流れているのは事実無根であり、貴方がたのやっていることはただのイジメですよ。それで居て正義感ぶってるの見ると反吐が出ます」


「え・・・え?」


彼女は溢れ出るマグマの様な愚痴の数々をクラスメイトに対して告げる。余りの急変に周囲のクラスメイト達は信じられないものを見たかのように目を見開いていた。多分これ、止めないと昼食終わるまでに終わらないんじゃないだろうか。


「第一何で本人に確認するまでも無く決め付けてるんですか?貴方がたはあの人が犯罪を犯したらしいって明らかな嘘をついてもその人が犯罪者だって決め付けるような人間だって自覚はありますか?」


今、俺は後ろから怒っている妹を見ているが正面から見ると恐ろしい形相をしていることだろう。普段のお淑やかな雰囲気は崩れ去り、般若のような鬼の形相を浮かべているのだから。何度か怒ったところを見たことのある俺でさえ正面からその顔を見る勇気は無い。


最早周りの人間も妹の言葉に顔を真っ青にしている有様であるが、そんな事は俺にとって心底どうでもいいことだった。どうやって妹の暴走状態を止めるのか・・・それだけが悩みの種だった。


「それに姉とお兄さんの関係を気安く語るのはやめていただけますか。それを聞いて一番不快に思うのは私と私の家族です。貴方がたは死者である私の姉を侮辱しているのですか?そんな簡単に靡くような男を選んだとそう言いたいのですか?」


流石に俺と愛華、そして愛理をも巻き込んだ恋愛の噂は相当頭にきていたらしい。その部分に関しては俺も一度は文句を言おうと思っていたのだがあいつの事だからしばらく我慢しなさいと言うだろうと今まで触れてこなかったことだ。最も俺が言わなくても彼女の妹が代弁してくれるという信頼もあったことは否定しない。


けれど、あんまりそういう情報を無関係な人に知られたくないのでそろそろ止めることにする。


「愛華」


短く優しい声音でそう声をかけるとビクッと身体が一瞬だけ震えた。そして愛華は恐る恐る俺の方を振り返ると「ひっ」と声を上げた。クラスメイト達も俺の顔を見て「ひっ」と悲鳴を上げたのが聞こえた。失礼な・・・そんな怖い顔はしてない・・・はずだぞ?


「お、お兄さん・・・私、その・・・」


恐る恐ると言った感じで上目遣いで俺を見ながら失言を詫びようとしている愛華。


(別に怒っているわけじゃないんだけどなぁ)


と思いながら頭に手をやると撫でてやる。手を乗せた時またもやビクッとしたが、なされるままに撫でられている。


「行くぞ~」


「は、はい」


出来るだけ怖がらせないような笑みを浮かべて昼食を食べる場所へと移動しようとする。クラスメイト達は未だに温度差に付いていけず皆固まっていた。多少の失言はあったものの妹の発言が彼らには相当響いたようだ。未だにほぼ全員顔色が青ざめている。


年下に言い負かされるっていうのは少し残念な気がするけど自分達の行動を見直す良い機会になったんじゃないだろうか。最も、クラスメイトが犯罪者になろうが聖人になろうがどうでもいい話だが。


「・・・ん?」


最早、死屍累々と言っていいほどの現状から抜け出すために教室を出ようとする。しかし、愛華が入って来た時に閉めたドアが開かないことに気付いた。


(・・・おかしいな)


と思いながら反対側のドアへ移動して開けようとするも開かない。この時点である可能性に気付き、血の気が引いた。


「・・・お兄さん?」


不審な行動をとる俺に何をしているのか問いかけるように声をかけてくる。けれどもそんなことに構っていられるほど余裕はなかった。もし、あの()を見たのはこれが理由だったとしたら・・・・・。


「くっ・・・」


この現象を前に一度体験したことがある俺は愛華だけでも何としても逃がさなくてはならないと周りを見渡す。残った脱出できる場所は窓しかなく、開くかどうかを急いで確認する。しかし、すべて鍵が掛かっていないにも関わらず窓が開くことはなかった。


俺の行動にクラスメイト達も我に返り、ドアを開けようと試みる。しかし、そのドアはびくともしない。やがて有り得ない現象による不安がクラスメイト達をパニック状態へと陥れる。


「ちっ」


その様子を見て舌打ちをすると全力で窓を殴る・・・が割れない。これは本格的に逃げられないと悟る。


「なんだよこれ!」


「どうなってるの!?」


クラスメイト達に次第にパニックが広がっていく中で俺は妹の名を叫ぶ。


「愛華!」


俺は何が起こっているのか大体理解(・・・・)していた為、せめて別れることのないように愛華に接近して抱きしめる。「ひゃあ」と少し可愛らしい悲鳴が聞こえた気がしたが、そんなことを気にしている暇はなかった。


(あぁ・・・またか・・・)


すぐに視界が白く染まり、意識を失った。


―――この日、地球から30人ほどの生徒が行方不明となり、神隠し事件の再来として世間を騒がせることとなった。

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