3日後2
ああ・・・・・・やっちまったぜ。全くよお。けど家族を守れたんだからいいや。
即死でないのが良かったか悪かったか。最後に妹の顔が見ることが出来た。欲を言えばクルミもそばにいて欲しかったが、どちらかを見ながら逝けるのならまだいい。
床の方が暖かく感じて来た。もう死ぬ寸前なんだろう。妹の泣き顔を見ながら行くのは嫌だが、なったしまったものはしょうがない。
「司兄ぃ!司兄ぃ!起きてよ!お“ね”が“い”だか“ら”!
——————」
死にかけの人間でも苛つく程の大声が途中で止まる。何があったんだ?
僅かに動かせる首を動かして周りを見ると、モモは俺に倒れ込んでいた。
何故とモモを見ていくと、背中に俺の身体に刺さった矢と同じものが刺さっていた。
「——————司兄ぃ・・・・・・」
ああぁぁぁ・・・。
よくもまあやってくれたな。俺だけならともかく、モモを、妹に手を出した事、後悔させてやる。
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「ごふっ」
「マスター!!!!!意識が・・・」
「トリシュ、ガレージまで俺を守れ。そのあとモモとクルミを俺の会社まで運んでくれ。俺のカードを渡すから、それを使えば入れる筈だ。俺は囮になる。今の俺じゃ妹たちは運べない。ゼロツーは上での戦闘でこっちには回れない。だから」
「ですが、ツカサでは・・・!」
「確かに無謀だろうな。けどな妹に手を出してくれた以上、誰であろうと容赦はしない。今日までの成果を見せてやる。多分相手は一度に射てる矢の数は一本と限られてるみたいだ。もしそれ以上射てるのなら最初からそうすればいい」
腹部に刺さった矢を抜きながら、モモを床に優しく置いて司の着ていたパーカーをそっと掛ける。
ガレージに向かいバイクを吹かす。あれからまともに整備はしていない。だが、ただ走るだけなら問題ない。
シャッターを開き終わる前にフルスロットルで家を出る。完全に開くまで待っていればまた射ち抜かれる。それを回避するのも兼ねての行動だ。
近所迷惑不可避な程の騒音と共にバイクを走らせる。
「(誘導型の矢だとすると、20から30ぐらいの距離からしか射てない。ゼロツーのように得意な力があっても良くて数百メートル。飛んできた方向さえわかればこちらのものだ。問題はゼロツーがどれだけもう1人を抑えられるかって言うのが重要だ)」
後ろの風の流れが変わる。多分矢が飛んできたのだろう。誘導がかかるとはいえ、何かに刺さってしまえば、それで止まる。移動はされるだろうが、バイクの速度には勝てるわけがない。勝ったのはゼロツーのような例外だ。普通はありえない。
もうすぐ当たるという位置でバイクを倒し矢を避ける。その勢いのまま逆走して矢が飛んできた方向へと走る。
矢は後ろからしかこない。やはり矢がそのまま何処かに刺さらないと追加で誘導のきく矢は射てないようだ。そして強制的には別のものには刺せない。射つ前の目標しか狙えない訳だ。
『ツカサ、モモさんとクルミさんを連れて今向かいました。到着するまでお願いします』
「分かった。なあトリシュ、お前なら誘導兵器を使うときどう使う?」
大体の方向は予想出来たが、場所までは出来ていない。確保する為にもこちらが攻撃側だった場合のことを考える。
『先程ツカサを貫いた矢の形状からして、推力を生み出すようなものはありませんでした。それでも誘導がかかるとなると、高層ビルの密集した場所から放っていると思われます。そこから曲射ならば勢いを付けつつツカサを狙うことが出来ます。細かい操作は自動で行うので』
「高層群か・・・行けるな。トリシュ2人のこと頼むぜ。それとゼロツーはどうか?」
『襲撃者を確保し、輸送中です。彼も入れることになりますが、どうなさりますか?ツカサ』
「どうせ俺の場所なんて知られてる。が、入り口までで帰らせてくれ。流石に中までは入れさせるわけにはいかない」
『分かりました。ツカサ、無茶だけはしないようにお願いします』
「まず囮をやってる時点で充分無茶だがなぁ。分かってる。オーバー」
バイクに取り付けた無線機でトリシュとの会話で司にも熱が入る。
次にまっちゃんのところに連絡を入れる。中々繋がらず、連絡が入らないのかと思ってしまう。
矢から逃げながら、三度目の通信を送るとそこでやっとまっちゃんと繋がった。
『何だよ!こっちは仕事中なんだが!』
「主任である俺が死んでもいいのなら構わないぜ?木下に繋いでくれ」
『あいつは俺より忙しい。あと1時間は待ってくれ』
「ちっ・・・ならバイクの整備頼むぜ!」
『せ、整備?それってどういう・・・』
連絡を切りながら横についているスイッチを押してフレームを開く。すると前に開いた時とは違い別のエンジンの排出口が飛び出て火を噴き始める。
60、70——————180・・・メータが示しきれないほどに速度を上げていく。
自動車輸送車にその勢いのまま乗り上がり、飛び上がった。それとほぼ同時に先ほど開いたフレーム横に広がり翼のようになり、そこで何と空を飛んだ。一時的に飛んでいるわけではなく、本当に飛んでいるのだ。高度も上がっていく。
バイクでそんな速度を出せば運転手は吹き飛ばされるが、身体とバイクを鎖で繋ぎおいていかれないようにしていた。
「相手が上にいるのなら、俺はさらに上を取る・・・!見つけた!それじゃ行きますか!」
直線方向にその矢を射った相手だと判断した司はそこに急降下していくように近づいていった。