1週間目(5)
「この高度で飛び続けるのはもうキツイよ!ゼロワン」
「分かってる!けどこれ以上だとレーダーに引っ掛かる!あと数百メートルだから頑張って!」
海上すれすれを高速で移動するヘリで2人の子供が何処かに向かっていた。
「後200メートル・・・・・・今だ!キャノピー外して!」
「生きて帰って来てよ!ゼロワン!」
親指を立てながら海へと飛び降り数百メートル先の艦に向かって泳ぎだした。
「さてと、囮になりますかね!」
わざと高度を上げて敵に見つかるように飛行すると、向こうも即座に反応し迎撃機を飛ばす。
「いやあ豪華だねぇ!戦闘ヘリ1機に可変戦闘機二機なんてさ。ルーキーなのかな?」
チラつかせるように飛行しつつも迎撃機に攻撃を仕掛ける。
「さあ!僕を掘ってみろ!」
戦闘ヘリは二機の可変戦闘機を連れて真っ暗な空へと消えていった。
ゼロワンはそれに見向きもせずに泳ぎ続ける。向こうもヘリから海へ飛び込む人がいるとは思っていなかったようで、海の方の警戒は薄い。誘っている可能性もあったが、気にはしていられない。
艦に取り付くと背中に背負っていた物を艦にガムのように取り付けてから一度そこを離れる。
離れてから数秒後に艦が横に沈みそうになる程の爆発が起きる。
「こうでもしないと入れないから、本当博打だよ!はぁぁぁぷ」
ゼロワンはそこに吸い込まれるように中に入っていく。
中に入って周りを見渡すと敵も沈没レベルのものに驚きを・・・・・・と思ったが、敵はいなかった。
「(・・・・・・皮か)」
もう一度潜りハンドライトで照らしながら進むと艦の中に船が停泊していた。
「(警備がいないのはその為か)」
出航されたら巻き込まれてこちらだけの無駄死だ。海水で重くなったアンカーを飛ばして船の手すりに引っ掛ける。
これでとりあえず気づかれなければ今すぐには死ぬことはない。
アンカーのロープ部をゼロワンが握る度にギィイと音を立てる。その度に目を閉じてしまうが大丈夫だと自分に言い聞かせ上に登っていく。
何とか登りきると身を隠せる場所に静かに走っていく。
沈没の方に意識が向いておりこちらには気づいていない。ゼロワンは使い魔を呼び出すと逆方向から敵に向かわせる。2つ同時に意識を集中させれば先ほどよりも目立たずに近づけそうだ。
事実使い魔たちで手一杯だったのか、後ろから仲間が次々に床に倒れていくが、それに見向きもせずに使い魔たちに意識を向けたままだった。
2体の使い魔と共に船内に入って目的を探すが見つからない。攻撃してからそれほど経っていないのもありもしかしたら艦内にまだいるのだろう。
これが脱出艇なら敵はまたここに来る。そこを狙うのもありだが、今度は攻める側ではなく守り側になる。目的を優先するとしたら攻めを重視した方がゼロワンの実力的にも向いていた。
使い魔たちを左右に壁になるように付けながら、艦内に足音を爆音で消しながら走り込んで行く。
通路の途中で敵にぶつかるが、船で奪った銃で即座に横にさせる。
時々上手く息があった人間にどこに上司がいると聞きそれを何割か信じつつ進んでいくと、艦の規模を加味しても非常に大きな扉をゼロワンは見つけた。
残った爆薬を使い、扉を開けるとひとりの男が立っていた。
「こちらの目的は分かっているだろ。場所を言え。そうすればダルマ状態で許してやる」
「ほぼ死んでないか———」
「文句を言う時間はない。さっさと2人の場所を言え」
——————パッチン——————
上が崩れてそこからゼロワンに類似した容姿の子供が重火器を鈍器のように振り回しつつ降りてきた。
ゼロワンは一度通路に出る。連れてきた使い魔の一体の形状を変化させ取り回しの良い形の片刃剣を右手に構える。
「この子を倒せば自ずと分かるさ。ではまた今度会おう。行きて帰れればの話だかね」
「待て!」
男が瓦礫と共に消えていった。即座に追いかければ見つけられるだろうが、今の目的はそちらではない。
「さあ!オレがオリジナルだって言うのを証明してやるよ!」
「こちらは戦う理由はないし、時間制限のある戦いなんてメリットがない。逆ならやるかもしれないがな」
男はもういない。ならばここにいる必要はないので部屋を走って後にするが、そこ後をゼロワン似が後を追う。
「オレを見ろ!」
「興味ない」
「オレを見ろオレを見ろオレを見ろオレを見ろオレを見ろオレを見ろ!!!!!!!!!!」
「叫べば相手は引くということが分からないのか!そんなに相手をして欲しければ。わたしの目的のある場所を言え」
「うるせえ!」
銃器を振り回しながらゼロワンへと向かうがゼロワンは当たり前のように距離を取る。
「——————」
急に声が掠れる。何故だか分からない。
「司君。司君」
誰かが呼ぶ声が聞こえる。身体が引っ張られる。ああそうかこれは記憶を再構成した夢だったのか・・・。
身体の引っ張りに逆らわずに夢の海から引き揚げされた。