第2話 シホ
私の小説を御覧いただきありがとうございます。
いやぁ題材としてVRMMOのNPCを選んだのは言いのですが、やはりいろいろ考えることが多くて大変です。そもそもMMOも少ししかプレイしたことないし…。
とまれ、今回も一所懸命書いております。
よろしくお願いいたします。
無事武具の素材をゲットした僕たちは拠点である地球の街『アスト』にあるなじみの鍛冶屋『スミス・ミスミ』にやってきていた。
「へぇ、あんたらが三人連れとは珍しい」
女主人のミスミさんが言った。
ミスミさんはサチと同じくβ版からのプレイヤーで、プレイ開始当初は冒険者であったが途中で武具製作にはまり、正式リリース後はずっと鍛冶スキルをあげつつ自分の店を持つために作成した武具を売ってお金を稼いでいたらしい。
サチがミスミさんとβ版のときからの知り合いであり、作る武器もなかなか上質なため、僕も露店時代からずっとお世話になっていたのだが、最近とうとうこの店、『スミス・ミスミ』を開店できたというわけだ。
「で、その娘は?紹介してよ。あ、あたしはミスミ、ここで武具を作って売ってる、まあ鍛冶屋ってやつさね」
「はじめましてです。わたしはシホっていいます。よろしくです!」
「へぇ、なかなかかわいいじゃないか。やるねぇユキヤ」
ミスミさんがシホをじっくり眺めながら言う。
「べ、べつにそんなんじゃないです!」
僕はあわてて否定した。なんだか顔が熱い気がする。
「顔が赤いわよ、ユキヤ。もしかして一目惚れぇ?」
サチがからかうようにいった。
「だ、だからそんなんじゃないってば!」
「?」
シホはよくわかってないようで、ニコニコしながらこちらを見ている。うぅう、なんだかいたたまれない。
「あら?サッちゃんもうかうかしてられないんじゃない?」
ニヤニヤしながらミスミさんがサチを見る。
「な、なにいってんの!ミスミ!」
サチか顔が心なしか赤い。と、そうだ
「それよりまた武具を作ってもらいたいんです」
僕は話題を切り替え、本題に入ることにした。
「これなんですけど…」
僕は入手した素材を見せる。
「これは…またすごいものをもってきたねぇ。水星のレアモンスターの素材かい?」
「はい、これで僕の剣とサチの剣のカスタム、ローブの新調をしてほしいんです。シホはどうする?」
そういえば僕とサチは武具を作る目的があったけどシホは何であそこにいたんだろう。まあ強いモンスターと戦うのもゲームの目的にはなりえるけど…。
「えっと、わたしは今のところ武具は十分です」
「そうかい、じゃあユキヤとサチの分ね」
ミスミさんはそういうと素材を受け取り工房のほうへ移動していった。
さて素材の鑑定と作成可能武具の特定まで、僕たちは店にあるテーブルで待つことにした。武具の作成といっても自分でやる場合はともかく、鍛冶屋ではいくつか手順を踏む。
まず素材アイテムのレア度や素材としてのレベルを特定する“鑑定”をして、それから鍛冶スキルに見合った作成可能武器を調べリスト化する。鍛冶スキルと素材のレベルが高ければより強い武具を作成できるが、値段や必要素材の数が異なるため鍛冶屋がいくつかのプランをリストにするわけだ。客はそれを基に作成武器を決め、その後やっと鍛冶の作業に入るというわけだ。
ちなみに作成する武具は作成者が命名することができる。
僕は待ち時間を利用してシホに聞いてみたかったことを聞くことにした。
「ちょっといいかな。シホさ、水星で潜水艇使わずに海に潜ってなかった?」
「何を聞くかと思ったらそれ?」
サチが横槍を入れてくるが、まあ気になってしまうのだからしょうがないじゃないか、とシホの答えを待つ。
「えっと、見てた、ですか?照れちゃいます…」
別に照れることではないと思うが…
「相当潜水スキル鍛えてるんだね。神殿まで泳いでいったってこと?」
「えっと、そうですよ?泳ぐの好きなんです」
なるほど。まあそのあたりのやり方は自由だよな…。
「そんなことより、シホも魔法と剣、両方使ってたけど、私と同じ剣装魔術師?」
「いえ、わたしは聖剣士です。魔法は回復系とちょっとした光属性のだけ使えるです」
