第1話 AnotherWorldOnline
はじめましてかどうかはわかりませんが、Noziの作品にアクセスありがとうございます。
最近流行のVRMMOモノを書いてみました。
よろしくお願いいたします。
AnotherWorldOnline。
AWOは今はやりのいわゆるVRMMOだ。
ただ、他と違うことがひとつある。それは…
このゲーム、AWOを始めて数ヶ月、今日も相方とクエストに行くために待ち合わせ。時間までは後10分程度か。僕は適当にベンチに座って待つことにした。
初めてのVRMMO。最初は戸惑っていたが…
「えっと回復アイテムはそろってるよな…金もたまってきたしそろそろ新しい装備を考えるか」
サービス開始からこつこつとインしてきたおかげでトッププレイヤーとはいえないまでも、そこそこのクエストならば相方と二人で十分こなせるレベルにはなっていた。
ギルドに入らず強力なモンスターを狩る二人組みがいると、巷では少し有名人だったりもする。
現在のロール(キャラクタータイプのようなもの)は軽装剣士。大剣や重装備の鎧を装備できない代わりにすばやさが高めのロールだ。いろいろと試した結果僕にはこれがあっているようだった。
とりとめもなくそんなことを考えていたら、
「おいっす」
聞き覚えがある声に顔を上げる。そこには長い黒髪を後ろで束ねた女の子の顔が僕をのぞきこんでいた。
(…いつ見てもかわいいな)
などと思ったがまあ口には出さず、よう、と応じる。
この娘が相方のサチ。ロールは剣装魔術師。魔術師なのに剣を装備できるという上級ロール。魔法による攻撃、回復、さらに剣による近接攻撃も可能だが致命的に防御が低くあえて選ぶ人はあまりいないという、ある意味レアなロールだ。
装備は魔法を付与できるタイプの剣と白と赤を基調としたローブ。魔法宝石の装飾品をつけている。
この娘はAWOを始めてすぐのころ、何をしていいかわからずいた僕に何故か声をかけてくれてから、僕と二人パーティでクエストをこなしてきた。
聞くとサチはβ版からのプレイヤーでそのときの知識を人に自慢したかったとか何とか。まあ理由はどうあれ気の合う、そしてかわいいこの娘とゲームができていることは僕にとって大変うれしいことであった。
ちなみに世のMMOには外見を自由に変えられるものとある程度リアルが反映されるものとの2種があるが、このAWOは後者である。
すなわちこの美少女はマジで美少女なのだ。なんと言う勝ち組!これまで女の子と縁のなかった僕の人生も彼女に出会うためだったと考えればすべてを肯定できるというものではないか!?
「…どうしたの?にやけて。キモチワルイ」
サチは冗談めかしてそう言い、微笑んだ。
「や、何でも。えっとじゃあ今日はどこに行こうか。」
このAWOはいくつかの星で構成されている。また、その星ごとにも複数の町やダンジョンがあり特定のボスモンスターを討伐するか、それと同等の功績(主にアイテムの納品)を上げていけばいける町やダンジョン、星が増えていくという仕組みになっている。
ただ、星ごとの最強のモンスターを倒さなければ別の星にいけないというわけではなく、結構早めに複数の星にいけるようになるので、プレイヤーは各々にあった星に移住してそこでの生活を楽しんでいた。
僕とサチも最初のころはいける星を増やすことを楽しみにプレーしていたが、今は最初の星、AnotherEARTHの最強モンスターを討伐することを目標に日々レベルアップにいそしんでいる。
「そうね、今日は武具の材料を集めに行きましょ」
今の武具よりもいい物を作るとなるとあまり良質な鉱物の取れないこの星よりはAnotherMARSに行ったほうがいいか。
