ダンジョン戦6
——————走れ。痛い。無様でも走れ。痛い。倒すことは考えるな。痛い。俺になにが出来る。痛い。逃げたい。そんな場所ない。怖い。殺し合いなのだから当然だ。進め進め力の限り。僅かな命燃やして。———
一般の人間には数歩の距離だったが、この時の司にとっては非常に長い道の先でトリシュが見えた。
「——————トリシュ」
トリシュと敵は相対していたが、敵はよく分からないが熱量を持った光線を放っているようでトリシュは近づけないようでいた。
どうするべきか、トリシュの方に行ってあの光線を防ぎトリシュに決めてもらうか、それとも自分が敵に行くか。
倒せるかどうかはわからないが、熱量がどれほどのものかわからない以上近寄るのは危険だ。トリシュだから耐えれているのかもしれない。
だからと言って後者一択というわけにもいかない。光線を放っている腕は右腕。司の位置は今空いている左腕側だ。あれだけ速く動ける上、トリシュ以上の力を持っているのは先程壁にめり込んで別部屋に押し込まれた時に実感している。
「(どっちを選択しても俺へのダメはある・・・・・・どうすりゃいい? )」
トリシュの悲鳴が聞こえる。非常に小さい声だったが、聞こえた。聞こえてしまった。やるしかない。
司は敵に突貫をしつつ自分に憑依させたトリシューラを解除する。
憑依することで塞いでいた右腕から血が流れ出す。痛みは麻痺していたからなのか感じなかった。
「こんのっ! 」
マチェーテだった刃物は蛮刀に変わっていたが、得物の長さは変わらない。敵の左腕を斬るように右下から斜めに斬り上げる。
敵も左腕を動かし手首からナイフをスライドさせる形で取り出して司の攻撃を防ぐ。
「まあいいんじゃないか? 初心者にしては。だがちょっと大振りだ。もう少し小さく振るとお前の力でも良いところまで行けると思うぞ」
敵にアドバイスが出来るほど余裕があるらしい。自分が弱いことを知っているとはいえ堪える。
「それは・・・・・・どうもっ! 」
身体を回して今度は胴体に刃がいくように横に薙ぎ払う。
敵は司を見ることもなく得物の短いナイフ一本で余裕ですよと言わんばかりに司の攻撃は防がれる。
その間に光線を浴びていたトリシュはトリシューラを武器に戻していた。三刃刀だと出力の高い射撃攻撃は難しいのだろう。
槍に戻るとそれを回転させて盾のようにしつつ飛び上がり光線の範囲内から脱出する。
「目標確認・・・・・・・・・トリシューラ! 」
敵の放った光線とは色は反転した状態のものが放たれる。
敵はナイフに込めていた力を抜く。それに全力を出していた司は急に感覚がズレたことで、トリシュの放った光線を直撃する形で飲み込まれた。そして回避することはなく敵も共に飲み込まれた。
黒い光線も消えて先ほど司たちがいたところ駆け寄る。熱量が大きかった為か、地面の一部が溶けていた。
「ツカサ・・・・・・! 」
「一厘で十分だったな」
上を見上げると黒い片翼を持った敵が司を担ぎながら浮いていた。
「火力自体は前やった時のなんら変わらない。つまらないな。あの男に言われたことしなかったのか? 」
「それは・・・・・・」
「遠距離武器は味方の被害も考えろ。こいつは巻き込まれるのを理解した上で突っ込んでたからまあ今回はいいがな。それに出力で言えばこちらの方が大きいんだ。収束率を上げろ。火力じゃねえ貫通力を上げた方がお前さんには向いてる」
浮いた敵に担がれながら司は手足をパタパタ動かして抗議を始める。
「今のお前で落ちたら死ぬぞ? それでも良いならこちらは良いんだが、あとで降ろしてやるからこの位置でありがたい話を聞け」
すると萎縮したのか、パタパタをやめて1人寂しく泣きながら降ろして貰えるのを待つ。
「良い子だ。トリシューラ。もう一度チャンスをやる。俺に追加で一厘以上出させたらお前の勝ちだ。出れるようにしてやる」
槍を構え直すトリシュと司を担いだまま右手の黒炎を燃やす。
「・・・・・・トリシューラ!!!!!」
強く踏み込み槍から出る光線に加えて別の勢いを後ろから押すようにかける。
「ショット」
それだけ言うとトリシュと同じ量の光線が放たれ2人の光線がぶつかり合い、そして・・・・・・この部屋全体が高温に包まれた。