「聖剣士!?なかなかめずらしい…というかはじめてみたよそのロール」
僕は驚きの声をあげた。
そもそもロールというのははじめからすべての種類を選択できるわけではない。たとえば僕の軽装剣士は剣士と盗賊のロールレベルをそれぞれ10まであげることで選択できる。サチの剣装魔術師は剣士を10レベル、魔術師を25レベルに上げたうえでソードタリスマンという特殊なアイテムが必要である等、ロールもその選択条件もさまざまで、サービス開始から数ヶ月が経ったいまでも、未知のロールがまだまだあるといわれている。
聖剣士も攻略サイトにあがっていない未知のロールのひとつだった。もっとも、こういうゲームでは情報がなかなかの価値を持つため、基本的なこと意外はあまり攻略サイトも当てにならないようだが。
ともあれシホのロールが珍しいものであるのは、この数ヶ月AWOをプレイした僕たちが初見であることから明らかだった。
「ところで、シホは何のためにあのモンスターと?」
サチが聞く。確かにそれは気になった。そもそもNPCであるシホが単身でモンスターと戦うというのも珍しいことなのだ。
「…わたしは、この世界のすべてを見るのが夢なのです。それで次の星に行くために、水星のレアモンスターを探してたですよ」
「次の星?水星はそれより内側に星がないからいける星増えないんじゃ?」
これはこのAWOプレイヤーの中では常識だった。水星を拠点にしている知り合いからもそんな話聞いたことがない。
「…?あるですよ?AnotherNEPTUNEが…」
「NEPTUNE…海王星?そんなのAWOにあるって聞いたことない…」
とそのとき、作成可能武器のリスト化が終わったのかミスミさんが工房のほうから戻ってきた。
「おーい、これきびしいぞ~」
「…?ミスミさん、なにがです?いい武具作れないんですか?」
素材は結構レアなものだし、鱗と鉱石は武具作成素材としては一般的なアイテムだ。結構いい物が作れると思っていたんだが…。
「いや、作れる武具はかなり能力の高いものだ。しかしなぁ」
「何か問題が?」
サチが聞き返す。
「普通には打てないんだよこの『ネプチューンの鱗』は」
「?」
僕たちがよくわからないという顔をすると、ミスミさんは
「この素材なんだが、レア度が高すぎて、『聖なる炎』がないと打てないんだ。鍛冶屋の中じゃあ有名なレアアイテムなんだが…知ってるか?」
「聖なる炎…ですか」
「あたしが知ってる中じゃあ聖なる炎を使って武具作成したことあるやつなんて、トップクラスのギルドお抱えの鍛冶師くらいなもんさ。普通に冒険してるうちにはこんな素材持ち込まれないからね」
!そんなにレアな素材だったのか…。でもそのせいで武具が作れないなんて、運がいいのか悪いのか…。
「聖なる炎ってありかはわかってるんですか?」
何とかならないかとミスミさんに尋ねる。
「…うわさでは火星のレアモンスターが持ってるらしい。いかんせん入手できたやつが少なすぎてな。そもそも普通の武具作成に入らないわけだし、情報がいまいち正確に入ってこないんだ」
「火星かぁ。できれば水属性武器作ってから行きたいとこね」
サチがいう。もちろん同感だ。そこで僕はこう提案した。
「あ、じゃあアクアライト鉱石のほうでまず武器だけ作ってもらえません?」
「…ああ、確かにそれだけでも今より強い武器は作れるな」
もともとうろこのほうは防具用に考えてたし、いいよね、とサチのほうを見る。
「いいんじゃない?それより聖なる炎のほうを何とかしないと…」
「うん、シホ、これから火星に行かないとなんだけど…いいかな」
ついついシホを置き去りに話を進めてしまったが、今は三人パーティなんだしシホの意向も確認しないとな。
「私もいきたいです。火星。さっき言ったとおりこの世界のいろいろみたいです!火星のレアモンスターですね、燃えます!」
僕たちはミスミさんに武器を頼んで店を後にした。火星に行くのはいいとして、『聖なる炎』の情報を集めないと。
「火星のレアモンスターって言うと、『炎神アグニ』が有名だけど…最強クラスのボスモンスターでまだ討伐成功した人いないよね確か」
