6 お勉強
「なあ、これが何かわかるか?」
『エトリーズ』に向かって3日目。歩き疲れて休憩している時、私は目の前に差し出された沢山ある小さくて丸い物を見た。
「分からないです・・・なんだろう?」
「やっぱり分からないか・・・。」
ぐぬぬ・・・なんだかそういう風に言われると悔しいです。
「これらは硬貨といって、物を買うためのお金だ。」
「なるほど、これがお金ですか。」
私は、本で得られた知識があり、お金の概念は理解していたのですが、文章で済まされることが多々あるので、どうしても理解できていない部分が出来てしまいます。こういった風に実物を見ながら理解していく必要もあるでしょう。
ウルフ君はその中にあった4つの硬貨を指で挟めて説明を始めた。
「この世界で使われるお金は大陸のほとんどが統一の硬貨が用いられている。
一番価値が最小のお金はこの『銅貨』と言われる硬貨。」
「銅貨1枚で何が買えるんですか?」
「銅貨1枚でそこにある『アプル』を1個買うことが出来るほどの価値だ。」
アプルとは甘くておいしい果実で、今私にとってお気に入りの食べ物です。
「順番に説明していくと、こっちの硬貨が『四半銀貨』これ1枚で銅貨25枚の価値がある。
次に価値が大きいお金はこの『銀貨』と言われる硬貨。銀貨1枚で銅貨100枚、四半銀貨4枚に相当する。
もう一つの硬貨は『四半金貨』。四半金貨1枚で銀貨25枚に相当する。
今は手元にないが、さらに価値が大きいお金は『金貨』と言われる硬貨。金貨1枚で銀貨100枚、四半金貨4枚に相当する。
『藍貨』と言われる硬貨も存在するが、その硬貨は1枚で金貨100枚に相当し、滅多に見られることはなく首都のような大都市くらいでしか使われない。」
「なるほどなるほど・・・。」
「これを知っておけばお前が人の物を勝手に持って行って、盗人扱いされずに済むな。」
「なっ!そんな悪いこと絶対しませんよ!」
そういうと、ウルフ君は何かを思い出したみたいで俯いてしまった。どうしたんでしょう。
「あ・・・あと、これから行く街のことについて話さないといけないな?」
頭を振り話題を変えるようにしてウルフ君は言った。
「お前通行証か身分証を持ってないか?」
「通行証?身分証?」
「ああ、箱生まれだから分からないか・・・。」
「生まれじゃなくて育ちです!」
そこだけは確実に訂正し、切ってもらったアプルを思いっきり齧る。
「はいはい。・・・で、町に入るときはそれぞれ対応した通行証または身分証が必要なんだ。身分証は様々な場所にある『ギルド』で発行されるものだ。」
「ギルド?」
「ギルドは・・・まあ、様々な依頼の受け渡しを行うお役所と思ってくれ。そのギルドでの活躍、成果によってランクが定まり、上位になればなるほど行ける場所が増える。俺はまだ『冒険者ギルド』の中位だから、行ける場所が限られているが、一応『エトリーズ』の町には通ることができる。」
「通行証はお偉いさんによる推薦か、功績によって得られる。
そしてこちらの方が多いが、金を払って発行される仮の通行証もある。仮の通行証はそれなりにお金が掛かるし、使える期限が定められている。」
「仮の通行証はどれくらい掛かるんですか?」
「俺の記憶が正しければ、『エトリーズ』だと、銀貨5枚で期限は半年。『首都ルーブ』だと、四半金貨1枚で期限は3月かな。」
「ず・・ずいぶんとお高いんですね・・・。」
『エトリーズ』だとアプル500個分。『首都ルーブ』だと・・・アプル2500個!?しかも3月分で!払えるのでしょうか・・・?
「まあとりあえずの目標が『エトリーズ』なんだからあまり気にするな。お前の仮の通行証の代金位払ってやるから。」
「えっ、そんな・・・悪いです。」
「いいんだ必要経費だ・・・それともお前金持ってんのか?」
「う・・・無いです。」
「だろ?だから構わない、だけど代わりに今日の料理は多めにもらうぞ!」
申し訳なく思いつつも私はウルフ君の厚意に感謝しました。やっぱりとっても優しくて、友達になれてよかったと思います。だから一緒にいられる間、逆に私が少しでも彼の役に立ってみたい・・・そう考えました。
休憩が終わり出発して2日後の昼、無事に『エトリーズ』の町に到着し、私は仮の通行証で、ウルフ君は冒険者ギルドの身分証で入ることが出来ました。