プロローグ04
この会社の緊急治療室は入る前にエアシャワー浴びメディカルチェックも、入念に行う。あるのなら当然だな。割り切れれば、メディカルチェックなんていらないが。
そして、司はそれをスルーする。ちと待て、スルー出来るんかいな!というか、スルーしちゃあ駄目だろ!感染症対策どうすんの?
……もう突っ込まないでおこう。この会社問題ありすぎ……。
治療室中央に配置されたベッドを囲むように器具備品が置かれている。他の医療スタッフが準備してくれていたみたいで、遺体は、シートを被せた状態でベッドに置かれている。シートを外した瞬間司の目に入った光景は、一言で表すとどうやったらこんな状態になるのだろうかと思うレベルである。もう規制レベルを超えている。放送禁止レベルだ。よく、運べたなと思ってしまう。普通ならトイレに直行だな。
「……………………………」
司は声さえ出せず、立ち尽くしている。けれども、仕事を受けたからには、完了するのが常だろう。司は吐き気を催しながらも、ポーチから司が乗っているバイクの燃料を取り出した本を取り出す。使うページとかあるのか、ペラペラとめくり白紙の部分が見えたところで、司は1度深呼吸をして、ブックスと呟き、そして、
「対象、目の前の少女。その魂をこの体に呼び戻せ。下級契約」
周りが眩い光に包まれる。それにしてもすんごい厨ニだな。本人が赤くなりながら言うのも分かる。そして司は少し震えている。能力の関係上そうなるのかどうかは分からないが、恥ずかしいと寒気するよね。一瞬ぶるって震えるよね。
光が収まると、放送禁止レベルの状態だった少女は、服に血が付いていたり、服が千切れていたりするものの、先ほどよりはまともになったと思う。どれくらいまともかと言うと、人によっては、規制のかからないレベルになっている。
それを待っていたかのように、少女は微かに目を開く。それに気づいた司は、起きたか。大丈夫か。と言う言葉をかける。少女にとって声が小さかったのか、反応がない。漫画で見たことあるけど、起きた直後って聞き取りにくいのが大体だな。反応がないのも、それが原因かもしれない。
少女は目だけを動かし、司を見つけると口を動かす。声が出てないまたは、小さくて聞き取れなかった為、司は耳を少女に近づけるが、やはり声は出ていない。さて、どうしたものか。
そういえば、先述の物ではブックスが必要だ程度しか説明してなかったな。まあ、あの時は例えの話であって司については詳しい話をしていなかった上、例え話が長いのは余計だし、良いとしようか。
司が現在ブックスなしで使えるのは、召喚契約のみである。だからバイクの燃料を出すにも必要な訳か。燃料は生物じゃあないもんね。大変だあ。そして、ブックスを使って出来るのは、先ほどの下級契約。それの上位互換の中級契約と上級契約の三つである。あれ?ネクロマンサーって召喚系なら何でも使えるんじゃあないの?かなり少ないな。リミッターでもあるのかな?リミッターとかどこかのチーター主人公かな?
うーむ、どうしたものか。話せないのはまずい。下級契約は180秒しか生存できないし、タイムアップが来ると、灰になるんだよなあ。無理やり中級契約や上級契約にすることも出来るけど、両方とも相手の意思なくやると面倒くさいし、その前に条件が厳しいし……。
少女は手を動かす程度のことは出来るみたいだ。司はよし、と小さく頷いて、ブックスに胸ポケットのペンを使い、何か文字を書いてから少女に渡す。意識はそこまで朦朧としてないみたいで、反応が先ほどよりはある。残り時間は60秒前後。間に合うか?普通なら60秒あれば書けるが、少女は怪我人。そんなに早く書けるとは思えない。見せてそれで反応を見るのかな?
少女はブックスをまじまじ見て、内容を理解し了承したのか、首を縦に振る。でも、何の契約を使うんだろ?まあ、了承したっていうことは、ブックスに書いてあることが中級契約でも、上級契約でも、構わないっていうことなんだろうね。
司は下級契約のときのように深呼吸し、先ほどでは見られなかった目になり、もう一度、ブックスと叫ぶ。さっきは呟いた程度だったのは下級契約だったからで、強力になればなるほど恥ずかしい台詞を言わないといけない。黒歴史まっしぐらだね。
「対象、蘇生させた少女。我に従え!上級契約」
少女は先ほどのようには光らず、本当に成功したのかと思いたくなるぐらい変化がない。けれど、司はふう、終わった。こりゃまた大変なことになりそうだと、ため息を付き、部屋をでる。もちろん、この時もエアシャワーは浴びない。変なところは徹底してるな。
「そんなこんなでどうだ?司。蘇生は成功させたか?」
「成功したのはしたんだが、何で俺わざわざ下級契約使ったんだろう。依頼内容は蘇生だったのに」
「お前はいつもそうじゃん。自分の評価よりも人権を優先する。相手が望まないことは基本しないもんな」
「死んだ人を生き返らせる時点で人権なんて無いもんだろ?普通なら」
「ああ、そうだな。まあ、後は任せろ。お前はゆっくり休め。明日も学校だし」
「そうさせてもらいたいのはやまやまなんだが、ニアやカオルに後から仕事に行くって約束しちまったから、その後帰る」
司はそのままニア達のいる仕事場へ向かった。松長は、司が見えなくなった後、頭をぽりぽり掻きながら呟いた。
「ほっと、変な所だけ約束守るんだよなぁ。お前はさ」
そして、治療室に入っていった。……っておい、あんた社長さんだろ!エアシャワーぐらいは浴びろよ。この会社は何がしたいんだか、まったく分かんねえよお。