作戦14
「・・・・・・最後のチャンス、棒に振ったな。ゼロワン」
「あ、ああぁぁぁ・・・・・・」
鉄塊を手放してゆっくりと後ろに下がる。
「ゼ、ゼロワン・・・!下がって!」
「今のこいつにこれ以上の動きは出来やしねえよ。ゼロワン。自分の助けたい者を自分の手でやる感覚はどうだ?」
「違う、そうじゃない!俺は・・・・・・俺は・・・!僕は!お前を殺す気なんてなかったんだ。やりたくてやったんじゃ・・・」
ここぞとばかりに言葉責めを続ける。
「たとえ俺が呼んだとしても、トリシュ・・・だったか?そいつに手をかけたのはお前だぜ?ゼロワン。どうあがいてもこれは変わらない事実だ」
「ああ・・・・・・」
尻餅をつく司。やる気やそういう話ではない。目的だったことが泡になってしまったのだ。こうなってもおかしくない。
2人は使い魔2体に抑えられており、もがくが動けなかった。
「こんっの・・・」
「放せ・・・」
2人の力では抗うことは出来ずにただ見ることしか出来なかった。
「立てよ・・・。てめえらは俺の部下をやって来たんだぜ?自分が大事なものを失ったらもうそこで終わりなのか?ふざけんなよ」
蹴り飛ばす。受け身を取る気力もないのか、ただ転がっていく。
「俺がお前の使い魔たちを奪った時点でこうなる可能性は考えていなかったのかよ!俺よりも傲慢だなぁ!お前はさぁ!」
吹き飛んだ司を追うオリジナル。追いついては蹴り飛ばしてまるで球を転がしているようだ。
「ぐっ・・・・・・」
つまらないのか蹴るのをやめると、首元を掴み身体を持ち上げる。
持ち上げた司を左腕で維持したまま、右腕のディスクブレイドを構える。突き刺すつもりだろう。刃先が尖っていないとしても、勢いがあれば十分に可能なことだ。
「・・・・・・そいつの為に戦うってことは出来ねえのか?俺なら絶望するのは後にして今は目の前の敵をやる。逃げるなよ。ここに来た理由はなんなんだ。トリシュを助ける為だけか?それならこちらがもう一度狙ったときを狙えば良かっただろうが、1人は助けられなかった。ならもう1人は助けられるんじゃねえのか?」
それが出来ないと思っているから、余裕があるから、アドバイスめいたことを言っているんだろうか。しかし殆ど司には聞こえていない。
——————否。聞こえていないのではない。なら心が折れて塞ぎ込んでいるのか。それも違う。聞こえているのだが身体と心が一致しないのかもしれない。だから動けない。
舌を鳴らすと、誰かに向けてでもなく呟く。
「強者が弱者になることもあるんだな・・・」
刃先が近づいてくる。目で見ているが変わらず動くことは出来ない。
もうダメだと思ったその時、別の気配がオリジナルの背中を走った。
「——————!?」
使い魔がやられたのかと思ったが、本人の感覚にはそんなものは感じられなかった。つまり、別の誰かだ。
振り返る・・・それはオリジナルでも驚愕してしまうほど予想外のことだった。
なぜならば、トリシュが立ち上がっていたからなのである。司の一撃はトリシュに決まっていた。それも深々と。息はしていても、動けるはずのない傷なのだ。なぜ動いているのか分からない。
ディスクブレイドをトリシュへ構えるがトリシュは動くことはなかった。もしかしたら死後硬直で立ち上がったのかもしれない。だとするなら気配を感じるのは些か違和感を覚えるが。
だが、ありえない状況だったのもあり、オリジナルはディスクブレイドの銃弾をトリシュに向かって撃ち込んだ。
しかし弾が当たることはなく、弾は別の場所に飛んでいった。そう・・・槍が弾いたのだ。
「記憶のかけらか・・・っ!」
オリジナルへ近づいてくる。弾丸を装填しもう一度撃ち込むが弾かれる。
恐怖を覚えたオリジナルはトリシュから離れるように距離を取る。結果として司からも離れることになった。
トリシュはオリジナルをそれ以上追うことはなく、司の近くで倒れ込んだ。
力尽きたのか。いや、とっくの昔に力はとうに切れている。今は精神力で動いているだけだろう。
しかし、どんなに精神力が強くても動かす場所がなければ動けるはずもない。
そう・・・・・・足だ。足が消えたのだ。砂のように。機能を失ったのではなく、本当にその部位から消えたのだ。
それでも・・・そんな状態になってもトリシュは司へ向かう。それを見た司は。
「(俺がお前をやったのに・・・・・・どうして。どうして来てくれるんだ)」
悲鳴をあげる身体を動かす。トリシュが死に体で動いているのに自分が動かなくてどうするのだと。
2人が近づいて行くのを見て、放置する筈もなくオリジナルはトリシュに弾を撃つ。グシャッと嫌な音がトリシュから鳴る。だが止まらない。
装填発射。装填発射。装填発射。全てはトリシュと司のどちらかに当たっていく。だが止まらない。そして2人の手のひらが重なり合うと同時にトリシュの姿は完全に砂へとなって消えていった。