「う~ん…トップギルドの鍛冶師に聞きにいくわけには…いかないわよね」
サチも僕も腕組みしながら考える。と、シホが言う。
「火星、行くですよ。そこで現地の人に話し聞くです」
まあそうだな、現地に行ったほうが情報も有りそうだし。
「武器はできたら連絡くれるようにしてあるし、じゃあ火星に行くか」
と、思ったのだが…
「…ごめん、そろそろ私、落ちるね。夕飯の時間だし」
落ちる、つまりログアウト。ゲーム中断だ。まあずっとゲームしているわけには行かないのは当然だ。
「おっと、もうそんな時間か、いつの間に夕暮れになってるな」
ここAnotherEARTHは現実世界の地球と同じように時間が進み、夜が来る。今日は休日だったので昼間からプレイしていたがさすがにそろそろか…。
「じゃあ僕も今日はここまでにしとこうかな」
「うん、じゃあねシホ」
「え、あっ」
シホは何か言おうとしていたがその前に僕たちはログアウトしてしまった。このとき僕は彼女がNPCであることなどすっかり忘れてしまっていたのだ。
現実世界では今日は土曜日だった。ご飯を食べ、風呂に入り、少し勉強もして寝る準備をする。
明日は日曜だ。今日もしっかり寝てまたAWOをしよう。そんなことを思いながら僕は眠りについた…。
次の日、昼過ぎ。メールアプリ『WorldLINK』、通称『LINK』でサチをAWOに誘った。この『LINK』というアプリはAWOとスマホを連動させることによって、パーティメンバー同士でリアルでもやり取りができるという便利なものだ。まあ正直こういうことでもないと僕には女の子の連絡先を聞く勇気はない。
サチからの返信は、少ししたらいくから先に入ってて、というものだった。早速僕はゲームを起動、ヘッドセットを装着してAWOにログインする。
目の前が闇に包まれ、その後だんだんと明るくなってくる。無事ログイン、と突然誰かに抱き疲れる感触があった。
「ユキヤぁあ!よかったのです!もう会えないかと思ったのです!」
それはシホだった。涙ながらに僕の体を強く抱きしめてくる。
僕はこのときやっと思い至ったのだ。シホはNPCで、僕やサチがいないときでもこの世界で『生きて』いる。他のゲームならともかく、人間と遜色がないNPCたちがいるAWO。ゲームとはいえNPC達にとってはこの世界こそが唯一の、リアルなのだ。
冒険者をしているシホは特に、だろう。単なる知り合いではなくパーティメンバーが突然いなくなってしまっては、どうしていいかもわからなかったに違いない。
そんなことも考えずに、シホの話も聞かずに落ちてしまったことを激しく後悔した。
「…ごめん、シホ。君のことを考えずにログアウトしたりして。」
気づくと僕も泣きそうになっていた。
「…わたし、これまで、ずっと…ひとり…でした。だから…ユキヤ達がいなくても大丈夫だと思った、です…。でもだめでした。すごく、悲しい気持ちになったです。きのう一緒に、戦うまではぜんぜん、こんなこと感じたことなかったのに」
「うん、うん、ごめんよ」
僕達はしばらくそうして抱き合っていた。と、
「どうしたの、あんた達」
サチがインしてきた。
「えっと、ここじゃ人目がすごいし、家、行こうか」
「そっか、ごめん」
サチに促され、拠点の町『アスト』にある僕達の家にきた後、事の顛末を話すとサチはそういってシホに謝った。
「でも、どうしようか。さすがにずっとインしてる訳に行かないし、もうすぐ夏休みとはいえ、まだしばらく学校もあって平日は少ししかできないわよ?」
「うん、何か考えないと」
とは言うものの、いい考えなどすぐには浮かばない。
「ところで、私達と会う前は、つまり一昨日までは、誰かとパーティ組んだりは?」
「…してないです。ユキヤ達が初めて、です」
「そっか、初めてできた仲間が、いなくなっちゃったらそれはさびしいわよね…」
サチの表情が曇る。
「…そうです。シホは、さびしかったのです…」
シホは自分の気持ちを確かめるようにつぶやいた。と、そうだ
「LINKは?」
