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4   旅の始まり

「おいお前!」


 歩いていると目の前から男の子がやってきた。

 だいたいわたしより少し年下くらいだろうか?

 手にはナイフが持たれている。


「あっえっと・・・こんにちは!」


 私は人と話したことがなかったのでちょっと緊張しながら声をかけた。


「こんにちは・・・じゃねえ!お前これが見えないのか?」


 そういいながら男の子はナイフをぶんぶん振った。


「えっとー・・・ナイフですか?」

「そうだ!だから食い物を置いて行け!」


 言われたことがあまり理解できなかったので考えてみる。


(食べ物を置く・・・・・・はっ!もしかして!)


「も・・・もしかして、そのナイフで料理を作ってくれるんですか?」

「・・・はあ?」


 持ってきたものの中には、食料が入っていたがあくまで材料・・・すなわち自分で調理しなければならなかった。私は今まで箱の中では用意される調理された後の料理を食べていたため、自分で作ることができなかった。だから、その申し出はとても嬉しくありがたかった。


「あ、ありがとうーーーー!!」

「な・・・なっ!」


  嬉しさのあまりに、その男の子を思いっきり抱きしめた。


「お・・・おま・・・え・・・はなれ・・・」


  男の子は顔を真っ赤にしていたけど私は気にせず抱きしめ続けた。


「分かった作る・・・作るからーーー!」


 なぜなら、箱から出て初めて出会った人がとても親切であったことが嬉しかったから・・・。



 しばらくして離すと、へなへなと男の子が倒れてしまった。


「だ・・・大丈夫ですか!?い・・・痛かったですか?」


 もしかして、強く抱きしめたのがいけなかったのか不安になって聞いてみる


「う・・・うるせー・・・この・・くらい・・大丈夫に・・・決まってる」


 まだ顔が赤くなっているけど熱でもあるんでしょうか・・・


「お前・・・いったいなにもんだよ・・・」


 自己紹介がまだでした。えっと、名前はー・・・。


「私はヒカリと言います。」

「・・・そういうことじゃないんだが。」

「あっ、年はたぶん15才です。」

「たぶんって・・・。」


 感覚でそのくらいのような気がします。正確な事は分からないですが・・・。


「?・・・あの、あなたの名前は?」

「・・・ウルフだ、一応13。」


 やっぱり、年下だった。でも妙に大人びてるけど・・・。はっ、そうだ!


「・・・あのウルフ君・・・私とお友達になっていただけませんか?」


 とにかく、箱の中で考えていたことを伝えた。

 私は長い間一人で生活していた。だから、少しでも繋がりが欲しかった。


「唐突だな。しかもなんで、俺なんかと・・・。」

「だめ・・・ですか?」


 断られると思い泣きそうになる。


「だーーー分かった分かったから・・・友達になってやるから泣くな!!」

「ほ・・・ほんとですか?」


 嬉しい・・・やっぱりウルフ君は優しい人です。


「ウルフ君、これからよろしくお願いします!」


 こうして私は箱の外で初めてのお友達ができました。


ーーーーーーーーー


 ウルフ君は私の持ってきた食材を使ってスープを作ってくれた。


「なあ・・・そういえばお前はいったいどこから来たんだ?」


 目の前の焚火がゆらゆらと揺れる中、ウルフ君は私に問いかけた。


 私は思わず息をのむ。そういえば、箱の事を誰かに教えてもいいのでしょうか?

 なんとか生活できましたが、本来あれは、この世界の常識から大きく外れた存在なのでは?

 さんざん悩んだ結果、とりあえず信用に値する者にだけこの事実を伝えることにしました。

 当然目の前にいる初めて(重要)の友達は信用に値するのでありのまま話すことにしたのですが・・・。


「お前・・・頭でも打ったか?」


 バカにされたーーー。


「あ・・・あの!私は真面目に言ってるんですよ?」

「そんなこと言われたってそんな無茶苦茶なこと信じられるわけがないだろ。だいたいその箱とやらはどこにあるんだ?」

「えっと、だいたいこの近く・・・?」

「ほー、じゃあ俺をその箱とやらに連れて行ってもらおうじゃないか。」

「すみません、場所は分かりません。」


 だって、出たと思ったら気を失っていたんですから。


「はあーまあ別にどうだっていいや、俺は食い物にありつけたんだから・・・。」

「そういえばどうして料理を作ろうと思ったのですか?」

「はっ?・・・それはお前が言った・・・。」

「私が?」


 そう尋ねるとウルフ君はなんだか慌てたように手をワタワタさせた。


「あー・・・えっと・・・そう俺はとてもお腹が空いていて、料理を作る代わりに少し分けてもらおうと思ったからだ。」

「なるほど、お腹空いてたんですね。いっぱい食べても構わないですよ!」


 私は目の前にある鍋の中のスープを食べるように勧めた。


「この辺りに村とか街とかないのですか?食べ物に困っていたという事はそれまでに人里に行けなかったという事ですよね。

 それから、この辺に実とか動物とかあるのなら飢える心配はないんじゃ・・・?」


 いくつかの疑問が浮かんだので聞いてみた。


「まず、周辺の町に関してだが、この森を南に数日ほど歩いた先に『エトリーズ』という町がある。俺は元々そこからここまで来た。だが、この森はどうやらかなり広いみたいだ。進んでも進んでも村らしきものがなくただ木々が存在するだけだ。

