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3   箱の中の記録

ーーーーーーーーーー


『295444630』(残り9年5月11ノ刻57分10秒)


 以前から扉の数字を写していた本に記録を残しておくことにしました。

 改めて状況整理もかねてここに記録をまとめていきたいと思います。


 私は四方真っ白な空間・・・箱の中に閉じ込められている・・・みたいです。ただし、他に人はいないし、中の空間はとても充実していました。


 真っ白な空間である内部は人が住めるようにいくつかの箱が置いています。

 食べ物が入った小さな箱(小さいのに大量に入っており、中の食材が腐らない。)、料理を作るための大きな箱(中に食材を入れると自動的に調理が行われ、料理が出てくる。)体を洗うための窪んだ箱(これもまた気づいた時には温かくてきれいなお湯が張ってある)、ふかふかのベットがくっついた細長い箱(いつも清潔でよく寝れる)・・・など他にもたくさんあり、とても充実しています。そのためおそらく死ぬことはないと思います。


 しかし、今はまだ出ることは叶わない。おそらく外へと出ることができる扉は正面にある大きな扉ただ一つだけであり、頑丈で開けることができないのです。


 その扉をよく見てみると、数字が光って映っています。

 今は『295444311』とでており、次の瞬間右端の数字が『0』となり、また次の瞬間右端の数字が『9』になると同時に右から2つ目の数字が『0』となりました。

 この数字は時が経つごとに減っていくみたいです。きっと全て『0』になった瞬間この扉になんらかの変化が起きるのでしょう・・・・・・。


 そういえば、以前読んだ本でこんなものがありました。


 本の題名『数字の本』

 --時間--

 ・1秒(一般的に使われる最小の単位)[この世界では使われない]

 ・1分[この世界では使われない]=60秒

 ・1ノ刻(この世界における最小の単位)=60分

 ・1日=24ノ刻

 ・1週=6日

 ・1月=5週=30日

 ・1年(一般的に使われる最大の単位)=12月=60周=360日


 本の中の[この世界では使われない]という記述が未だによく分かりませんが、おそらく壁に現れている数字は『秒』なのではないかと考えます。

 箱の外へ出た時に役に立ちそうな気がしますし、慣れるためにも今後この『秒』からの変換を行っていこうかと思います。


 試しに先ほどの数字を変換すると

『295444311』→『残り9年5月29日11ノ刻51分51秒』となります。

 これがどのくらいの長さかあまりわかりませんが、おそらくかなり長いのでしょう。

 とにかく扉の数字がなくなるまで出ることができないと思い、のんびり過ごすことに決めました・・・気長に待ちましょう。


ーーーーーーーーーー


 『295392629』(残り9年5月28日21ノ刻30分29秒)


 そういえば、とある本の事を記録するのを忘れていたのでそのことを書いてみます。


 空間の真ん中にはテーブルにちょうど良い手頃な箱があり、その周りには小さな箱があり椅子代わりに使っています。そこで食事をとるようにしているのですが、ある時に扉の字を写した本の横に別の本があることに気づきました。

 

 少し気になってその本を手に取って開いてみると、急に本が光り出し膨大の量の字が頭の中を駆け回り・・・そのまま気を失ってしまいました。


 目を覚ますと、箱の上には先ほどの光った本はなく新たに本が置かれていました。

 怖くなってしばらく近づけなかったのですが、観念して本を眺めてみると・・・読むことができました。


 この空間には以前から多くの字が(例えば食べ物が入った箱など様々な場所に…)あり私は読むことができなかったはずですが、目の前にある本の字を読むことができ、理解することができました。

 また字を書くことができるようになったため、記録をしっかりと書くことができます。

 おそらく、先ほどの本のおかげなのでしょうが・・・やはり不気味で素直に喜べませんでした。



 ただ以前から気になっていたこの『記録の本』の『最初の数枚に書いてある字』は『読むことができません』。いったいなんて書かれているのでしょうか?気になります。



 こうして、ときどき箱の上には新しい本が置かれるようになり(仕組みはまったく分からないです)多くの本を読み知識を蓄えていきました。外に出た時に少しでも役に立つように・・・。


ーーーーーーーーーー


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ーーーーー


 『280022400』(残り9年1日)


 この日、中央の箱を見てみると新たな本が置かれていました。


 本の題名『魔法の教本』


 思わず二度見してしまいました。なぜなら、私は以前からいくつもの物語の本を読んでいてその中に出てくる魔法に魅了されていたからです。


 魔法・・・そういえばこの空間も魔法で出来ているんでしょうか?それも難しいであろう高度な魔法・・・


 ・・・いやいや、そんなことを気にしている場合ではありません。とにかく目の前の本です。これを覚えて、魔法使いになってやります!


