第1話 帰還から1年
プロローグと1話だけ2話分連続予約投稿になります
次回更新は7月8日の17時です
「うわああああああああああああ」
叫びながら飛び起きるとそこは見知った天井だった。
「はぁ…はぁ…」
久しぶりに見た悪夢に全身が汗でびっしょりと濡れている。呼吸を整えて再び布団に横になると呆然と天井を見上げる。
「……」
しばらくして気持ち悪さに着替えようと時計を見ると7時30分を指し示していた。そろそろ起きなければいけない時間だ。ちょうどいいと着替えてから洗面所に向かって顔を洗おうとする。
「あ…」
ふと鏡で自分の顔を見ると、そこには涙でぐしゃぐしゃになった表情の俺が立っていた。
こんな顔ではあいつに怒られると頬をたたくと急いで顔を洗う。このままでは、家族の前にすら出られない。
顔を洗ってから5分ほどぼうっとしているといくらかマシな顔になった。さすがにこれ以上は遅刻してしまう可能性があるのでリビングに向かう。
「…もうご飯できてるよ」
「あぁ」
いくらかマシになったとはいえ、親には誤魔化せないのだろう。母は俺の顔を見て何かを察したのか、短く俺に伝える。食卓に着いて食べ始めても無言で、何も俺に聞かない母の気遣いがちょっとだけありがたかった。
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失踪事件から1年の時が流れ、俺『柏木 真』は高校2年生になった。
失踪事件が起き、世間を騒がせているとき幼馴染兼恋人の愛理と共に俺は5年もの長い間異世界に召喚され、戦い続けていた。そして、目的を達成した俺はこの世界に帰ってきた。
愛理の遺骨と、残した物と共に。
帰って来た時驚いたのは向こうでは5年の時が流れていたのに対して、こちらでは1ヶ月しか経っていなかった事だ。その間、こちらの世界では謎の失踪事件として必死の捜索が行われていたらしい。
俺が帰ってきたことによって失踪事件は終息したが、内容が内容なので真相は明かされることはなかった。
そして、帰ってきて何よりも堪えたのは愛理の両親へ愛理の死を伝えた時だった。
「俺のせいで死なせてしまいました」
真実を語った後に遺骨の入った木箱をご両親の前に置いた。愛理のお母さんは泣き出し、妹さんは呆然と立ち尽くし、お父さんは何かを抑えるかのように唇が震えていた。
俺の行動によって彼女を死なせたことに嘘偽りはない。この責は俺が負うべきものだと言葉と紡ぐ。
「彼女は最後の最後まで僕を支えてくれました」
次第に涙が出て、声が震える。
「そんな彼女に俺はっ……彼女のささやかな願いすら叶える事が…できませんでした」
そうして俺は土下座をする。こんなことで許されるわけがないのはわかっている。それでも謝らなければならなかった。
「死なせてしまい、申し訳ありませんでしたっ…!」
どれだけの間、土下座をしていただろうか。
すすり泣く声は止み、愛理の父が声をかけてきた。
「愛理は…最後どんな表情で、どんなことを言っていたんだ」
その声は震えていた。顔を上げ、目を見て彼女との最後の会話を伝えるとお父さんはふっと笑い―――
「あいつらしい生き方だったじゃないか」
―――そう言って涙を流した。
そして、愛理の家族からは何も咎められることなく自宅へと帰された。それからというもの特に俺を責めるわけでもなくまるで血の通った家族のように扱ってくれている。
「愛理の家族は優しすぎるよな」
そう言ってペンダントを身に着けると鞄を持って玄関まで移動して靴を履く。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
そして、今日も変わらない平穏な日常を送る為に家を出た。
「…お兄さんどうかしたんですか?」
すると俺を待っていたとばかりに走ってきて愛華が声をかけてくる。
―――立花 愛華
黒髪でやや垂れ気味の目じりにぱっちりとした目、鼻がスッと通っており姉に負けないほどの美少女だ。胸は控えめだが腰はくびれ、整った体型をしている。愛理の妹であり、俺にとっても妹的な存在である。
「いや、何でもないよ」
どうやら家族相手には小さな変化でも見抜けるらしい。俺も若干シスコン気味ではあるものの、機敏な変化に気付くのは難しい。何かコツでもあるのだろうか。
「何でもないという表情ではなかったような気がしますが…」
「気にしない気にしない。それよりも早く行こうか」
「……はい」
少々強引に切り抜けたせいか、訝しんでいるようなジト目だったが間をおいて頷いてくれた。
こうして今日も二人仲良く並んで高校へと向かった。