このゲームの世界、AnotherWorldはリアル世界の太陽系を模して作られている。水星、金星、地球、火星、木星、土星に対応する星があり、それぞれに異なる風土を持っている。模しているといっても星々の環境はリアルとはまったく異なり、それぞれの星にさまざまな種族の人間、モンスターが生息している。
たとえば水星に対応するAnotherMERCURYは九割が海の水棲生物の楽園のような星だったり、火星に対応するAnotherMARSは多くの火山が存在する火の星だ。住んでいる種族は褐色の肌と動物っぽい耳を持っていて一部のプレイヤーには特に人気のある星だったりする。
取れるアイテムも基本的なもの以外はほとんど異なるため、アイテム収集する場合は目的に応じてそれぞれの星に行くが基本だ。
ちなみに各星の名前は英語名にAnotherがついたものであるが、プレイヤー間では単に「火星」や、「水星」と呼ばれる。
「じゃあ火星いこうか。確か良い鉱物が取れる火山があるよね」
「う~ん確かにそこそこいいのが取れるけど…今以上を考えるなら水星の海底神殿か金星の奥地の方がいいかも。鉱物より魔法金属とか、あと私はローブの材料がほしいし」
なるほど確かに僕たちの武具を考えたら鉱物よりそっちのほうがいいか。
「…じゃあ水星がいいかな。海底神殿面白そうだし」
「OK。潜水スキルは育ってるよね。私の魔法もあるし、まあ問題ないか」
このゲームではロールごとの固有スキルと全ロール共通の基本スキルがあり、それぞれ何らかの行動をすることで少しずつ育っていくようになっている。
潜水スキルはその名のとおり水にもぐれるスキルで高いほど深く長くもぐれるようになる。AnotherMERCURYはほぼ水の星なので、探索には潜水スキルか魔法でのサポートがほぼ必須である。
行き先が決まったところで、星間ワープゾーン『スターゲート』へと歩を進める。
「しかし…」
道中サチがいつものことを口にする。
「やっぱりこのAWOはNPCとPCの見分けがつかないわね」
そうなのだ。このAWO、システムこそ他のVRMMOと大差がないとの評価だが、NPCの自由度、というか、人間らしさのようなものは群を抜いていた。
たとえば、
「あ!さっちん、おはよ。今日はどこ行くの?」
「おはよミミコ。今日は水星でアイテム採取かな」
と、今話しかけてきたミミコはNPCなのだ。一般的にNPCといえば基本的なアイテム屋やチュートリアル、クエストの情報をくれる等さまざまな役割はあれど基本的にはあちらからは話しかけてはこない。が、このAWOでは普通に話しかけてくる上に、知り合いになって仲良くなればあだ名で呼んでくるほどだった。
このためNPCと話すためだけにプレイする者もおり、そういう人たちの間ではVRギャルゲと呼ばれているとかいないとか。ま、僕にはサチがいるわけでそうはならないけどね☆
「このシステム、楽しいけどどうしてこういう風に作ったんだろうね」
ミミコと二言三言会話し分かれた後サチが言った。
「さぁ?ほかのゲームとの差別化じゃない?」
ちなみにぱっとみ見分けがつかないPCとNPCを見分ける方法は、たとえばマップを出してアイコンの色(PCは青、NPCは緑、敵は赤)を確認するなどがある。
僕が毎度のようにそう答えたところでスターゲートがある広場についた。このAWOで星間移動はロケットではなく『スターゲート』と呼ばれるワープゾーンを通るだけである。
スターゲートのある広場、通称スターゲート広場はこれから旅立つ冒険者たちでいつもにぎわっていた。いつものように僕たち二人は周りのパーティに声をかけられる。
「お二人さん、たまにはうちらとパーティ組まない?」
「私たちのギルドに来てくれたら即副団長待遇よ?」
