ダンジョン戦4
変形した右腕のみで全体重を支える。意識がないので、余計に右腕腕に負荷が掛かり折れるのではと心配になる。
いや変形した時点で折れていると見てもいいだろう。
そんな状態で司は先が何も見えない部屋でぶら下がっていた。
先ほどの部屋にいた人間は生きているのは分かっているだろうが、追撃をせずにトリシュの方に行く。
こちらにも司の時のように別部屋に飛ばそうとするのだろうか? それともタイマンを張りたいか・・・・・・。
司に僅かな時間とはいえ時間を割いたことで、トリシュはとりあえず程度のものではあったが、休息を取り戦えるレベルまで戻った。
今までのトリシュならば、司を助けに行っていただろう。しかしそれは出来なかった。それほど相手が強いのか、そちらに全てを割かないと勝てない相手と踏んだのかもしれない。
腕のバネを使い距離を取りつつ槍を握り直す。槍の全力を出させない戦い方を強いるのなら、それに適当な戦い方をすれば良い。
戦闘途中から変えるのは難しいが、距離があり構える時間があるならば出来る。これはトリシュがそれだけ鍛えているというのもあるが。
だから司がやろうとしても出来るわけがない。それだけのものを、ストックを持っていない。
「形状変化・・・トリシューラ。戦闘起動」
槍の形状が変わっていく。刃や刃近くの柄はそのままに大部分の柄は、槍から外れて1つの龍へと姿を変えた。
「あの時は操作できなかった。けど私だって成長しているんです。顕現せよトリシューラ」
トリシュの背後から龍が雄叫びを上げる。
蛇に睨まれたカエルのように動きを止める敵だったが、トリシューラが近づき始めたところで、初めて距離を取る。
反対側の壁まで下がると、右腕の包帯を触れながら口をゆっくりと開き始める。
「んじゃ、おいらも一厘ぐらい本気出すか」
「え・・・・・・」
あの時点では手札の1つも切っていなかったということである。流石のトリシュでも驚きを隠せない。
だが、包帯に秘密があるのは予想出来る。あれを剥がしきる前に決めるしかない。
トリシュとトリシューラは左右から挟み込むように三刃刀になった槍と、巨大な爪を振り下ろす。
「さあ! これがオレの一厘で出来る能力、地獄の鎮魂歌だ! 」
包帯を外した右腕から敵のひと回り・・・いやふた回り以上の大きさを持つ黒い炎が飛びでた。
「さあ、久しぶりに手札を切ったんだ。全力を見せろよ? お嬢ちゃん」
吹き出た炎を手の甲と手の平に凝縮すると掌底を放つ。
放った掌底からは先程の黒い炎がトリシュへと走っていく。その間にトリシューラが割り込むと、炎を全てその身体で耐えていく。
それを盾に炎の出ていない左腕側から三刃刀で薙ぎ払う。
「無駄無駄ぁ! 白兵戦はオレの得意分野なんでな! 」
腰からナイフを取り出すとそれで三刃刀を抑え込む。両手で薙ぎ払った筈なのに、何故片手の相手に負けるのか・・・・・・。
「くっ! まだまだっ! 」
すぐに刀を返し今度はもっと力が乗るようにと上から振り下ろす。
しかしそれも先程と同じようにナイフで止められる。
「正面から受けてやる。勢いつけてきな、お嬢ちゃん」
相手の言葉に乗るのは癪だったが、実際に押し切るにはそれしかなかった。
距離を離すと、そこでトリシュの腹部に敵の右拳が当たるところだった。
「敵を信用するな馬鹿」
その声で反応出来たトリシュはトリシューラと場所を変える。
移動したことでトリシューラは司が蹴り飛ばされた場所へと飛んでいった。5メートルは優に超える大きさがあったのだが・・・・・・。
「(まともに当てれば吹き飛びますね・・・あれ)」
右手を振ると今度はトリシュへと向ける。
「さあもう残機はゼロだ。ティウンティウンするんじゃねえぞ? 」
「ティウンティウン? 」
「気にすんな。今度は逃がさねえ!」
止まったら焼かれると横に走り出したトリシュを、敵は無邪気な笑みを浮かべて追いかけた。