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プロローグ07

 念のため、司は振り返ってみると、よし、誰も追いかけてきてはいないみたいだ。ふう、良かった。けど、あの男は一体全体誰だったんだろう。司のことを知っていたようだけれど、司は知らなそうだ。まあ、確実に分かることは、誰かって言う事は確かだ。司は班員の顔は覚えてるし。あるとしたら、社員の人ってことだよな。


 今は見えないけれど、このまま安全に帰れるかどうか分からない。カオちゃんのように壁になってくれた人も本当のところは信用できないし。

「(少し迂回して帰ろう、そうした方が安全そうだ)」


 司はまず、いつも使う家の近くの高速レーンの手前で降り、そこから家に向かうことにした。家に直接帰ったら、モモやクルミに迷惑になるし。当然か。


 ダダダダダァという音が、どこからともなく足音が聞こえる。信じたくない。気のせいだと思いたい。高速レーンに人が走っているなんて。けど、音は近づいてくるばかりだ。


 振り返ってみると、司の後ろ数十メートル先に、男が走って追いかけて来た。怖いですね。軽く六十キロ出てる司のバイクに追いつきそうな速度だ。もう人間じゃねえ!

 

 やっぱり壁になってくれた人はカオちゃんのように一瞬の壁にしかならなかったということか。その前に壁になってくれた保障もない。


 司はさらに速度を上げるが、男はそれよりも段違いに速く、もうたったの数メートルしか離れていない。この状態で一般レーンに降りたところで、あの拳が飛んでくるだけだ。けれど、このまま走り続けても、追いつかれる。これは、八方塞がりとやらに入るのだろう。

「(ああっ!なんで本当こうなんのかねえ!面倒ですぜ全くよお)」


 もう駄目だ。お終いだ。司がこのままじゃあ、追いつかれて吹き飛ばされると思ったその時、予想通り司は吹き飛ばされた。

「ぐっ・・・・・・がっ・・・・・・ぐぅぅぅぅ」


 内臓の一つ一つが悲鳴を上げる。もし横腹ではなくてその上体勢が悪かったら、体にあるものを吐き出しながら吹き飛ばされていたかもしれない。まあ、今吐いているからそこまで変わらないが。

「うぅぅ・・・・・・」

「やーっと捕まえたぜえ・・・・・・試作品1号(プロト01)!」


 試作品1号(プロト01)というのは、多分司の事だろう。この状況でバイクの方を呼ぶはずないし、自分の名乗り方にしたら違和感がありすぎだ。試作品1号(プロト01)と言うことは、何かの実験体と言うのは明らかだ。けど、何の試作品なのだろう?司にずば抜けて出来ることなどないし、身体は会社で鍛えていても、せいぜい、逃げることを優先した身体付きとなっている。あるとしたら、カオちゃんなどを呼び出す力とかが、関係しているのだろう。他に要素なんてないし。

「無視はねえよなあ?まったくさ」

「・・・・・・ほぅぐうぇ・・・・・・」

「ああ、殴ったとこが悪かったか。すまねえなあ、一発で仕留めなくて。けどさあ、お前が悪いんだぜ?試作品1号(プロト01)。お前があの時逃げなかったら、今ここで苦しむ必要なんてなかったんだ」


 司は反応しない。痛みを堪えるので精一杯と言うのはあるけれど、まず誰か分からない人にいきなり言われたって理解できないのが普通だ。後は、逃亡経路を考え中。


 男は司が反応しない事に痺れを切らし、近づいてくる。このままだと本当に殺されかねない。丁度痛みも我慢すれば多少歩ける程度になったので、司は顔だけを上げる。

「・・・・・・あん・・・・・・た、いっ・・・・・・たい」

試作品2号(プロト02)だ。そんなことも忘れたのかよ。ショックだな。まったく」

「・・・・・・ぜろ・・・・・・つー・・・・・・?悪いが・・・・・・番号持ちの・・・・・・人は俺は・・・・・・知らないな」

「どうせ、お前はここで殺る。だから覚えてなくてもいいんだが、それだとこっちが気にくわないんでな。話させてもら・・・・・・っ!?」


 男は、何処からか飛んできた攻撃に反応し司から多少ではあるが離れた。今しかない。高速レーンには非常用の出入り口が幾つかの場所に距離別で設置されている。それが丁度司の近くにあったので、それを使って脱出した。


 まだ逃げ切れた訳じゃあないけれど、状況把握はしないと。司は腹部を抑えながら考えた。一つ男はゼロツーと名乗った。つまりは、何かの実験体と言うことは間違いない。それは、司にも言える。男曰く、司自身も実験体のようなのだ。二つ男は時速60キロ以上出せるのは間違いない。当時60キロ出ていた司のバイクに追いつくって事は、それぐらいは軽く超えられると言うことは間違いない。


 上ではまだ男の声が聞こえるので、戦闘が続いているみたいだ。司はここでやっと松長に電話するという考えが浮かんできた。

「まっちゃんなら・・・・・・どうにかしてくれるか・・・・・・ぐふっ・・・・・・」


 吐き出しながらも松長に連絡を取る司だったが、まさかのここで電池切れを起こしてしまった。これはまずい。


 出来ないことを嘆いたところで、電池が回復するわけじゃあない。今出来ることをやるだけだ。司はまだ戻って来ていないカオちゃんの代わりに、同じようなのを出した。

「召喚契約・・・・・・チェーンちゃん」

「チェコ!」

「さらに、チェーンちゃんを俺自身に同調(チューニング)・・・・・・!」


 その瞬間、袖口から鎖が出てきた。これで上の男の首を絞めに行くと思いきや、その鎖を壁に飛ばしてどこかの蜘蛛男のように移動を始めた。まあ、腕さえ動けば後は鎖がやってくれるような動きだし、下が動かなくてもいいって言う訳だ。