くちぐちにいう彼ら、彼女らをあしらって、僕たちは行き先を指定しスターゲートをくぐる。
視界が光に包まれたと思った次の瞬間には、僕たちは水星のスターゲート広場にいた。
~AnotherMERUCURY~
表面積の九割が海、大陸はひとつのみ存在しており、スターゲートがある町『ユーヌ』はここにある。
AWOではAnotherEARTHに近い惑星から順に開放されていくため、AnotherSolarSystem(太陽系)の最も内側にあるAnotherMERCURYは各星を開放するだけが目的ならば放置しても問題ない。
潜水スキルを育てなければ攻略できないこの星は後回しにするプレイヤーが多く、あえて拠点にここを選ぶもの以外に冒険者の姿はほぼ見られない。
が、海底都市や海底神殿に到達した人々はその独特の雰囲気に魅了され、結構な割合でこの星を拠点にするという話だ。
AWOには拠点システムというものがありゲーム再開時に戻ってくる場所となるだけでなく、拠点として決めた町でのみ家を持つことができる仕組みとなっている。
「さて、じゃあ早速海底神殿に向かおうか」
僕が言うと、
「その前にさ、ちょっとあそこいこうよ!」
水星にはたまにしか来ないが、来た時にはいつものように行く場所がそういえばあった。
僕たちは早速町外れへと向かう。
物の数分で目的地に着く。そこは島の端、港を模したこの町にある白い灯台であった。灯台はあまり高くないが(普通の建物の五階くらいか)、この町では最も高い建物であった。
壁にはツタが張り付いておりそこそこの古さを演出している。正直この灯台にはめぼしいものがないためここまで足を運ぶ人は少ない。
僕たちは階段を上り最上階を目指した。
「やっぱりいい眺めね~」
最上階に着くとサチは窓から身を乗り出し外の景色に感嘆の声を漏らす。
この星は唯一のこの大陸以外すべて海。すなわちここからはほぼ360℃の水平線が見れるというわけだ。ゲームの中の世界とはいえなかなかの壮観なのである。これだけでもこの灯台に来る価値はあるというものだ。
この高さでは周りにさえぎるものがなく、多少強めの風が吹きサチの長い髪をなでていく。さすがにスカートはめくれたりしないが、その姿はとてもさわやかで僕としては外の風景並みに好きな光景であることは僕だけの秘密だ。
「どうしたの?私の顔になんかついてる?」
ふと見入っているとサチがこちらを見返してくる。
「いや、いい風だね」
「うん。…さて、そろそろ行こうか」
サチに促され灯台を降りる。僕はなんとなく、また来たいなと、ここに来る度に思うことだが、今回もそう思ったのだった。
さて、大切なのは目的を忘れないことだ。今回水星に来たのは今後の装備の材料を入手するため。そのために海底神殿に挑まなくてはいけない。
「海底神殿って言ってもいくつか行けるけど…素材だとやっぱりマーキュリウス聖堂跡の水龍リヴァイアサンの鱗かな。」
水星でいい素材をドロップするボスモンスターとしてはやはりリヴァイアサンが有名だ。その鱗は武器の素材にすれば強力な水属性が防具の素材にすれば火と水の耐性がつくという。ただしとても強力なためゲットできたものはごく少数。レア中のレアアイテムであり効果のほども実際確かめた人がいるの甲斐ないのか定かではないほどである。
「さすがにまだ二人では無理だと思う…。この星最強クラスのモンスターだし。それより今回は海神の神殿にいってアクアライト鉱石を採取しましょう。地球最強ボスのグランドドラゴンと戦うのに火耐性は必須だし」
海神の神殿。水星に住む種族“メルリス”達の聖地だが、祭壇がある大広間以外ダンジョンとなっており、最奥には強力なモンスターとレアなアイテムがあるといわれている水星の中でも難易度高めの場所だ。中級以上のプレイヤーでも5~6人で攻略する場所である。
