第2話 高校生活
次回更新は7月9日の17時です
「お兄さんの悪い噂が流れているのは知っていますか?」
登校中、やや不機嫌な様子で愛華がそう問いかけてくる。その不機嫌さは先ほど隠し事をしたせいか、それとも噂が気に入らないのかまでは分からない。けれど相当鬱憤が貯まっていることは分かる。
「知っているさ」
愛華の言う悪い噂。全部を認知しているわけではないが、そういう噂が流れていることは小耳に挟んでいる。こればかりは俺の日々の生活態度が悪いとしか言いようが無いので諦めている。
「ならどうして放っておくんですか?」
「噂なんてのは嘘か本当か確証も無い人間が流している場合が多い。そんな確証のない話に本人が反応なんてしたら本当だって認めるようなものじゃないか」
どうにか出来るならしたい。噂の一部は愛華の事も含まれているからだ。姉と付き合ってたけど居なくなってから妹に乗り換えた最低男だの愛華が俺に誑かされているだの正直やめて欲しい。妹の婚期が遅れたら誰が責任を取ってくれるのだろうか。
「それはそうですけど」
どうやら納得はしてくれたようだが不満げだ。この様子からして兄である俺が悪く言われているのが気に入らないのかもしれない。良くできた妹だよ。
「わっ」
苦笑いすると少し不機嫌そうに膨れている愛華の頭に手を置くと撫でる。少し恥ずかしがっては居るものの、嫌がる様子は無い。この辺り姉妹で良く似ている。
「まぁ、愛華に関する噂は否定したいところなんだがな」
「お兄さんの噂も否定してください」
「それはどうでもいいや」
「ええっ!?」
「俺、クラスメイトとかと一切関わってないからな・・・悪い印象しか無いんだよ。だから弁明のしたところで変わらないだろ」
そういって苦笑いすると愛華は少し真面目な顔をする。暗に他人と関わりたくないと拒絶していることを汲み取ったのだろう。その理由を知っているからこそ、深く踏み込んでは来ない。正直に言ってしまえば今は愛華の成長を見届けることが出来るだけでも俺は十分なのだから。
「・・・お兄さん、まだ気に「さーて今日も一日頑張るぞ!」」
愛華の言いかけた事を遮ると学校に向けて走り出す。その行動に少し呆然としていたが―――
「待ってください!置いていかないでくださいよ!」
「あははははは」
―――我に返った愛華に追いかけられ、校門付近で捕まった上、こっぴどくしかられたのは言うまでも無い。
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所変わって2-Aの教室。
ここは俺の所属するクラスだ。
「はぁ・・・」
・・・だというのに毎回入ろうとするたびに緊張する。というのもクラスメイトからの視線がすごい集まるからだ。何せクズ男オブザイヤーを受賞するレベルで悪評の噂が流れている。最早定着したその評価はもう本人が否定したところで覆らないレベルまで来ている。
覚悟を決めてドアを開ければ一斉にこちらに視線が向く。あちら側で平和とは無縁の世界で生きていた為、どこからの視線なのかというところまで分かってしまうのが余計に緊張する要因となっていた。
(別に喧嘩売られても痛い目に会うことは無いし、誰も関わってこようとしないからそれはそれで丁度いいんだけどね)
そう思いながら席に着くと机の中を漁る。
「・・・・」
バサバサバサと音を立てて出てくる手紙。ハートマークのシールも見えるがこれは全て男からの手紙だ。簡単に言えば嫌がらせだ。
(今日はまだ少ない方だなぁ)
落ちた手紙を一枚一枚拾い、机の上に置く。周りの人間からすればこれは悪者に対する仕打ちなような気分なのだろう。ざまぁみろといったように笑っている人達が多い。
(まぁ、関わること無いだろうしどうでも良い)
前までは気にせずそのまま捨てていたのだが、一度中身を見たときに愛華について書かれているものがあったのを見てからというもの必ず中身を確認するようにしている。しかし、よくも毎日飽きずにこんな嫌がらせを続けられるなと思う。流石にそろそろ飽きてくる頃だろうと思うのだが・・・。
(暇人が多いようだ)
授業開始までの間一通り目を通したが今回愛華に関することが書かれていたのはほぼ全部だった。内容的に恐らく愛華に好意を抱いている者の犯行だろうか。何れにせよこういった性格の悪い男が近づくことだけは阻止しなければならない。
(直接的な行動に出て愛華を怒らせないと良いけど・・・)
思っているよりも噂の影響が愛華にストレスを与えている。出来る限り我慢する子ではあるが一度爆発すると抑えられないほど怒りを相手にぶつけるタイプだ。だからこういったものも見つかるのは拙いと見られないように処分している。
しかし、直接的な行動に出たらそれは阻止のしようが無い。朝ああいう聞かれ方をしたということは可能性はありそうだ。しかもあの不機嫌を隠さない感じは爆発寸前と言っていいだろう。
(そこまで我慢させた俺も悪いな。もし爆発したら少しは収めるのを手伝うことにしよう)
そう心に決めて、今日もボッチな学園生活を満喫することにした。