作戦3
扉を閉じてすぐの大広間に前に司たちのヘリを落とそうとした人物がハチの持っていた鉄塊をひと回り———いやふた回りほど大きい得物を軽々しく片手で地面に付けずに持っていた。
それを見たゼロスリーに先に行けと言われ、司は回り込むように階段を登り始めた。ゼロスリーはどうなったのか、司には知ることはない。
木下たちに聞けば知ることは出来るだろうが、必要はない。
階段を登っていると広間を途中で挟むような場所に出た。
特に敵兵はいないらしく。これならば行けそうだと走り出す。
半分ほど進んだ所で何か変な感覚に襲われた。身体が重くなったり吐き気を催すわけでもなく、ただ変な感覚という感じだ。
殺気というわけではないが、何かがあるというのは分かるため、周りを見回す。
それと同時に変化に気づく。ただの広間だった部屋に安く見積もって数十万は軽くいくソファーやテーブルなどが並べられこれはまるでここに住んでいるかのような人の気配が感じられた。
「結界で見えるものを変えたって感じか・・・」
小火器とナイフを手に持ちソファーに向ける。
人の気配はあるが、見える場所にいない。戦う気はないと判断しそれらを持ったまま広場を抜ける。
「やあゼロワン。いや、レッドフィールド」
「君は・・・・・・?」
「やっぱり覚えてないよね。それは当然か。虐めた方は忘れるものだもんね!けどぼくちんはあなたにされたこと血肉のように憶えているよ!」
階段前で少女に出くわす。この広間の主人だろうか?一度距離を取り銃口を少女に向ける。
「君はここの社員か?それとも自称オリジナルと同じか?前者なら退いてくれ。俺は人殺しに来たんじゃない」
「その傲慢さを償え!レッドフィールド!」
会話をするつもりはないらしく司に距離を詰めてくる。小火器で牽制しつつ後ろに下がって離れようとするが、弾を簡単に弾いて目の前に入る。
「っ・・・!」
左腕のナイフを振り上げるがそれも読まれてしゃがみで避けられて、しかし勢いは殺さずに腹部に身体を押し付けた。
銃が避けられるのは予想していてもナイフが避けられるとは思えず、受け身を取るのを忘れてしまった。
地面に叩きつけられ身体の空気が抜けていく。咳き込みと共に武器が手から離れてしまう。
少女に乗られて動けない司に説教をするように叫ぶ。
「何故そんなに・・・俺は君みたいな子に手を出した覚えは・・・・・・」
「本当に覚えていないんだね・・・・・・せめて覚えていたら懺悔させるだけで考えてあげても良かったけど、それなら教えてあげるよ。ぼくちんが味わったものをね」
ナイフを右肩に刺される。パワードスーツ越しとはいえ入っている。生身よりマシなだけで燃えるような痛みは腕を走る。
「こういう事だよ。もちろんこれだけじゃないけどね。2年前のこと覚えてる?」
痛みで声が出ない。元から答えさせる気などないのだろう。それかこのような状態で答えろという事か。
同じ部位をもう一度刺す。答えろ。ザシュ。答えろ。ザシュ。答えろ。ザシュ。答えろ。
同じ部位をやられ痛覚が麻痺したのか痛みを感じなくなっていた。
「たしか2年前はボスのところに・・・」
流れる血と共に記憶が流れ出る。
「そこでレッドフィールド、あなた何をしていた?」
記憶が文字に変換され音を出す。
「傍観していた。俺自身は何もしていない」
「そう、目の前で人が、私が犯されてるのを見ながら笑うことも怒りを見せることもなかった。前者なら即座に殺す。後者だった許しを請えば救ってあげなくもなかった。けどあなたはただ見ていた。動けたはずなのに何もしなかったんだ。そのあとどうしたと思う?」
「そこから先は記憶していない」
「投げ捨てられて望まない子供を堕ろして。そして2度とまともな身体にはならなくなったんだよ!あんたら差別主義者達のおかげでね!」
「差別した覚えは・・・」
「じゃあ区別?やられた方は同じなんだよ!差別も区別も!だから今度はぼくちんが君にする。同じことをね!」
「同じ?」
「君の妹たちを・・・・・・同じ目に合わせてやる」
それとこれは別だろう。やるならば俺だ。何故妹たちにやる。抜けていく血が止まり、身体を巡り始める。
左腕で少女を押し飛ばし距離を取る。
「そういうことをしたのは謝る。何度でもな。だがそれに妹たちは関係ない。お前が妹に関与するというのなら俺はお前を敵対勢力として見る。絶対に2人に手は出させない」
「そこでぼくちんが君の目の前で2人にやれば、そこで初めてぼくちんたちはわかり合うことが出来るだろうさ!」
注射器を右腕に差し込むと左腕に武器を呼び出しながら即座にそれを振り下ろす。
「わかり合う必要なんてないな」
「へっ、やっとやる気になったかい?」
「君はついでだ。さっさと追わせてもらう!」
ギィィンと耳障りな音が部屋に響く。鍔迫り合いなんてことはする気は無いので流すように、次の攻撃に繋げる。
「ゼロスリーに近い・・・!?」
「戦い方から見て君は前衛型じゃないな。俺を自分自身の手で殺したいからそういう行動をしているんだ。ゼロツーやゼロスリーたちと戦えば分かる」
武器の峰で少女の武器を弾き丸裸になった彼女を薙ぎ払う。
僅かに逸れたが、武器はもう見えない。司のように出せる可能性はあったが、振れる腕は後ろにある。間に合わない。
「てりゃあああ!!!!!」
右下から左上へ流れる武器を避けきることは出来ず、当たるという所で床が隆起し、司はバランスを崩す。
そのまま何かに顔を締め付けられる。光の入り方からして指のみだろうが、それでも充分な締め付けだった。
「あなたみたいに戦闘方法にこだわりなんてぼくちんは持っちゃいないんだよね!それじゃあやっちゃえ!狂戦士」
空に身体が浮く。
「がっ・・・・・・っく!」
受け身など取れるはずもなく、ただ司はその狂戦士の横薙ぎを流すことも出来ずにまともに受け、反対側の壁へと飛ばされた。