「二人だけでいけるかな」
「難しいダンジョンだけどリヴァイアサンほどの強敵はいないしたぶんいけると思う」
僕たちはまず海底都市『ディア』へ向かう。
海神の神殿に行くには先ず『ディア』に行き、そこから『導きの洞窟』を抜けるルートが一般的である。別の方法としては海を泳いで神殿がある座標まで行き、海底まで潜るというものもあるが、潜水スキルが相当高くなければ難しい。
『ディア』へは潜水スキルなしで行けるようにユーヌから潜水艇がでているので難なく行ける。この潜水艇から見る海中がまたなかなかに壮観なのだった。AnotherSUNに照らされゆらめく光、大小さまざまな水棲生物たち、そして冒険者…。
「ん!?」
僕は一瞬目を疑い、さっき見えたものに目を凝らした。…いない、確かに海中を進む冒険者の姿が見えた気がしたのだが。
「どうしたの?」
サチが聞いてくるので、
「いや今泳いでる人が見えたような…」
「“メルリス”たちじゃないの?」
「そうかもだけど…剣と鎧を身に着けてたから冒険者だと思うんだよなぁ」
「さすがに泳いで海底探索するような人はいないんじゃない?ろくにアイテムもないみたいだし、どこかのダンジョンに向かうにしろ『導きの洞窟』を抜けるほうが迷わないと思うし」
確かにサチの言うとおりだ、僕の見間違いだったのだろう。そんなやり取りをしていたら『ディア』に到着していた。
僕たちはここでダンジョン攻略のための最終準備をし、いざ『導きの洞窟』へ向かう。この先で運命の出会いをするなどとは今の僕には知る由もなかった。
『導きの洞窟』は潜水スキルが必要になる海底洞窟だ。洞窟は二~三人が並んで歩ける程度の道幅があった。道はそれほど複雑ではないがここから海底のあらゆるダンジョンにつながっているらしく、万一道を間違うと目的とはまったく違うレベルの場所へ出てしまうため用心が必要である。
また、潜水スキルであるが、これが高ければ高いほどノーリスクで海中を行軍できる。潜水スキルが低い状態で水中を進もうとした場合、スキルの限界を超えた距離から以降はゲームでよくある『酸素ゲージ』を消費することになってしまう。もしこれがゼロになった場合は死んでしまい、強制的にベース地点へ戻されてしまうのだ。このこともあり、水中をむやみに進むというのはよっぽどでない限り不可能である。
基本的には自分の潜水スキルに見合ったダンジョンを探索することとなるが、僕たちのスキルは、サチの魔法による援護も含めれば、海神の神殿に到達するに十分であった。
「この洞窟には何度か来たけど、海神の洞窟は初めてだよ。情報は検索してある程度知ってはいるけど」
海神の洞窟への道を進みながら僕が言うと、
「私もだなぁ、ベータの時には水星なかったしね。まあ初めてのダンジョンってのも面白いじゃない?虎穴にいらずんば虎子を得ずって言うし」
サチが楽しそうに笑う。
「うん、まあサチとなら不安はないけど、強力なモンスターもいるって言うしがんばらなくっちゃ」
むんっと気合を入れてみせる。と脇から海蛇タイプの雑魚モンスターが飛び出してきた。
「いくよ!」
サチは言うが早いか剣を抜き放ちモンスターを切り捨てる。
「さすがの早業。剣士の僕の出番が無いや」
「ま、強敵が出るまではさくさく行きましょ」
この後も雑魚モンスターと何度か戦いながら、僕たちは難なく海神の神殿の前まで到達した。“メルリス”たちが通えるということもありこの道の難易度は低めのようだ。まあここからが本番かな。
「早速入ってみましょうか」
サチが巨大な扉を前に言う。
「一応僕が先に入るよ。何かあっても僕のほうが多少は打たれ強いし」