 しゅこーしゅこーしゅこーと頼りない音を出しながら一般レーンに降りたところで、男が非常用の出入り口から出てきて、司を睨む。 

「逃げんなよ・・・・・・逃げんなよ!」

「逃げんなって言われて逃げない奴がいるかよ普通。チェーンちゃんこのまま逃げるぞ」


 司は男の静止を聞かず、鎖を使って上がったり降りたりして撒こうと必死だ。けど、速度はそんなに早いわけじゃない。エンジンが司にはないから加速するには振り子運動しかない。

「(今ならまっちゃんのところに行けば撒けるかも)・・・・・・ぐふっ!?」


 男は飛び台がなければプロでも届きそうのない高さだというのにそれを何もなしで飛び、司を後ろから殴り飛ばした。

「逃げんなよって言ったんだがな。それにそんなペースじゃあタイミングを特定されるに決まってんだろうが・・・・・・」


 先ほどは司が数メートル程度しか飛ばなかった男の拳だが、今度は本気らしく、軽く百メートル近く飛んでどこかの、殺風景な寺に顔からぶつかった。ああ、住職さん涙目……。

「っ・・・・・・(まったくあんなん聞いてないよ。)どうする・・・・・・?」


 司は衝撃で左足を痛めたらしく、引きずっている。この状態での逃走は無理だ。男が馬鹿ならよかったがそんなに甘くない。どちらかというと司の方が悪いと思われる。どうしよ・・・・・・まじめに八方ふさがりじゃないか。


 逃げれないなら隠れるしかない。司は寺の奥の方へ隠れ息を潜めた。こんなことで撒けるとは思えないが、出来ることはやる。今頼りになるのは松長だ。司は帰ってきたカオちゃんを松長の所へ向かわせる。後は祈るだけだ。


 男が近づいてくる度に、司の心拍数は多くなる。呼吸も音を立てずにやるなんてキツいにもほどがある。ゲームとかでは一般の人でもやっているけれど普通は無理だと思う。


 カツカツという足音が遠くなっていく。離れていくってことは、他の場所を探しに行ったってことだ。そこで司は安心し息を吐いた。

(何とか助かったのか・・・・・・?とにかく今はここで待とう。それしかないよな)


 さっきまで男がいた方向からとは別の方向から、殺気が飛んできた。まさかと思うが一瞬で移動なんて出来るはずがない。ましてや足音を消してだ。多分別の誰かだろう。住職さんとか。


 後ろを振り返ると男が立っていた。司は悟った。もう駄目だ・・・・・・。司終了のお知らせだと。

「そんじゃあな。なかなか隠れるの上手かったぜ」

「嫌だ・・・・・・。死にたくない・・・・・・見逃してくれよ・・・・・・」

「それは無理なお願いだな」


 男の拳が司に当たり、司は即死とまではいかないにせよ、少なくともそれに近いレベルの損傷を受けるだろう。司の目から涙が出る。出たのは死ぬのが恐いだけではない。たった十数年しか生きられないこと、妹達が家を出るまで見られないことだ。

(ちくしょう・・・・・・ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう!)


 そして、男の拳が司の顔面に当たる寸前で男の手が止まった。止めたのは男ではない。ここの住職さんなのだろうか。けど、こんな時間に不審者を助ける理由がない。それに住職は大体男性のはずだが、この止めた人は司とほぼ変わらないぐらいの少女に見える。まあ、巫女さんの可能性だってあるが。


 少女はどこからともなく先が三本の刃が付いている槍を取り出し男へ差し掛かった。男も刺されては堪らないと少女の手を弾き後ろへ下がる。

「・・・・・・あなたが試作品1号(プロト01)、私のマスターか」

「へ?ますたー?なんで??俺はそんな偉い人間じゃ・・・・・・」

「ここにいる時点であなたが私のマスターだ」

「ファット?そんな無茶苦茶な・・・・・・。いくらなんでもそりゃ無理だ」

「何故?普通ならここに来ただけでは私はここには出てこないのだが。まあ、いいでしょう。詳しい話は後でじっくりとしていただくこととして、今はあの男をどうにかすることを考えましょう。マスター、最初の命令を」


 司は混乱していた。いやそりゃあそうでしょ?いきなりマスターだとか、命令しろとか、わけわかめでしかないね。そんな司の考えなんて関係ないとても言うばかりに、男がもう一度仕掛けてきた。もう、どうにでもなれ。司はそう思って少女に命令した。

「じゃあさ、撃退してくれ。出来れば殺さないで」


 了解のりょの部分で少女は男に攻撃を仕掛けていた。その速度は司には見えない程だ。


 少女と男の拳がぶつかる。ロボットアニメだったら火花が出そうだ。けど、まともに当たると腕折れそうな気がするが、鍛えているから関係ないのかな?


 男は少女の一発で何かを感じ取ったのか後ろへ下がる。

「ってめえどういうつもりだ。あいつからそいつを殺れって依頼がてめえにも来てるだろうが」

「そんなの関係ない。恩義は返す。それが私のルールだ」


 なら良い、と男は呟くと一瞬とまでは言わないが高速で姿を消した。



 



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