1週間目(6)
いつのまにか学校の机で寝ていた司を教師が資料集の角で軽く頭を叩く。
「いぎゃ!先生流石に角は痛いっす!」
「何度目ですか?授業中に寝たのは」
「何度目って程には寝てませんよ。黄昏れたことはありますけど」
ため息を吐くと授業が再開された。
「お楽しみなことでもしてたのかよ?司」
横から坂木声をかける。まだ付き合ってる人なんていないと首を振ると、オゥ・・・と下水道の穴から顔を出したピエロのような顔で、じゃあ1人かと尋ねる。
「何でそれを人に言わなくちゃ行けないんですかねぇ・・・」
「そういうってことは1人でやったんだな?気持ちは分からんでもないが流石に睡眠時間を削るのは良くないと思うぞ」
「助かりました。次もよろしく」
何言ってんのこいつ?のような目はされたが、それで会話が終わるのならそれでいい。キツイ言葉で終わらせるのはあまり良くはない。
しかしあの夢は何だったのだろうか?ゼロワンという言葉があった以上、司の可能性は高いがあんなことした覚えは本人にはなかった。
夢というのはいろんな経験が混ざりに混ざって出来た、まるで存在しない世界みたいな場所なのだから、想像したものを見ることだってあるかもしれない。
その割には夢での血が本物を感じさせるような感触だったが。ゼロツーたちとの戦闘で出血した時に手に血が付いたからその時のが印象に残っただけだろうと思う。
授業終了のチャイムがなる。松長たちと食堂へ行きそこで飯を食べる。金がないので口に入れるのは買ってもらった弁当ではあるが。
「司、向こう見ろよ」
「む。あれは瞳さんじゃないか。意外にも食堂を使うことに驚きを隠せないぞよ」
「ただ単に昼食が作れなかったからだろう。あんなことしてりゃな」
聞かれるとマズイので具体的な言い方はせずに司には分かる言い方だ。
「ニアたちが働にゃいていることばにゃしてなけにゃいいけど・・・」
「自分から首を絞めるようなことはしないだろうさ。コイツみたいにバカじゃない」
「は?スパアマコン決めるぞ?」
「あ“い”か“た”!!!!!」
「何やってるんだか・・・民度が低いなあ」
呆れるカオルと煽り合いの松長と司をにゃあはははと笑うニアだった。
すぐに冷静に戻ると、松長は「向こうが話しかけてくるまでは無視しろ。可能な限りの接触は学校では避けたい」との事なので食堂で彼女が外に出るまで、食堂に残った。
「まっちゃん先に帰っててくれ。食い過ぎたから屋上寝で消化する」
「それは構わんが、もう一度言うが瞳さんとは会うなよ?」
「へいへい。向こうから来ない限りは行かないよ」
司が走り出すと松長はニアに首を振る。信用していない訳ではないが、もしものことがある。特に今の司は自分の保身の為とはいえ敵対する人間を外に出していつでも会える状態だ。
司を放置なんて出来るわけがないので、ニアに任せたのだ。松長やカオルでは目立つのでしょうがない。
屋上に上がるとすぐにベンチに座って空を見上げる。
「うげーー疲れたーーここんとこ張り詰めてたし、こうやって肩の力抜けるのは楽だなと口に出してみる」
十数秒気の抜けた声を出した後、見る目を空から右手に変える。
「(夢にしては現実的というか実感があるというか。あの時に握った片刃剣・・・気になるな。出せるのかな?)」
右手に力を込める。うんともすんとも言わない。ただ手が力を入れた事で震えただけだった。
「うん。ぼくしってた」
夢で出来たからといって現実で出来るという証明にはならない。だが、ストックのカオちゃんチェンちゃんはここにはいない。あの時のようなことが起きたら対処のしようがない。
「逃げるの最優先なら気にすることでもないけどさ。カオちゃんたちが使えない以上もしあいつらか被害にあったらどうしようもないしなぁ。気が向く度に試してみるか」
何度か試して失敗した後ベンチから立ち上がるのとに続くようにそれを覗いていたニアも消えるように教室に向かう。