僕は目の前の扉を押し開ける。ゴゴゴ…と音を立て扉が開く。その先には巨大な祭壇の間があった。
「すごい…」
サチがつぶやく。パイプオルガンのように巨大な祭壇。中央にはおそらく海神ポセイドンと思しき像、その周囲は緻密な装飾が施されており、見るものを圧倒した。
僕たちはその祭壇をしばらく堪能した後、奥にあるダンジョンへと進むことにした。
「人がぜんぜんいないね」
僕は周りを見渡しながら言う。僕ら以外は数人の“メルリス”(すべてNPCのようだ)しかいなかった。
「まあ、来なきゃ行けない場所でもないし、潜水スキルも必要だし敬遠されがちなのかも。でもあの祭壇だけでも見る価値あるわね。」
言いながら祭壇の裏へ回る。そこには入り口の扉よりかなり小さい、人一人がやっと通れるほどの扉があった。
「ここから先がダンジョン?」
僕が尋ねる。
「情報ではそうらしいわ。気を引き締めていきましょ」
また僕が先導して扉を開ける。扉の奥は扉の小ささに反して『導きの洞窟』より道幅が広めの洞窟になっていた。壁面には一面に青く発光する宝石のようなものが散らばっていた。
「この宝石みたいなのって何かに使えないかな」
欲を出して僕が言うと、
「さすがに小さすぎね。ダンジョンの照明にはなっているようだけど。」
壁面がきらきらと輝く洞窟。なんとなくレアアイテムがありそうな予感がした。と、そんなことを考えていたとき。
ズズ…ン
と洞窟の奥のほうで地響きがした。何事かと二人で目を見合わせる。
「先客かしら、いってみよう」
サチが音のしたほうに駆け出す。僕も続く。
途中モンスターの気配が無いではなかったが、音の正体が気になるので一気に最奥に駆ける。
行き着いたところは行き止まり…の横に小さく、隠し通路だろうか、穴が開いていた。再度地響きが、穴の向こうから聞こえる。
僕はそっと穴を覗き込んだ。そこには祭壇の間と同じくらいの空間があり、巨大な蛇のモンスターとそれに対峙する女剣士の姿があった。
僕はあっと思った。女剣士は潜水艇から見えた冒険者と同じ格好をしていたのだ。
「あの人かもしれない」
僕はサチにそのことを説明した。
「じゃああの人はここまで泳いできたってこと?そんなに潜水スキル高い人なんて見たこと無い…」
話しているうちも戦闘は続いている。海中に浮く大蛇の尻尾が彼女に向かって振り下ろされ、彼女は間一髪それをかわし斬撃を加える。
ごぉぉおぉお!
魔物がほえるが、彼女は怯まずそれに立ち向かう。
「どうする、ソロプレイヤーなら邪魔しちゃ悪いかな…。でもあのモンスター、おそらくレアモンスターのネプチューン…一人じゃさすがに厳しいかも」
サチがそういったとき、僕はあることに気づいた。
「あの娘…NPC?」
「えっ?」
サチが聞き返す。マップに目をやると確かに彼女のアイコンは緑色に点滅していた。
「レアモンスターと戦うNPCなんて、さすがにAWOでもきいたことない…!」
サチが驚きの表情を浮かべる。
「きゃっ」
彼女の悲鳴が響く。どうやらネプチューンの尻尾攻撃がヒットしてしまったらしい。彼女の体が跳ね飛ばされ僕らの目の前に転がってくる。
僕はとっさに彼女を守るように、彼女とモンスターの間に割って入っていた。
「大丈夫か!」
「へっ、あ、あなたは?」
「僕はユキヤ!さすがにあれを一人じゃ厳しい!手伝わせてくれないか」
つづいてサチも入ってくる。
「ちょ、ユキヤ!待って、私も!」
「…助けて、くれるですか?」
女の子が言う。
「…入るのが遅れてごめん。一緒にあいつを倒そう!」
僕が言うと、
「ありがとうございます!わたしはシホって言います!よろしくです!」
こうして僕たちは三人でレアモンスターと戦うことになった。
がぁ!!
