プロローグ08
少女は男を逃がすまいと追いかけようとするが、司はそれを止めた。
「何故逃がすのですか!今回はあの男1人だったから良かったものの、多人数で襲われれば死にますよ!」
「分かってる」
「ではどうしてですか!」
「っく・・・・・・痛っうう。俺はお前のマスター何だろ?なら、まずは安全確保が先だろ」
司は痛みを堪えながら肩を借りている少女と話を始める。彼女からしてみれば男を排除しない方が安全を確保できないと発言する。そうだよね。何で司はここで逃がす方を選択したんだろう?分かんないや。これは、彼女も同じだろう。
司と少女の前に先程飛ばしたカオちゃんが戻ってきた。
「カオちゃん、どうだった・・・・・・?まっちゃんと話せたか?」
カオちゃんは首?を横に振る。キノやニア、カオルなど司を知っている者なら確実に通して貰えただろうが、大型の会社ともなると、やはりこう言うことが起きるか。まあ、カオちゃんは話せないからどちらにせよ難しいね。
少女に応急手当てをして貰った事で多少というか、普通に喋りやすくなった。結構な物受けたと思うんだが。
「そういや名前言ってなかったな。俺は、司だ。司書の司って書くんだけど分かるか?日本語ペラペラみたいだけど、見た目は完全に外国系だからさ」
「それ位分かりますよ。私だってここで暮らしているんですから。それにしても、マスター。外国系という言い方は結構差別してますよ」
「へ?そうなのか?」
「けど、人それぞれなので。私はそう感じたという事ですから」
司は口を手で覆ってそうかと自分の言葉の辞書に登録した。見た目で人を判断しないっと。
「んで君は?なんて名前なのさ?」
「私ですか?」
「おう、上下関係をつける為にも必要だろ?」
少女はまるで久しぶりに自分の名前を言うかのように少し溜める。そして、
「・・・・・・試作品7号。人名ではトリシューラと言います」
「トリシュ・・・・・・?なにそれ聞いたことないんだが。何かのゲームに出てくるモンスターか何かか?」
「そういうのもありますが、私の場合ですとインド特にヒンドゥー教の神が持っていると言われる武器の名ですね」
「なるほもなるほもトリシュねぇ・・・・・・ゲームのせいで西洋っぽいイメージだったなぁ」
自分の中の妄想と現実の違いに唸っている司をちらちらと見るトリシューラが目を向けているのはこのボロボロになった建物だ。気づいていないのか。トリシューラが当たり前な質問をする。
「それにしても、どうしますこれ」
「これって?・・・・・・あああ!そうだったあ!ここの他人の建物じゃん!だからあいつ逃げたんだ!」
「目の前にあるのに忘れるなんて・・・・・・」
いくら襲われていたとはいえ他人の建物に不法侵入し幾つかの物を破壊したわけだ。これは逮捕されてもしかたがない。
「どうしましょ!どうしましょ!?ホーチキツケテエっぶ!」
「そんなこと言ってる場合ですか!?そういう職の人とかいないんですかマスター」
「何でもやってくれる人なんて俺の近くにはいな・・・・・・いた。てか、俺そこで働いてんじゃん!何で思いつかなかったんだあ!」
走り回る馬鹿とそれを大きな溜息を吐きながら見る少女。この空気の差である。このままでは先が思いやられるような気しかしない。
「なあ、連絡手段とかないか?俺の充電切れでさ」
「一応あるにはありますが、これでよろしいですか?」
トリシューラはスマートフォンを胸ポケットから取り出し、司に渡す。うむ、なかなか個性的な機種だ。機能は通常の機種より少ないが、その分充電切れが少ない奴だ。充電切れの司のは、お察し下さい。使わなければ一日保ちますから。
司は、本社自体に連絡をする。松長本人にするのもいいが、それだとニアやカオル達も来てそのまま司の部屋で寝るとかいう恋愛シミュレーションゲームのような状態に陥る。今でさえトリシューラと名乗る少女がそばにいるのだ。司の部屋が爆発しても文句は言えない。
「もしもし。夜分遅くにすいません。少し片づけて貰いたい物がありまして。はい、出来れば今夜中に。はい、はい、場所ですか?ええと、ちょっと分からなくて。目印になるものはですか?寺があるとしか・・・・・・へ?分かりますか?ありがとうございます。はい、はい、ありがとうございます。お願いします」
「どうでした?」
「うん、なんとかなった。後は彼らがやるから帰れだって。そんじゃあなトリシュ・・・・・・あれ?」
司が歩き出した瞬間足がまるで折れたかのように曲がり倒れた。トリシューラは呆れており、当然だとでも言うような口調で言った。
「何しているんですか?試作品2号に殺されそうになっていたと言うことを忘れていたんですか?確かに私は手当てはしましたが、やったことは痛み止めを打っただけです」
「けど、それだけじゃ痛みなんて消えがあああああああああ!?」
「時間切れですね。家まで送ります。夜食お願いしますね」
「があああああああああ・・・・・・くっ」
意識が痛みで飛んだ司を背負い、トリシューラは司の家へ向かった。ん?なんで司の家知ってんだよ。と思うカオちゃんなのであった。