反攻作戦開始前
司と木下は会社に着くや否や、研究室に残ったパワードスーツをそそくさと身体に取り付ける。
「主任。どうですか?特化型にしたので軽量化していると思うのですが」
手首や足首を回し、腕や身体を伸ばすが特に違和感はないようで大丈夫だと答える。
腕を前に突き出したり膝を上げたりするが通常の行動にも支障はないようで調子に乗って飛び跳ねるがバランスを崩して床に伏せる。
「主任!」
木下が司の腕を肩に乗せて身体を持ち上げる。司はすぐに木下の手を優しく払うと、部屋に残っていた拳銃を腰のパワードスーツの隙間に入れる。
「やはりまだ動くのはやめておいた方が良かったですね。作戦開始ギリギリまで休んでおいて現地への移動時に装着した方が」
「どこから見ても俺が調子に乗っただけだろ。それにパワードスーツ着ておけばモルヒネとかロキソニンとかを使わなくてもこの傷のカバーしやすいしな。もし俺が無理して動けなくなっても、トリシュたちがいれば問題ないし」
「ですが・・・・・・」
ポンポンと頭を叩く。木下は肩をビクンッと動かすと、司を見直す。
「今度は1人じゃない。ゼロスリーやゼロツーとかいるんだぜ?トリシュと五分五分の2人が負けるわけがねえ」
「私が気にしているのは、トリシュさんたちを連れ去ったあの男です。主任よりも強力な力の持ち主ですし、もしかしたらトリシュさんが2人と五分だったのは主任の操作が上手くなかっただけかもしれません」
「それならそれで余計にあいつを狙えりゃいい。違うか?」
返事はない。もしこれ以上の人が死んだら、否。司が死んでしまった場合のことを気にしているのだろう。モモとクルミに示しがつかない。だから余計に敏感になっているとも言える。
「死ぬわきゃねえでしょうが。死ぬのならゼロツーにやられたときとかバスとかあの時に死んでるでしょ。だから大丈夫だって!」
今度は自分の頭をくしゃくしゃと掻くと今度は会社の武器庫に向かう。
「召喚はカオちゃんやチェンちゃんもいない状態でかつブックスがない以上ほぼ使えない。生身で戦闘になるだろうから武器は必須だ。キノが不安がるのなら少しでも武装するだけさね」
「本当は行ってほしくないのですが、2人のことを考えるとしょうがありませんよね。主任にはARよりはSMGの方が取り扱いも反動も考えて向いていると思います」
移動しながら顔を木下に向け司は問う。
「銃身が短い方が反動デカくないのか?」
「そうですね。ですが向かうところは室内です。狙撃戦なんて途中で開放された場所がない限り起きるわけがないですし、主任に狙撃自体向いていません。それなら軽くて使いやすくばら撒けるものの方が負荷的も良いかと」
「キノの見立ては当たるしお前のいう通りにするよ」
2人は武器庫に入るとテレビのリモコンのように長い弾丸の入った弾倉を10個ガンベルトと共に腰に巻きつけてSMGにも紐を付けて肩に通す。
一度SMGから弾倉を取って的に向かって構える。銃に付いたレーザサイトが的の中心に当たり光る。
「あんまりこういうのは実験でも使わないから、レーザポインタが有ると安心するなぁ」
「レーザポインタを使うのなら弾を無駄にはしないようにして下さい主任。いくら攻めてきたのが私たちだと向こうはわかっても、それを行う理由になった以上の行動は逆にこちらを振りにするので」
安全装置をかけてガンベルトの中に入れる。
「殺しに行くんじゃなくて助けに行くんだ。殺さずに無力化するために使うなら問題ないだろ」
「充分問題になると思いますが・・・今の優先はお2人ですし、気にしなくてもいいですね」
もう一度武器の状態を確認して安全装置をかけたのを確認すると武器庫を後にする。
木下の携帯のブザー音がなる。松長からだろう。彼女は電話を取ると、何度か頷き電話を切る。
「主任。準備が出来次第現地付近のファミレスで集合とのことです」
「ファミレス?最後の晩餐でもする気か?」
「とにかくそこに集まれとのことです。第一陣の整理を行うためだと思いますが、主任。どうなさいますか?」
小さく首を傾げてうーむと考え込む。この格好のまま店に入ると確実に質問を受ける羽目になる。子供が銃なんて持っていたら連行されるのがオチだ。
だが、準備が出来次第という言葉がある以上持っていかざるを得ない。どうするか・・・・・・。
考えているといつのまにかパワードスーツのあった部屋に戻っていた。そこで簡単なことを思いつく。
「脱ぐのは身体のことを考えると出来ないし武器も隠す必要があるなら上にただ着りゃあいいんじゃん!なんでそんなこと浮かばないんだよ!バカヤロー!無駄に時間使ったじゃねえか!」
司はパワードスーツの部屋に置いてあるパーカーを一度着てみて木下に違和感がないかを確認してからファミレスへと足を進めた。