ネプチューンが咆哮すると口から一直線に水流が巻き起こる。僕たちはそれをかわすと、僕とシホは左右から接近、モンスターの注意がサチに向かないように攻撃を繰り返す。時々来る尻尾も何とかかわす。
そのうちにサチの呪文の詠唱が終わる。
「空間を切り裂け!空裂斬!!」
サチが杖代わりの剣を振ると水を切り裂く真空波が生まれネプチューンの鱗をそぎ落とす!
「効いてるぞ!サチどんどん頼む!」
どうやらサチの魔法が有効そうなので剣士二人は引き続き陽動だ。その間にサチは魔法の詠唱をする。このままいけば何とかなるだろう。
何度かサチの魔法を叩き込み、そろそろ倒せるかと思ったところで突然、ネプチューンの目が赤く光った。
瞬間、僕とシホは前後不覚に陥る。その隙をネプチューンは見逃さなかった。シュバッと水流が一線、詠唱中で無防備なサチの体に直撃する。
「きゃあ!」
サチは跳ね飛ばされ背後の壁に叩きつけられてしまう。サチのHPは一気に八割ほど削られてしまっていた。
「サチ!」
僕があわてて駆け寄ろうとするが、そこを大蛇の尻尾が襲った。
「ぐわっ!」
攻勢転じて大ピンチだ。早く回復を…!と思うのだが、ネプチューンが放った光の影響が残っているのか、思うように体が動かない。
サチは気絶しているようで、自力での回復は望めないようだった。ここまでか…!
「まだです!解呪法!」
シホが僕に向けて淡い光を放つと、僕の体に自由が戻った!
「モンスターは私がひきつけます!そのうちに回復を!」
僕は何とかサチと自分に回復アイテムを使用することができ、戦況を立て直すことができた。サチも目を覚ましたようだ。
「シホ、ありがとう!もう大丈夫だから下がって!」
多少ダメージを受けてしまったシホの代わりに僕が前線でネプチューンをひきつける。その間にサチがとどめの呪文の準備に入った。
「ユキヤ!避けて!」
サチが叫ぶと同時に僕は脇に飛びのく。
「打ち貫け!閃光槍波!」
サチが剣を向けると、一閃の光がネプチューンを貫く。
ぐぉぉぉおおお。ネプチューンはうめくとまばゆい光となって消えた。
「ふう、何とかなったわね」
と安堵したのもつかの間、三人の前に今度は光る人影が現れた。
「まだ何かあるの!?」
サチと僕が身構える。
「…冒険者よ…我が名はポセイドン。海神ポセイドンなり。そなたらの功をたたえ我が証を授けよう」
ポセイドンと名乗る人影はそういうと、勲章のようなものを三人に授け消えていった。
「なん、でしょうねこれ」
シホが言った。レアアイテムのようだがステータス欄の使い道は不明となっていた。コレクターズアイテムだろうか。
「それは後で確認するとして、レアモンスターの素材は?」
サチが自分のアイテム欄を確認する。
「ネプチューンの鱗に、アクアライト原石!これを精製すれば武具を作るには十分ね!バッチリ目的達成~」
ふう、レアモンスター戦はひやひやしたが何とかなってよかった。…とそうだ。
「シホ、君は…」
「わたしも連れてってほしいです!」
僕が質問をするより早くシホが言った。
「…えっと」
僕はチラッとサチを見た。
「ううん、でもここまで二人でやってきたのよね…」
「だめ、ですか?」
シホが少しうつむく。
「…僕はいいと思うけど…」
気がつくと僕はそう言っていた。
「ユキヤ…うん、そうね、わかった。よろしくねシホ」
「やったです!これからよろしくです!」
こうしてずっと二人だった僕らのパーティにシホが加わることになったのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回の作品はいかがだったでしょうか。感想などいただけたらとてもうれしいです。
次の更新は正直いつになるかわかりませんが、続きは書いていきたいと考えておりますので機会がありましたらよろしくお願いいたします。