3日後5
銃の反動で少しヘリが揺れるほどの衝撃が走る。弾はでかいとはいえ人間の反応できる速度ではない。
・・・・・・筈だったのだが、試作品は弾が飛んで来てから回避した。いくら銃口が目の前にあると言っても、避けれる訳がない。ましてや空中で。
木下の舌打ちをしながら次の弾を装填してもう一度撃ち込むが、簡単に避けられる。
試作品がゆっくりとだが確実に近づいてくる。木下も流石に焦りを隠せず、狙撃も安定していない。それでも相手の頭部付近を狙えているのは驚くことだ。
「キノ・・・!」
「黙って!そちらに意識を向ける余裕はないんです!」
「主任。シートベルトをご着用願います。隣の娘さんにも」
「もう付けてる。どうするんだ?」
「一度高度を下げます。そこから一気に上昇して少しでも距離を離します」
「出来るのか?」
「急速でやるのは初めてなんで安定は難しいですが、やってみせます!」
ヘリパイロットはレバーを倒して高度を落としていく。これぐらいでは試作品から離れることは出来ない。
まだ高度を下げていく。ビルの間から風が吹いてヘリが揺れる。それでも下げる。
「横!」
バランスを崩す可能性が高くなる高度下げに加えてヘリの向きを横に変える。元から落ちていた高度がさらに、そして急速に落ちていくが、それのおかげで木下の重火器を相手に対して垂直に向けることが出来た。
「3・・・2・・・1・・・限界です!上げます!」
ヘリが縦に戻ると試作品とすれ違う。その僅かな時間に弾倉に残った弾を撃ち込む。変に避ければヘリのローターに巻き込まれるのもあり、試作品は手に持った蛮刀を木下に向けて投げ飛ばす。
木下は重火器の肩当てを即座に蛮刀の方に向けてそれではじいた。
試作品も別の蛮刀で弾をはじきヘリから離れていく。
「安定は捨てていいから、限界高度まで一気に上がって」
「了解!副主任」
また試作品が飛んでくる可能性は高い。可能なかぎり———無論安定が保てればそれでも構わないが、それではやつを振り切れない可能性もある———高度を上げてその上安全高度以上まで上げさせる。
重火器を棚に収めて固定ベルトを外すと、ヘリの扉を閉じて助手席に腰を下ろす。
「センサーには反応はありませんね・・・主任なんとか回避できたようです。ですが念のため迂回してから本部に戻りましょう」
「・・・・・・」
司は何も返さない。何かがあったのか?後ろを振り向くと、瞳と共に片側の肩同士を当てて眠っていた。怪我や仕事の疲れもあるのだろうから、これぐらいはしょうがないだろう。状態からそう判断して、木下たちは会社に向かった。
ちょうどその時、地面に落ちた試作品はもう一度追いかけるために飛び上がろうとしていた。
地面が軽く揺れるほどの助走も加えて一気に飛び上がるつもりのようだ。
「やあ。どこぞの所属か知らないもの君。君をゼロワンの所に行かせるわけには行かないから、僕と遊んで貰えるかな?」
飛ぶために走っていた試作品の横をゼロスリーが横並びに現れた。
優先順位は司だと口には出さないが、無視して勢いを増していく。
「行かせるわけにはいかないって言ってるでしょうが」
ゼロスリーは試作品の前に出ると、壁になるように前を塞いだ。
押し飛ばしてでもそこを抜けようと走るが、こんなことでわざわざ速度を落とすのはもったいない。だが、無視して飛べば勢いが足りないだけでなく、飛んでいるところを邪魔される可能性がある。ならば・・・というかのように、地面を砕きながら止まり、ゼロスリーに殺意を飛ばす。
「よかった。相手をしてくれるんだね。それじゃ行きますか」
ゼロスリーの刀と試作品の蛮刀がキィイインと耳障りな音を立てながら戦闘を始めた。