 と意気込んだのですが、本をめくってみると書かれていたのはほんの数枚だけで後は真っ白でした。

 何か素晴らしい呪文的なものがつらつらと書かれているものだと思っていたので、想像と違くて戸惑いましたが、気を取り直して読むことにしました。



ーーーーー


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ーーー


 『000043200』(残り12ノ刻)


 今日でいよいよ扉が開かれる・・・はずです。


 約10年間(記録上では)待ってようやくここまで来ました。

 もちろん、ただ何も考えず過ごしてきたわけではありません。

 毎回箱の上に現れる本を必死に読んで知識を蓄えていたのです。

 そして、なによりも魔法の練習です。こちらは約9年間です、・・・まあ失敗も当然ありましたが人並み以上に出来るようになったのではないでしょうか。

 とにかく、これなら外に出ても大丈夫!・・・なはず。


 何度も自分に大丈夫と言い聞かせているのですが、どうしても自信が持てません。なぜなら、私は他の人間・・・いや生物に会ったことが1度もないのです。 もちろん記憶がないので箱の中に入る前の事は別に考えていますが。

 そういえば、なんで私は箱の中に閉じ込められていたのでしょうか?

 以前の私は何か悪さをしたのでしょうか?そして、両親にこの箱に・・・?


 なんだか悲しい気分になってしまいました。あまりこのことは考えない方がいいのかもしれません・・・。

 いや!楽しいことを考えましょう!

 ここを出たら何をしましょうか?友達を作る?見知らぬ土地へ旅に出かける?家族と再会する・・・。いけません、なんだか不安な気持ちに・・・。


 こうして、喜んだり悲しんだりと繰り返していると時間が来ました。

 私は、この箱の中に閉じ込められている間ずっと考えていました。


 私は、何のために生まれたのか。


 その答えは今は分かりませんが、でもこの外の世界でいつか見つけたい。それこそが今を生きる理由であるような気がします。


 そして、あわよくば私が誰かの役に立ちたい・・・誰かの生きる理由になりたい・・・そう思いました。


 数字が全て『0』になった時、扉が開くと同時にいつか見た光が目の前を覆った。


 そして・・・私は気を失った。



ーーーーーーー


 目を覚ますと私は森の中にいた。


 草木が辺り一面生い茂り、光が眩しいほど照らされていた。とても静かです。

 うーん?私は確か箱の中にいたような・・・いや扉の外へ出ようとして・・・いけない、記憶が混在している。すこしずつ整理してみましょう。


 私は確かに箱の中に閉じ込められていた。その証拠に、出る直前に持ってきた大量の食料と記録をつけていた本などが入った荷物入れがある。

 ただ、その中に1通の手紙が入っていました。こんなもの用意していたかな? 一応読んでみることにしました。


『お久しぶり、ヒカリ!

 いや・・・今の君にとっては初めましてかな?元気にしてた?

 箱での生活はどうだったかな?

 なるべく不便のないように設定したつもりだったけど・・・。

 でも、そうじゃないよね?君が聞きたいことは。

 なんで、箱に閉じ込められていたかだろうね?

 だけど残念その答えはまだ教えることはできない。

 僕が怒られちゃうからね?

 だから、もし君が真実を知りたいのなら

 [コンサル大陸首都ルーブ 魔術ギルド]を訪れるといい。

 いつでも待ってるからねー。

 --ピェルより-- 』


 なるほど・・・私の名前は『ヒカリ』というんですかー。

 ・・・じゃない!

 ・・・なっ・・・何ですか?この身勝手な手紙は!

 文面を見る限り犯人です張本人です。記憶を奪ったのもおそらくこの人なのではないかと考えます。何か事情はあるのでしょうが、私にとって簡単に許されることではないと思います。

 箱にいた以前の記憶がない中、私ができることといったら指定された場所に行くしかない。無視することも出来るでしょうが、そんなことをしたら私は何も分からないまま過ごさなくてはいけない・・・両親に会うことができない。

 どうしてくれましょうか?・・・沸々と怒りが込み上げてきます。出会ったら一発特大魔法をぶちかましてやります・・・。



 少し時間が経ち、私は落ち着きました。とりあえず、どこか人里を探すことにしましょう。おそらくこのままだと野宿をすることとなってしまうからです。

 私はずっと箱というある意味安全な空間で住んでいたので、外でしかも暗闇の中で寝泊まりするなど考えられないのです。

 旅を始めるというのに今さら何を言うのかと思うかもしれませんが・・・これはこれ、それはそれ・・・です。


 といいますかここはどこなのでしょうか?今のところ誰とも遭遇していません。

 まさか、魔物の巣の近くではないでしょうね・・・。

 箱の中で読んだ本によると、魔王という強大な敵を打倒し比較的平和になったそうですが、残された魔物による被害は未だに無くならないと言われています。 いくら魔法が使えるからといっても、実戦でうまく使えるかどうかは分からないので少し不安です。(手紙の主に対して容赦する気は一切ありませんが)


 しかし、そんな不安も杞憂に終わります。

 目の前から現れたのは魔物では無く普通の男の子でした・・・ナイフを手にした。


「おいお前!」



---これが、おそらく今持っている記憶上他の人と初めて出会った瞬間でした。



補足です。


1話目の数字

『310996810』→『残り9年11月29日12ノ刻10秒』

3話目の記録を取り始めた時

『295444630』→『残り9年5月11ノ刻57分10秒』


この記録によりヒカリは閉じ込められていた期間が10年であると判断します。

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