 また、この辺の食い物だが、確かに実がなっているが、この辺の実を食べて死んじまった者がいるらしいから下手に食べることが出来ないし、なぜか動物も生息していない。

 まったく不思議なもんだよ・・・挙句の果てに常識外れの女がいるなんてな?」

「ひ・・・ひどい言い方ですね、まったく!また思いっきり抱き締めますよ!いいんですか?」

「か・・・勘弁してくれ、あれ結構恥ずかしいし・・・ごにょごにょ。」


 これでまたひどいことをいったら脅しに使いましょう。

 でも、そこまで拒絶することもないのに・・・ちょっと寂しいです。


「俺はこの森には宝を見つけようとして来たんだ。」

「宝ですか?」

「ああ、この森には『ピース』といわれる宝玉の欠片・・・とても高価な宝があると聞いた。多くの冒険者がここに来たそうだが、何も見つかってないそうだ。しかも一部の冒険者が命を落としたか行方不明になったそうだ。」

「怖いですね・・・。」


 本当に怖い話を聞いてしまった。今日の夜は眠れないかもしれない。


「俺は、そんな森の中にいたお前の方がよっぽど怖いよ。」

「またそんなこと言って・・・抱きしめの刑です!!」

「ぐわーー・・・は・・・はな・・・せーーー!!」


 私はウルフ君を抱きしめながら思った。冒険者が命を落とす・・・すなわち今目の前にいるウルフ君が命を落とす可能性もあるということ。私はそんな事実を知り怖くなり、今感じる温もりを手放したくなくて・・・より強く抱きしめた。

 ふと顔をあげると、ウルフ君はまた顔を真っ赤にしてぼうっとしていた。



「はっ!そうだ、これからの事!!」


 少し時間が経ちウルフ君は復活してそう言った。

 確かにそうだ。私も手紙の場所に向かわなければいけない。


「俺はこのまま『エトリーズ』の町に戻るつもりだ。」

「私は・・・。」


 ウルフ君は迷惑に思うかもしれない。でも、やっぱり一緒について来て欲しかった。


「・・・私は手がかりを掴むためにも『コンサル大陸首都ルーブ』というところに行かないといけない・・・だから出来れば・・・出来る限り近いところまで連れて行ってほしい・・・です。私はつい最近まで箱の中にいて分からないことだらけ・・・だから。」


 断れるのを覚悟でお願いした。私は箱の中でいつも一人だった。寂しかった。不安だった。でも、彼のおかげで短い間だったけど、とても楽しい時を過ごせた。

 だから、もう少しだけでも長く彼について行きたい。ついて来て欲しかった。そうすれば、もっと楽しく過ごせる。完全に私のわがまま。だから、彼が断わっても文句は言えない・・・でも・・・。


「なに悲しい顔してるんだよ・・・らしくない。」

「えっ・・・」


 気がつくと私は涙を流していて、ウルフ君がそれを指で掬っていた。


「さっきまでの積極的なスキンシップの時見たくバシッとお願いすりゃあいいじゃねえか?」

「だって迷惑じゃ・・・。」


 そういうとウルフ君は照れながらも笑った。


「今さらそんなことで悩んでんじゃねえ、それに依頼料も頂くからな。」

「依頼料?」


 私はお金は一切持っておらず依頼料と言われても払えない。


「もちろん金じゃなく・・・食い物だ。」

「食べ物?」

「そう!お前の荷物には食べ物があるだろ?だから、それを調理してやるからさっきみたいに料理を俺にも食わせろ。そしたら、お前の言う『首都ルーブ』にも護衛としてついて行ってやる。どうせ、ここがどこかすらわからないんだろ?当然道案内もしてやる・・・どうだ悪くない契約だろ?」

「そんなことで・・・。」

「いーや、俺にとっては結構死活問題なんだ・・・食料に関しては。体質上普通の人間より多く食わなくちゃいけないんだよ。お前の持ってるその入れ物は『アイテムボックス』だよな?たくさんの物を収納できるといわれている貴重な道具。その中にたくさんの食料が入っているんだろ?」

「う・・・うん。」


 箱の中で飢えることがなく過ごすことが出来た理由。それは、このアイテムボックスでした。中には食料が大量に入っている。私が閉じ込められていた時はそこから食材を取り出し別の指定の箱に入れて放置することによりそこから調理済みの料理が出てきていた。(仕組みは当然わからないです)


 アイテムボックスには不思議な特徴があり、まず大量の物を詰めることができ、またどんなに詰めてもアイテムボックス自体の重さは変わらないという事。そして、中に入れたものの時間を止める・・・すなわち、腐らないということです。

 そのおかげで私は10年間という長い年月を過ごすことが出来たのですが、中を見てみるとあれだけ消費したのにまだ食料が大量に残っていたのです。

 だから、ウルフ君に依頼料として払える分の量は確実にある・・・。はやる心を抑えて私は念のために聞き直した。


「依頼を受けてくれますか?」

「ああ。」


「迷惑じゃないですか?」

「ああ。」


「ウルフ君ありがとう!!」

「っ!!またか!!」


 私は嬉しくなって思いっきり抱きしめた。


 期間が少し延びただけかもしれない。だけど心強い・・・元気が湧いてくる。

 ウルフ君の顔を覗くと照れながらも少し笑っていて・・・頭を撫でてくれた。

 そのことにより、私はますます嬉しくなり抱きしめた腕を強めた。





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