「ん?アプリのこと?」
僕の提案にサチが聞き返してくる。友達とつながるならやっぱりスマホじゃないか。現代っ子は。
「そう、LINKならAWO内から外のパーティメンバーにメッセージを送れるじゃないか」
「なるほど。でもそれってシホも使えるのかな…」
確かに。NPCとやり取りしてる人っているんだろうか。そもそもLINKを起動できるのかな。プレイヤーならスマホを持っていない人からでもパーティメンバーにメッセージを送ることはできるが…。
「シホ、この画面出せる?」
そういって僕は軽く手を振るとメニュー画面を立ち上げる。これにLINKメニューがある。というか、アイテムの管理等にも必要なわけで冒険者ができていたシホなら…
「こう、ですか?」
シホは慣れない手つきでメニュー画面を立ち上げた。よかった、やっぱりシホにもできるんだ。さすがAWO。でもかなりぎこちなかったな。冒険者やってて使ったことないなんてこと、ないよな。まあそれは今は良いか。
「そうそう。で、ここをタッチして…これでよし」
僕はシホのLINKの設定をして僕とサチを登録した。
「これで僕達がログアウトしても会話したり、予定を話し合ったりできる。さっきも言ったけどさすがにずっとこの世界にいるわけにはいかなくて、とりあえずこれで、我慢してくれないかな?」
シホはしばらくLINKの画面を見ていたが、
「…はい、これでずっと一緒、ですね」
うれしそうにそう言って微笑んだ。なんだかその笑顔に僕は少し悲しいような、照れくさいような、うれしいような複雑な感情を覚えた。
シホとメールできるのは良いけど、結局、こちらの都合に合わせさせてしまったような、そんな感じがするせいかもしれない。
ついでに僕達の家の住人として、シホを登録した。これをすることで、シホは一人でもこの家に入れるし、アイテムの保管なんかもできる。HP回復のために休むのにもちょうどいいはずだ。
この世界では、HPやMPは回復アイテムや魔法を使う以外に、時間経過による自動回復ができる。自動回復はログアウトしていてもリアルタイムで進行するため、たいていのプレイヤーは、モンスターと戦い傷ついた後、ログアウトしてHPMPが回復するまで別のこと(もちろん学校、会社や食事等も含まれる)をして、またインするというプレイスタイルをとっていた。
シホにはログアウトがないので、回復時間をつぶすのにこの家で休めれば、と思ったのだ。
「いろいろありがとうです。…これからもよろしく、です」
僕達は気を取り直し、ゲームを楽しむことにした。
~AnotherMARS~
スターゲートを通り、僕たちは火星に来ていた。遠くに見える山々が赤く燃えている。この星の特徴はやはり熱気だ。地面の土もなんとなく赤熱した鉄を思わせる色をしている。街の家々のカラーも赤を基調としており、ゲームとはいえすごく暑い感じがする。
「暑いね、やっぱりここは」
「イメージだけのはずなのにね」
僕たちは口々にそういった。そんな中シホは楽しそうに、
「早く行くですよ!」
情報収集しなくてはならないのにいきなりダンジョンに突撃しそうな勢いだ。
ちなみにここに来る前にミスミさんの所で完成した武器を受け取ってきた。僕にはアクアライト鉱石をたっぷりと使ったミスミさん謹製『流水剣・アクアライト』。今まで使っていた武器の1.2倍の攻撃力に下手な魔法より有効なレベルの水属性付与。
サチには今までの武器をアクアライト鉱石でカスタムした『フォースブレイド・アクア』。これで水魔法を使えば威力は2倍ほどにはなるだろう。さすがはミスミさん、といったところだ。
「よし、じゃあ早速情報集めだな!」
僕達は気合を入れなおし、情報収集を始めるのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
今回はいかがでしたでしょうか。
バトルがなかったので物足りなかったかな、なんて思ったりもしますが、まあこの題材で必要な内容を書けたのでは、と思っております。
次回は火星を探検(の予定)です。
またよろしくお願いします!