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ダンジョン戦10

そして司は一度口を紡ぐ。言いたくないのだろう。だがそれでも言わないといけない。


「トリシュ。俺が負けても勝っても現実世界には何の影響もないんじゃないか?」


しかしそれが事実なのだとするなら、トリシュは何故自分を殺させようとしているのだろうか?影響がないのなら、現実の司がトリシュになるわけでもないし、勝っても司が強くなれるわけでもない。ただの時間の無駄である。


「無駄だから自ら盾になるような事を?」


「俺がそんなに有能なら、誰も殺さずにここから出てるさ。俺にゃそんなこと出来ない。シュウヤに勝つ方法がトリシュをぶつける事しかなかったからだ」


「それで盾になる理由にはなりませんよ!」


「叫ぶな・・・結構頭に響く。———回避まで意識を割いてたら勝てない・・・そう見えたから。せっかく2人で戦ってるんだからそれを最大限利用しない手はない」


ゴフッゴフッ!と咳き込み喉に溜まった血を吐き出す。


「馬鹿だ・・・あなたはとんでもなく馬鹿だ・・・」


「天才と馬鹿は紙一重って言うだろ? 見方を、視点を変えりゃ俺は天才・・・良い褒め言葉だ」


残った左手をトリシュに当て力なくではあるが、押す。


「ツカサ?」


「外出たところで持たないし、それ以前にここでの俺が死ぬだけで現実の俺が死ぬわけじゃない。本当に乗っ取れるなら、自称オリジナルのやつを倒して瞳さんだけでも助けてやってくれ」


割り込むようにシュウヤが口を出す。


「死ぬか生きるかなんても一番本人が分かってるもんだな。行ってやったらどうだ?」


「あなたが・・・こうしたというのに」


シュウヤは耳元を掻いてまじめに聞く気配がない。トリシュはその反応が気に食わず槍をシュウヤの首筋に当てる。


「斬ってもいいけど、どちらにせよその子は助からないぜ? 判断は———野暮だな。ここにずっといるのもよし、そいつの命令に従うもよしだな」


トリシュの口の中から悲鳴のような耳障りで歯軋りが鳴る。燃えていた時点で助からないのは分かっていた。しかし、ここが夢の中だとは言え自分がもし現実の司の中に入ったならどうなるか。


ここでの結果が現実で左右されないことが本当ならば何の問題もない。夢の中の司が死んだ時点でこの世界はセーブせずに消したゲームデータのように消えるはずだ。バグ技を使わない限り。


だが時間は進み続けている。見方を変えればそれは多少の影響は与える可能性があるという事でもある。


司がそれをどうやって知ったかトリシュには分からなかった。


槍を向けたまま考えふせていると、シュウヤはトリシュにさらに近づいて首元を掴んで十数メートルある出口の外に蹴り飛ばす。


「ぐっ・・・・・・!何を!」


「託されたんならさっさとそれに従えよ。ジェーンにも言われたろ。初めてここに来た時」


トリシュが出たことで扉が閉じていく。トリシュは悲鳴をあげる身体を動かしてガガガと引きずって閉まっていく扉に触れる。


「マスター!」


届くわけもないのに右腕を伸ばしていく。


「マスターマスターマスター!!!!!」


完全に扉が閉じてしまった。もう一度会うには戻るしかない。


地響きが遺跡内を駆け巡る。トリシュはこれはマズイと外へと向かう。


「くっ・・・はぁはぁ・・・!」


渇いた喉を唾を飲み込むことで抑え込み、3桁以上はあるのではと思いたくなるほどの段差を走っていく。


振り返れば足が遅くなる。もし埋もれたらそれでこそ司に申し訳がたたなくなる。


トリシュは無我夢中で階段を登りきり遺跡の外へと出ることができた。


膝に手をつけて荒々しい呼吸をする。


なんとか身体をあげられるぐらいに整えてから遺跡を振り返ると、何も言うことは出来なかった。


出来たのは、膝をついて放心状態になる事だけだった。


——————どれだけの時間が経っただろうと思う。


好きなことをしている時は時間が進むのが早く感じ。嫌なこと、面倒な事は長く感じるあれに近いものかもしれない。


埋まったツカサを助けようにも、跡形もない今の状況では時間がかかりすぎる。無理だ。どうあがいても。


——————さらに時間が流れて太陽が沈み太陽が昇るほどの時間が経った。


心の整理がつかない。いつもこうなる。ジェーンの時もそうだった。託されたとは言え、行ってきますと本人には言わずに行くことになった。


分かっているのだ。私が今やらなければならないことなんて。


「嬢ちゃん! 遅いと思ったらここにいたのか! 」


私の両肩に触れて声をかける店長を見ると、ジェーンの時同様に涙を流してしまった。


「うっ、うっ、うっ・・・」


店長は私を抱くと背中をポンポンと優しく触る。


「また・・・・・・なっちまったな。じゃあ分かってんだろ? 」


店長の言う通りやる事はわかってる。泣くのは後で幾らでも出来る。


もう二度とツカサを殺させはしない。少なくとも私のいる前で。


「・・・・・・うん」


「そうか。じゃあ行ってこい! 今度はこんな事起きない状況で来いよな!」


背中をバンッと叩いて喝を入れてもらい、立ち上がる。


「行ってきます! 店長!アキサメさんにもよろしくと言っておいて下さい!」


光に包まれた私は、ツカサの元へと銃弾のようになって空を駆けた。

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